《完結》傲慢な公爵令息が踏みにじった貞淑な妻の愛と、怨霊が果たした魂のざまぁ。

ぜらちん黒糖

文字の大きさ
6 / 10

⑥屈辱の買い物と倒錯の快楽

しおりを挟む
​子宝の喜びに浸っていたある日、ついにロバートが帰ってきた。だが、彼は一人ではなかった。お金を使い果たし、渋々戻ってきた彼の隣には、愛人のチェルダがいた。
 
「しばらく、彼女も一緒に住まわせるから」
 
ロバートは平然とアリスにそう言った。書き置きを残して家を出た前の晩とは、まるで別人のような冷酷なロバートがそこにいた。
 
アリスは声もなく立ち尽くす。しかし、それでも彼女は夫の言葉に従った。愛人であるチェルダの世話まで、彼女がすることになったのだ。
 
お腹に新しい命が宿っているにもかかわらず、アリスは夫の機嫌を損ねまいと、完璧な妻を演じ続けた。妊娠を夫に告げられずにいたのは、喜んでくれるという確信が持てず、むしろ彼がそれを重荷に感じるかもしれないという可能性に怯えていたからだった。
 
「あの、旦那様。少しよろしいでしょうか? お話があるのです」
 
居間でコーヒーを飲んでいたロバートに、アリスは意を決して話しかけた。
 
「なんだ、アリス。また小言でも言うつもりか?」
 
「いいえ、実は……」
 
私のお腹には、あなたの子供がいるのです。そう言いかけたアリスの言葉は、横から割り込んだチェルダに遮られた。
 
「ねぇアリスさん。今夜は、香草をたっぷり使った仔羊のローストが食べたいの。買ってきてくれる?」
 
アリスはじっとチェルダの顔を見て、込み上げる感情を耐えた。ロバートが自分を庇ってくれることを期待したが、夫は目を逸らすばかりで味方をしてはくれなかった。
 
それどころか、ロバートは少しぎこちない態度でアリスに告げた。
 
「あ、ああ。仔羊の肉は、あそこの店がいいだろう。知っているだろう? 店は……」
 
「……はい」
 
家を出て、肉を買いに行くアリス。ロバートは彼女を庇わなかったのではなく、知らず知らずのうちにチェルダに加担していたのだ。
 
ロバートは、アリスのような気高い美人が虐げられ、悲しそうな表情をしているのを見ると、歪んだ性的興奮を覚えてしまう性質たちだった。
 
アリスは、お腹をさすりながら買い物かごを下げて歩く。そして、まだ見ぬお腹の子に届くように小さく呟いた。
 
「あなたのお父様は、本当はいい人なのよ。心配しないで、元気な子で生まれてきてくださいね」
 
そしてアリスは、返事のできないお腹の子の代わりに、自分で答えた。
 
「はーい」
 
その時、アリスの目には、堪えきれない涙が滲んでいた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

断罪予定の悪役令嬢ですが、王都でカフェを開いたら婚約者の王太子が常連になりました

由香
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気付く。 このままでは一年後の夜会で婚約破棄され、断罪された上で国外追放されてしまう運命だ。 「――だったら、その前に稼げばいいわ!」 前世の記憶を頼りに、王都の裏通りで小さなカフェを開くことにしたエリザベート。 コーヒーやケーキは評判となり、店は少しずつ人気店へと成長していく。 そんなある日、店に一人の青年が現れる。 落ち着いた雰囲気のその客は、毎日のように通う常連になった。 しかし彼の正体は――なんと婚約者である王太子レオンハルトだった!? 破滅回避のために始めたカフェ経営が、やがて運命を変えていく。 これは、悪役令嬢が小さなカフェから幸せを掴む ほのぼのカフェ経営×溺愛ロマンスストーリー。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妹の方が大切なら私は不要ですね!

うさこ
恋愛
人の身体を『直す』特殊なスキルを持つ私。 毒親のせいで私の余命はあと僅か。 自暴自棄になった私が出会ったのは、荒っぽい元婚約者。

処理中です...