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第二章 突然の求婚

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 モーリスは、不審そうにしている。私は、必死で取りつくろった。

「あ……、ごめんなさい。ショッキングなことがあったせいで、混乱しただけよ」
「……そうでございますか」

 まだ腑に落ちなさそうな表情で、モーリスはブローチを元通りに鏡台の上へ置いた。

「エメラルドは、嬢ちゃまの赤い髪によくお似合いというだけでなく、『愛の成就』という意味も持ちますからねえ。お相手があのバール男爵では、亡き奥様もお嘆きだろうと思ったものですが……。今度こそは、アルベール様相手に効力を発揮して欲しいものです」

 納得すると同時に、私はほっと胸を撫で下ろした。今はどうにか切り抜けられたが、記憶が無いことを悟られないよう、慎重にならねば……。

「だといいわね。ありがとう」

 私はブローチを、いつも入れているチェストの引き出しに、大切にしまった。すると、またノックの音がした。侍女の一人だった。

「モニク様。旦那様が、急いで応接間へ来るように、とのことです」

 瞬間、体がこわばるのがわかる。昨夜の件について、聴取されるのだろうか。

(大丈夫よ。アルベール様も口裏を合わせてくださるし、落ち着いて……)

 急ぎ足で部屋を出て、応接間へと向かう。ノックをして扉を開けた私は、ドキリとした。お父様、バルバラ様の他にいらっしゃったのは、何とアルベール様だったのだ。

「……いらしていたのですか。ごきげんよう、アルベール様」

 平静を装いながら挨拶すると、お父様は私に座るよう命じた。何だか、困惑しきったご様子である。

「えー、モニク、そのー。使用人たちの間で、えー、大分噂になっておるようだが。こちらのアルベール様との噂は、そのー、まことか」

 思わず、「えー」と「そのー」の回数をカウントしたくなってしまうくらい、お父様は動揺なさっていた。

「隠していて、申し訳ございません。本当でございますわ」

 そうお返事すると、お父様は今度は「うー」と言ったきり、しばらく黙り込まれてしまった。ややあって、言いにくそうに口を開かれる。

「あー、実はだな。そのー、本日アルベール様が我が家に来られたのは、うー、そのー、お前に、えー、結婚を、申し込みたい、とのことだ!」

 『勇気を出して言えたぞ!』というお父様の魂の叫びが聞こえてくるようだ。可笑しい気もしたが、私の頭の中は『結婚』の二文字でいっぱいになって、それどころではなかった。

(恋人のふり、だけではなかったの? アルベール様、どういうおつもり……?)
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