<完結> 公爵家執事は種馬に指名される。

ぜらちん黒糖

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⑤種馬

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 夜、ゲイリックとマリアンが就寝のためベッドに入っていた。

互いに背中を向けて横になっていたが、ゲイリックは昼間のグレイスの言葉に動揺して眠れずにいた。

『ねえ、マイケル。どうかしら?私と夫婦をやってみない?』

その言葉がゲイリックの頭の中を巡る。

(なぜだ?なぜ、マイケルであって、私ではないのだ!)

心の中で叫ぶゲイリック。

その時マリアンの声がした。

「眠れないの?あなた」

「……」

無言で目を開けて、返事を返そうか迷うゲイリック。

(今は妻と話はしたくないな……)

ベッドが揺れて背中に妻の気配を感じた。

(寝返りをしたのか……)

「!」

妻の手が背中に当たった。

「ねえ、あなたはまだグレイスのことが好きなのね?今でも……」

ゲイリックの防衛本能が素早く動き出す。婿養子の身で妻の機嫌を損ねてはいけないと。

くるりと寝返りをうって妻の方に向き直り優しい目で見つめる。

「何を言い出すかと思ったら、他愛もないことを言うのだな、君は」

「違うの?」

「当たり前だ。私の目には君しか映っていない」

その時、妻の顔を見ないで首筋や胸元を見て、グレイスの顔をイメージするゲイリック。

気がつくと激しく妻を抱き締めていた。

ゲイリックの脳内には妻の柔らかい体と石鹸の香りがグレイスの顔と結びつき熱いものが体の奥底から湧き起こる。

「あ……あなた、あん……」

妻の声までがグレイスの声に聞こえるかのように、都合よく脳内変換されていた。

久しぶりの夫婦の交わりだった。



激しく愛し合った後、ゲイリックは満足したのかマリアンの傍でぐっすりと眠っていた。

マリアンは静かにベッドから出ると浴室へ向かった。



熱い湯船に浸かりながら目を閉じる。

「また……グレイスの代役をさせられちゃったわ」

閉じた目尻から涙が伝い落ちた。


❖❖❖


セシルが部屋の入口をじっと見つめながらベッドで横になっていた。

(マイケル……今夜は来なかった。やはりグレイス様の話を受けるつもりなのかしら……)

セシルは入口から視線を逸らすと布団の中でそっと下腹に手を置いて優しく擦った。

「でもいいわ、もう……」

(私のお腹には彼の子供が宿っているんだから……)


❖❖❖


翌朝、マーシャリー公爵家食堂

なぜか仏頂面のゲイリックと、無表情のマリアン、そしてどこか楽しそうにしている娘のビセットが黙々と食事をしていた。

突然、ゲイリックがマイケルに話しかけた。

「マイケル、今夜、セミン男爵家から使者が来ることになっているが……どうするつもりなんだ?」

マイケルが無表情で返事をした。

「まだ決めておりません。迎えが来た時に決めたいと思います」

マイケルの気持ちは、グレイスの元へ行くことに決めていたがあえて直前まで言わないことにしていた。

「そうか……よくよく考えて決めるとよい」

「はい、そうします、旦那様」

娘のビセットが口を挟む。

「ねえ、マイケル」

「何でしょうか、ビセットお嬢様」

「マイケルには好きな人はいないの?」

食器を下げていたセシルの眉間にシワが寄る。その僅かなセシルの変化に気づいたマイケル。

「お嬢様、そろそろ学校へ行くお時間ではないですか?」

ビセットが冷やかすように言った。

「あ、誤魔化そうとしている~」

その時マリアンが娘を嗜める。

「ビセット、いい加減にしなさい。大人をからかうものではありません」

ビセットは反省を伴わない笑顔でマイケルに謝った。

「ごめんなさい、マイケル」

「いいえ、なんとも思っておりません」

ビセットが立ち上がって、両親を見た。

「ではお父様、お母様、行ってまいります」

ゲイリックがうなずくとマリアンが声をかけた。

「気を付けていってらっしゃい」

「はーい」

チラリとマイケルを見てビセットは食堂を出ていった。

マイケルがゲイリックに挨拶をした。

「それでは旦那様、お嬢様をお送りに行って参ります」

「いや、今日はいい」

「はい?」

「今日はセシルに行ってもらう。セシル、行ってくれるな?」

「はい、旦那様」

セシルが急いで食器を乗せたワゴンを片付けようとすると、ゲイリックが言葉をかける。

「ああ、構わんでいい。それはマイケルがやるから」

チラリとマイケルを見て、礼をするとエプロンを外しながら食堂を出ていった。

残されたマイケルは、仕方なくセシルの立っていた場所に行ってワゴンを押して食堂を出ていくことにした。

「あなた、どうして今日はセシルを行かせたんですか?」

マイケルが扉を閉めて出て行くのを見届けてから、ゲイリックは答えた。

「種馬候補の人間を娘の側に置くわけにはいかんだろう?」

冷ややかな声でマリアンが小さな声で呟いた。

「マイケルに八つ当たりをしているようにしか見えませんけどね……」




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