<完結> 公爵家執事は種馬に指名される。

ぜらちん黒糖

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④未亡人の提案

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 馬車がマーシャリー公爵家の玄関前で止まると御者が急いで降り立ち、そっと馬車の扉を開けた。

颯爽と降り立つグレイス夫人の目の前にマイケルが現れた。

「ようこそいらっしゃいました、グレイス様」

「ええ、ごきげんよう」

マイケルにとってグレイス夫人は予想以上の美人だった。熟女の色香が漂うような、妖艶な雰囲気がマイケルの理性を揺り動かした。

「ど、どうぞこちらへ」

(しまった。俺としたことが緊張してどもってしまった)

マイケルは玄関扉を開けてグレイス夫人を中に招き入れると執務室へ案内した。

ドアをノックして声をかける。

「旦那様、グレイス様がいらっしゃいました」

「うん、中へどうぞ」

グレイス夫人が執務室へ入った瞬間のゲイリックの顔を見たマイケル。

上気した顔でグレイス夫人を見つめる主人を見て、マイケルは確信した。

『旦那様は間違いなくグレイス様のことが好きなのだと……』

ゲイリックが上機嫌で話しかける。

「グレイス、久しぶりだな、元気だったか?」

「そうでもありませんわ。昨年、主人を亡くしてしまいましたので……」

慌てて謝るゲイリック。

「あ、そうだった。すまない、グレイス」

「ふふ、気にしていませんわ。もう過去のできごとですから……」

そしてソファに座ろうとしたグレイスに慌てて声をかけた。

「テラスへ」

「はい?」

「テラスへ行こう。テラスにお茶の用意がしてある。そこで話をしよう、な、グレイス」

グレイス夫人はにやりと笑ってゲイリックを冷やかした。

「マリアンね?」

「え?」

「マリアンがテラスで話をしなさいと言ったんでしょ?」

ゲイリックが大げさに手を広げ言い訳をした。

「まさかあ、妻は関係ないよ。今日は天気が良いから外でお茶でも飲みながら君と話をしたかった。それだけさ」

グレイス夫人が鼻で笑う。

「相変わらず彼女の尻に敷かれているのね、ゲイリックは」

「まあまあ、何のことを言っているのか分からないが、とにかくテラスへ行こう」

ゲイリックが自然にグレイス夫人の手を取りテラスへ向かった。

それを目の当たりにしてマイケルの胸に、締め付けられるようなざわつきが沸き起こった。

胸元で拳を握りしめ、足を止めた。

(なんだ、この感情は!)

(グレイス様の手を旦那様が握った瞬間……俺の胸がもやもやした)

無関心を装う表情が崩れたことに気づき、初めてのこの感情にハッとした。

(俺は旦那様に嫉妬をしたのか……グレイス様の手を握った旦那様に……)

生まれてこのかた、女を心から愛したことのなかったマイケルが、初めて『トキメキ』を感じた瞬間だったのかもしれない。

テラスにつくとゲイリックが椅子を下げてグレイスを座らせてから、自分の席に座った。

テーブルには紅茶とケーキやチョコレート、クッキーが並んでいた。

「さあ、遠慮なく召し上がってくれ」そう言ってゲイリックはクッキーを一つ摘んで口に入れた。

「うん、美味い」

グレイスは紅茶を一口飲んで口を開いた。

「実はね、ゲイリック、あなたにお願いがあって今日は伺ったの」

頬を緩めて聞き返す。
「願いって、何かな?」

グレイスは自嘲気味に答えた。

「これでもセミン男爵家は、200年以上も続く名家なのよ」

「うん、知っている」

「ところが跡継ぎがいなくて、私の代で終わりそうなの」

「じゃあ、親戚中を探して、誰か 養子にもらえばいいじゃないか」

「いるにはいるけど……。優秀な人材は、なかなか見つからないのよ。なんせその親戚の数がそもそも少ないから」

ゲイリックが不思議そうに聞き返す。

「血筋に拘らなければ、継承者は見つかるんじゃないのか?」

「それはそうだけど……でもまだ血筋を残す手段はまだ残っているし……」

ゲイリックの耳が赤く染まる。

「つまり君は、再婚をして子供を生みたいと考えているのか?」

「ええ、できることならそうしたいと思っているわ」

ゲイリックが冗談ぽく告げた。

「いくら子供ができても、新しい旦那が酷い奴だったらどうする?苦労するぞ?」

「そうね、だから子種だけ借りられないかしらって……ゲイリック」

手に持っていたティーカップを思わず落としそうになるゲイリック。

「まさか、その相手に私を?」

落ち着きのないゲイリックとは逆にグレイスが冷静に言った。

「それこそ『まさか!』よ。違うわよ、親友の旦那様を借りるわけないじゃない。ちょっとあなたの執事をお借りしたいのよ」

「な、なにーーーーっ!」

ゲイリックは、つい大声を出して大げさに口を手で押さえ、周りを見回して声を潜めて話しかけた。

「マイケルを?貸してほしいだと?」

グレイスはニッコリと笑って返事をした。

「彼のことは全て調べたわ。家柄もね」

グレイスがじっとマイケルを見た。

「ねえ、マイケル。どうかしら?私と夫婦をやってみない?」

キラキラした眼差しでマイケルを見つめるグレイス。

「それは実際に、結婚をするということでしょうか?」

「入籍はすぐにはしないわ。相思相愛になってからよ」

「では、相思相愛にならなかったら?私はどうなるんでしょうか?」

グレイスがニヤけながら返事をした。

「その場合はあなたに出て行ってもらうわ。たとえ子種をいただいたとしても」

「……」

「それでも良ければだけど、明日から始めてみない?どうかしら?マイケル」

マイケルの返事をグレイスはもちろん、ゲイリックも、そしていつの間にかテーブルに果物を並べていたセシルも、じっとマイケルを見つめて返事を待っていた。

返事をためらうマイケルを見て、グレイスが声をかけた。

「明日の夜、迎えの馬車をやるから、決心したならその馬車に乗りなさい」

「わかった?マイケル」

マイケルはやっと返事をした。

「かしこまりました、グレイス様」
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