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⑤盗まれた金貨と、残された希望の命
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食事を食べ終えると、ロバートはワインを飲み始める。アリスはすでに食器の後片付けを始めていた。甲斐甲斐しく働くアリスに、彼は声をかける。
「アリス、君に頼みたいことがあるんだが……」
トレーに食器を乗せていたアリスが、動きを止めて振り返る。
「何でしょうか、旦那様」
「実は今、南部にある金山に投資をしないかと友人に誘われているんだ。そこで私も投資をしてみようと思うのだが、君はどう思う?」
「投資はおやめになったほうがよろしいかと思います」
アリスは、静かに諭すように言葉を繋げた。
「なぜだ?」
「南部の金山は、採掘を始めてもう三百年以上が経過しております。それに近頃は年々、金の産出量が減少していると聞き及んでおります。王国はすでに十分な金を取り尽くしたのでしょう。ですから、一般に向けて権利を売りに出したのです。もし一時的に金が発掘されたとしても、長く続くことはないと思われます」
呆気に取られてアリスの説明を聞いていたロバートは、言葉を失った。
「それでは……その投資はやめておいたほうがいいというのか。君は」
「はい」
ロバートは、すでに自分の持ち金をその金山に投資していた。アリスの持参金の一部をチェルダとの旅行に使い、残りをその金山に追加投資して、自分の財布を潤そうと考えていたのだ。
「そ、そうか。ではやめておこうかな」
ロバートは顔面蒼白になっていた。
その夜、ロバートとアリスは久しぶりに結ばれた。
ベッドにはロバートが一人残されていた。アリスはお風呂場へ行っている。事が済むと彼女はいつもすぐに風呂に入る。ロバートは、その習慣を「自分が汚いと言われているよう」で気に入らなかった。
「私が汚いみたいではないか」
つい口を突いて出る愚痴。しかし、すぐに自嘲気味に笑う。
「まあ、チェルダとも寝ているし、汚れていると言えば汚れているかな」
(そんなことよりも明日、朝早く金山の投資から手を引く手続きをしなくてはな。本当に失敗をした。一体、いくら戻ってくるのか……)
その時、ロバートに名案が閃いた。アリスはいつも長風呂だ。今のうちに彼女の持参金を探して「借りれば」いいのではないか。一応、ロバートの中では、盗むのではなく後で返すつもりでいた。
彼はすぐにベッドを抜け出すと、アリスの私室へ向かった。
真っ直ぐにクローゼットの上の段に手を伸ばすと、ずしりと重い布袋を掴み出す。
「あった!」
袋の中には、金貨が500枚以上も詰まっていた。
「凄い……こんなに。なぜ伯爵家がこれほどの蓄えを」
一階で物音がした。アリスが風呂から上がったらしい。ロバートは金貨を30枚だけ抜き取り、素早く部屋を後にした。
翌朝、アリスが目を覚ました時には、ロバートの姿はもうなかった。テーブルには一枚の書き置きが残されていた。
『アリスへ。一ヶ月ほど、仕事で遠方へ行くことになった。君はここで私の帰りを待っていてくれ。ロバートより』
ロバートはそう書き残し、アリスから盗んだ金でチェルダとの旅行へと出かけた。
アリスは夫の言葉を信じ、毎日欠かさず家を守り、彼の無事を祈り続けた。
一ヶ月が過ぎ、二ヶ月になっても夫は帰らなかった。不安に押しつぶされそうになったアリスは、ついに公爵家の本宅へ相談に向かう。
公爵は、息子の放蕩が再発したことを風の便りに聞いていた。広間に現れた、やつれた嫁の姿を見て、公爵は深い恥辱に顔を歪ませた。
「アリス嬢。本当に、すまない。愚かな息子で……」
公爵は深々と頭を下げた。
「どうか、辛抱してくれ。あいつはいずれ、必ず戻ってくる」
アリスは義父の温情に感謝し、涙を堪えて家に戻った。
数週間後、アリスは体の異変に気づいた。医師の診察を受けた彼女は、歓喜に打ち震えた。
「子宝を授かった……!」
