<完結> 公爵家執事は種馬に指名される。

ぜらちん黒糖

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⑥決意

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 学校へ行く道すがら、ビセットがセシルに話しかける。

「心配なんでしょ?マイケルのことが」

(え?)

「セシルは、マイケルのことどう思っているの?」

「どうって……私はもう彼のことはあまり信じていないから……」

その返事に驚くビセット。
「信じていないって、二人はもう体の関係でしょ?」

セシルは、若いビセットに大人の恋愛事情を突かれて怯む。

「い、いいのです。私はもう目的を果たしましたから」

「目的って……」ビセットがセシルのお腹に視線をやる。

「そうだったの……じゃあセシルもグレイス様と考えていることは同じだったってこと?」

「……ええ、今回のグレイス様のお話は、私には都合が良かったです」

「それはどういう意味?」

「彼に、情が移りそうになっていましたから……今回のグレイス様のお話のお陰で、彼が私の前から姿を消しますから……」

ビセットが笑みを浮かべて独り言を呟く。

「マイケルは所詮、種馬なのね」

ビセットが立ち止まってセシルに声をかけた。

「ここでもういいわ。校門は目の前だし」

「ですがお嬢様」

「いいからいいから、じゃあ、気をつけて帰りなさいよセシル」

そう言って校門へ向かってビセットは駆け出していった。

ビセットの後ろ姿を見つめたまま、校門へ吸い込まれていくのを見届けると、セシルはゆっくりと踵を返した。

「種馬か……確かに優秀な種馬だったかも、マイケルは」


❖❖❖


マイケルは、午前中は中庭の草むしりをやらされていた。

執事服から作業着に着替えて、作業をしていた。ゲイリックの八つ当たりなのだが、マイケルには一人になれてちょうど良かったのだ。

雑念を振り払うように、雑草を取ることに集中していると、後ろから名前を呼ばれた。

「マイケル」

振り向くとセシルが立っていた。
マイケルは気まずそうに返事をした。

「セシル、何かようかい?」

ほんの少し唇を尖らせてセシルが言葉を返した。

「あら、随分な言い草ね」

「あ、ごめん。邪険にしたわけじゃないんだ」

「ふふふ、気もそぞろって感じなんじゃないの?今は」

「何が言いたいんだよ、セシル」

「もう私たち会うこともないだろうから、別れの挨拶をしておこうかなって」

その言葉に驚くマイケル。

「何を言い出すんだ。いつでも会えるじゃないか」

「それがね、私、故郷に帰ることにしたの。来月、お屋敷を出るつもりなの」

「そんなに急に?」

その時他の侍女がセシルを呼んだ。

『セシル!ちょっと来て!』

「あ、じゃあ、私行くね」

「あ、ああ」

(そうか……セシルは田舎へ帰るのか……)

気がかりが一つ減って嬉しそうにするマイケル。再び草むしりに没頭し始めた。


❖❖❖


正午になり、昼休憩をそのまま中庭でとることにした。

丸椅子を壁に寄せて、背中を壁につけ、パンを食べるマイケル。

(この景色も今日で見納めになるのかな……)

感慨に耽っていると頭上から声がかかる。

「マイケル」

すぐに立ち上がりマリアンに挨拶をする。

「奥様、ご機嫌ようでございます」

マリアンは睨むように口を開いた。

「ご機嫌じゃないけど?」

「……」

「冗談よ、私のことは気にしないで、椅子に座って食事を続けなさい」

言われた通りにするマイケル。

無言でパンを食べていると、顔の横に香ばしい匂いとコーヒーカップが目に入る。

「いつも水でパンを食べているけど、その食べ方が好きなの?」

「いえ、そういうわけではないです」

「コーヒー、早く受け取ってくれないかしら?手が疲れるわ」

慌ててコーヒーカップを手に取り礼を述べる。

「ありがとうございます。頂戴いたします」

カップを膝に乗せて、パンと交互にコーヒーを飲む。

「美味しい……」

(貴族になったみたいだな、コーヒーを飲むと……)

「グレイスのところへ行くの?」

「……はい」

「そう、セシルのことはいいの?」

「え?」

「付き合っているんでしょう?あなたたち」

「……」

「グレイスのことは、断ってもいいのよ?」

マイケルが小さな声で言った。

「セシルとは別れることになりました」

少し驚いた表情で聞き返す。
「グレイスが原因なの?」

「いいえ、違います。セシルは来月、故郷へ戻ると先ほど私に言ってきました」

「……そう、彼女、ここを出て行くつもりなの……まだ報告は聞いていないけど」 

マイケルが明るい声で言った。

「私とセシルは縁がなかったのです」

「縁……がなかった……か」

「はい、これもまた運命なのです。私はそう思います」

「マイケル、グレイスのところへ行く気満々のようだけど、気をつけなさい、捨てられないように」

マイケルはコーヒーを飲み干すと立ち上がって窓を見た。もうマリアンはそこにはいなかった。

(この俺が、グレイス様に捨てられるだなんて……そんなこと、起こるはずがない)

窓ガラスに映った自分の顔を見ながら、髪をかき上げニヤリと笑った。

(俺は見た目には自信があるんだ。絶対にグレイス様を口説き落として、俺は男爵になる)

その時、生暖かい風が足元から顔に向かって吹き上がり、そのまま通り過ぎていった。
    
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