<完結> 公爵家執事は種馬に指名される。

ぜらちん黒糖

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③野心の芽生え

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 カタルス村の村長が帰ったあと、執務室で公爵と一緒に書類の整理をしていたマイケルは、正午になり昼休憩を中庭で取っていた。

マイケルにとって中庭は心の落ち着く場所になっていた。公爵邸の花壇は広々として、故郷の草原を思い出させてくれるのに十分だった。

ここは日当たりもよくお気に入りの場所だった。

壁にもたれて丸椅子に腰掛け、パンを食べていると頭上から声がかかる。

「マイケル」

その声にビクッとして素早く立ち上がり窓を見る。

「何でしょうか、奥様」

マリアンが優しい笑みを浮かべて口を開いた。

「座ったままでいいわ」

「あの……それは奥様が私に声をかける前の、姿勢で、ということでしょうか?」

「ええ」

マイケルはまたいつものように無表情になり夫人に言われた通りに、壁に背もたれをして椅子に座った。

「これでよろしいのですか?」

「ええ、そのままで。そのまま、私の独り言を聞いてもらえるかしら?」

「かしこまりました、奥様」

マイケルは静かに中庭に視線を向けた。

マリアンが話し始めた。

「午後からグレイス夫人が来るでしょう?」

「……」

夫人の問いかけに返事をしないマイケルの頭を『コンコン』と指でつついた。

「……」マイケルが少し見上げるようにするとマリアンが笑って言った。

「相槌くらいしなさい」

「あ、失礼しました」

「ふふ、そのグレイスだけどね。私の親友だったのよ」

「そうですか」

「グレイスはね、ゲイリックのことが好きだったの」

「……そうですか」

「でもね、夫が選んだのは私だったの。なぜ、夫は私を選んだと思う?」

「……」

答えの予想はついたが、マイケルには答えられなかった。しかし、夫人がマイケルの頭を指でつついたので、答えることにした。

「グレイス様と奥様は甲乙つけがたいほどの美女でございます」

マリアンが意味ありげにマイケルの頭を見つめた。

(あらあら、グレイスを見たこともないくせに……)

マリアンはマイケルを促した。

「それで?」

「しかしながら奥様は公爵家の一人娘、グレイス様は男爵家の一人娘でございました」

(ふーん、グレイスが男爵家なのは知っているのね)

「それで?」

「旦那様は伯爵家の三男でございました。貴族として生き残るには婿養子になるしかありません」

「それで?」

「つまり、女性として甲乙つけ難いのならば、どちらと結婚したら得かお考えになられたのではないかと推察いたします」

(ふふ、ゲイリックには打算なんてないわよ)

「そのグレイスがね、ある事情で、最近焦っているようなの」

「……」

また無言になったマイケルの頭を指でつついた。慌てて聞き返すマイケル。

「……グレイス様の事情とは何でしょうか?」

「彼女まだ37歳よ?私もだけど」

「それが?」

「グレイスは昨年未亡人になってるわ。あいにく子供もできなかったし……」

「それがどうかしましたか?」

「彼女はゲイリックの子種を欲しがっていると思うの」

マイケルの思考が止まりかけた。上流階級の貴婦人が口にする言葉ではなかったからだ。

「あの、奥様……そのようなことは口にしない方がよろしいかと思います」

マイケルは黙ったまま夫人の返事があるのを待ったがいつまで待っても返事はなかった。立ち上がり後ろを見上げると、そこにはもうマリアンはいなかった。

その時、マイケルに閃きが起こる。

『グレイス夫人は子種を欲しがっている。旦那様の……』

『しかし、子種候補なら旦那様だけとは限らないんじゃないのか?』

『なんとか俺もその候補になれないものかな……』

……などとマイケルは身分を忘れて考えていた。


その時、表門から1台の馬車が入ってきた。

馬車の側面にセミン男爵家の家紋が描いてあった。

マイケルは食べかけのパンを一気に頬張り水を飲んだ。

飲み込むとマイケルはいつもの無表情な鉄仮面に戻り、馬車に向かって歩き始めた。








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