夫の帰りを待つ孤独な生活の中で、この命はアリスにとって唯一の希望となった。
夫が帰れば、きっとこの子のために改心してくれる。そう彼女は信じて疑わなかった。
「アリス、君に頼みたいことがあるんだが……」
トレーに食器を乗せていたアリスが、動きを止めて振り返る。
「何でしょうか、旦那様」
「実は今、南部にある金山に投資をしないかと友人に誘われているんだ。そこで私も投資をしてみようと思うのだが、君はどう思う?」
「投資はおやめになったほうがよろしいかと思います」
アリスは、静かに諭すように言葉を繋げた。
「なぜだ?」
「南部の金山は、採掘を始めてもう三百年以上が経過しております。それに近頃は年々、金の産出量が減少していると聞き及んでおります。王国はすでに十分な金を取り尽くしたのでしょう。ですから、一般に向けて権利を売りに出したのです。もし一時的に金が発掘されたとしても、長く続くことはないと思われます」
呆気に取られてアリスの説明を聞いていたロバートは、言葉を失った。
「それでは……その投資はやめておいたほうがいいというのか。君は」
「はい」
ロバートは、すでに自分の持ち金をその金山に投資していた。アリスの持参金の一部をチェルダとの旅行に使い、残りをその金山に追加投資して、自分の財布を潤そうと考えていたのだ。
「そ、そうか。ではやめておこうかな」
ロバートは顔面蒼白になっていた。
その夜、ロバートとアリスは久しぶりに結ばれた。
ベッドにはロバートが一人残されていた。アリスはお風呂場へ行っている。事が済むと彼女はいつもすぐに風呂に入る。ロバートは、その習慣を「自分が汚いと言われているよう」で気に入らなかった。
「私が汚いみたいではないか」
つい口を突いて出る愚痴。しかし、すぐに自嘲気味に笑う。
「まあ、チェルダとも寝ているし、汚れていると言えば汚れているかな」
(そんなことよりも明日、朝早く金山の投資から手を引く手続きをしなくてはな。本当に失敗をした。一体、いくら戻ってくるのか……)
その時、ロバートに名案が閃いた。アリスはいつも長風呂だ。今のうちに彼女の持参金を探して「借りれば」いいのではないか。一応、ロバートの中では、盗むのではなく後で返すつもりでいた。
彼はすぐにベッドを抜け出すと、アリスの私室へ向かった。
真っ直ぐにクローゼットの上の段に手を伸ばすと、ずしりと重い布袋を掴み出す。
「あった!」
袋の中には、金貨が500枚以上も詰まっていた。
「凄い……こんなに。なぜ伯爵家がこれほどの蓄えを」
一階で物音がした。アリスが風呂から上がったらしい。ロバートは金貨を30枚だけ抜き取り、素早く部屋を後にした。
翌朝、アリスが目を覚ました時には、ロバートの姿はもうなかった。テーブルには一枚の書き置きが残されていた。
『アリスへ。一ヶ月ほど、仕事で遠方へ行くことになった。君はここで私の帰りを待っていてくれ。ロバートより』
ロバートはそう書き残し、アリスから盗んだ金でチェルダとの旅行へと出かけた。
アリスは夫の言葉を信じ、毎日欠かさず家を守り、彼の無事を祈り続けた。
一ヶ月が過ぎ、二ヶ月になっても夫は帰らなかった。不安に押しつぶされそうになったアリスは、ついに公爵家の本宅へ相談に向かう。
公爵は、息子の放蕩が再発したことを風の便りに聞いていた。広間に現れた、やつれた嫁の姿を見て、公爵は深い恥辱に顔を歪ませた。
「アリス嬢。本当に、すまない。愚かな息子で……」
公爵は深々と頭を下げた。
「どうか、辛抱してくれ。あいつはいずれ、必ず戻ってくる」
アリスは義父の温情に感謝し、涙を堪えて家に戻った。
数週間後、アリスは体の異変に気づいた。医師の診察を受けた彼女は、歓喜に打ち震えた。
「子宝を授かった……!」
夫の帰りを待つ孤独な生活の中で、この命はアリスにとって唯一の希望となった。
夫が帰れば、きっとこの子のために改心してくれる。そう彼女は信じて疑わなかった。
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