<完結> 公爵家執事は種馬に指名される。

ぜらちん黒糖

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①嵐の予感

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 侍女の一室で、激しくもつれ合う二人の男女がいた。

「セシル、愛してる」

「私も愛してるわ、マイケル」

二人は互いに名前を呼び強く抱き締め合って果てた。

力が抜けたように互いの顔を見つめ軽くキスをする。

窓の外が薄っすらと明るんできた。

マイケルは、掛け布団を捲りそっとベッドから抜け出ると服を着始める。

そんなマイケルを眺めながらセシルが声をかけた。

「もう戻るの?」

少し彼女の方を振り向き答える。

「ああ、今朝はお嬢様を学校へ送らないといけないからね」

その言葉を聞いて、少しイラっとするセシル。

「マイケル、ビセットお嬢様のこと、どう思っているの?」

「どうって?」

じれったそうに声を出すセシル。

「女性としてどう思っているのかって聞いているの」

驚いた表情で答えるマイケル。

「何を言い出すかと思えば、君はお嬢様に対して嫉妬をしているのかい?」

セシルは唇を尖らして呟いた。

「嫉妬しちゃ悪い?」

服を着替えたマイケルがベッドに横になったままのセシルにそっと近寄り、額にキスをして言葉をかけた。

「悪くはないけど、そもそもお嬢様と俺とは身分が違う。だけど嬉しいよ、君が嫉妬してくれて……。だってそれは、君が俺のことを愛しているからこそ芽生える感情だからね」

マイケルはさっとベッドから離れると鏡の前に立ち、身なりを整えセシルに振り返り尋ねた。

「どう?どこか変?」

セシルはうっとりするような眼差しで言った。

「ううん、大丈夫。今日も執事服は似合っているわ、マイケル」

マイケルは笑みを浮かべると、ドアの向こうの気配に耳を澄ませ、静かにドアを開けて出ていった。

その後セシルもベッドから抜け出して仕事に出る支度を始めた。


❖❖❖


マーシャリー公爵家食堂

上座に当主のゲイリックが座り右側に夫人のマリアン、左側に娘のビセットが座っていた。

執事のマイケルが合図をすると、侍女は空いた食器を下げるのと同時に、新しい料理を並べた。

その様子に満足するゲイリック。

「マイケル、今日の私の予定はどうなっている?」

執事が淀みなく答える。

「本日は午前中にカタルス領から、村長ミゲル様が陳情にお見えになります」

ゲイリックの表情が曇る。

「あいつが来るのか……今度は何を言い出すのか、ちと心配ではあるが……」

「午後からはセミン男爵夫人がお越しになられます」

ゲイリックが横目で夫人のマリアンの横顔を見る。夫人は黙々と食事をしていた。ゲイリックはほっとして口を開いた。

「セミン男爵夫人か……ああ、確か領地経営について聞きたいことがあるとかなんとか言っていたな、おそらくそのことであろう」

その時マリアンが口を挟んだ。

「グレイスとは……久しく会っておりません。私も同席いたしますわ、旦那様」

『旦那様』でゲイリックの方を振り向いたマリアン。眼力が強かった。

「あ、あー、それはどうかな?彼女にも自分の領地の悩みごとを私以外の者に聞かれるのは……嫌なんじゃないかな?」

マリアンが冷めた表情で提案した。

「ならば今日は天気も良さそうですし、テラスでお話なさればよろしいのでは?旦那様」

『旦那様』で再びゲイリックの顔を見たマリアンの視線に負けて、うなだれるようにゲイリックが返事をした。

「そうだな……そうしようか、はは」

気まずい雰囲気の中でビセットが「ごちそうさまでした」と言って席を立った。

「では、お父様、お母様、学校へ行って参ります」

「ああ、行ってらっしゃい」

ゲイリックに続いてマリアンも声をかけた。

「気をつけてね、学校では顔だけが良い男子には気をつけるのですよ?ビセット」

苦笑いをしてお辞儀をするとビセットは食堂を出ていった。

マイケルが口を開く。
「では旦那様、お嬢様をお送りに行ってまいります」

頷くゲイリックとマリアン。そしてそこには無表情でマイケルを見つめる侍女セシルがいた。
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