《完結》傲慢な公爵令息が踏みにじった貞淑な妻の愛と、怨霊が果たした魂のざまぁ。

ぜらちん黒糖

文字の大きさ
7 / 10

⑦階段から落ちた希望

しおりを挟む
​ある日の夕食時、いつものように仲良く会話をしながら食事をするロバートとチェルダ。
 
テーブルの端で静かに食べていたアリスが突然、口を押さえて席を立ち、食堂から駆け出て行った。
 
ロバートが呆れたように口を開く。
 
「アリス……。自分で作った料理にえづくなんて。何だか食欲が失せてしまうな」
 
「そうですね」
 
そう相槌を打ったチェルダだったが、「ちょっと心配だから、様子を見てきますね」と素早く席を立ち、彼女の後を追いかけた。そんなチェルダの背中を見ながら、ロバートはため息をつく。
 
「はあ、チェルダの奴、優しいんだか酷いんだかよくわからない女だな」
 
洗面所にいたアリスを、少し離れた場所から観察していたチェルダは、確信を持ってその場を離れた。
 
(アリスは妊娠している)
 
その事実に気づいたチェルダの顔は、憎悪に歪んだ。
 
(なんとかしないと……私の立場がなくなってしまうわ。アリスが子供を産めば、ロバート様は私から離れてしまうかもしれない……)
 
 
ある日の午後、二階の階段の上がり口に、チェルダはアリスを呼び出し、激しい口論を仕掛けた。
 
「ねえ、アリス様。私はロバート様と別れるつもりはありません」
 
アリスは何も答えず、じっと耐えていた。
 
「アリス様は確かにロバート様の正妻ですけど、もう夫婦関係は破綻しているじゃないですか! この際ですから言わせてもらいますけど、ロバート様と離縁されたほうがよろしいんじゃないですか?」
 
アリスは我慢してチェルダの言葉を聞いていたが、その時、無意識のうちにそっとお腹に手を当てた。チェルダはその仕草を見逃さなかった。
 
(私にはこの子がいる。出て行くのはあなたのほうよ)
 
そう無言で突きつけられたような気がして、チェルダの胸がざわついた。そして、彼女は決定的な嘘を吐く。
 
「アリス様。私、妊娠しているんですよ。ロバート様の子をね」
 
その言葉に、アリスの顔が豹変した。目を見開き、歯を食いしばり、口元が歪む。見開いた目から、堰を切ったように涙が滲み出した。大人しいアリスが、初めて感情を爆発させた瞬間だった。
 
「私は! ロバート様の妻なんです! このお腹の中には、ロバート様の子供がいるんです!」
 
アリスは涙を潤ませながら、叫んだ。
 
「出て行くのは、あなたの方です!」
 
逆上したアリスがチェルダに掴みかかろうとした。しかし、それを待っていたチェルダはさっと身をかわす。勢い余ったアリスは、そのまま階段の下へと転落していった。
 
階段の上から、その光景を見つめるチェルダ。
 
「まさか、こんなにすんなり計画通りに行くなんてね」
 
彼女は満足げな笑みを浮かべ、階下でお腹を抱えて苦しむアリスを、冷たい目で見下ろしていた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

遊び人の侯爵嫡男がお茶会で婚約者に言われた意外なひと言

夢見楽土
恋愛
侯爵嫡男のエドワードは、何かと悪ぶる遊び人。勢いで、今後も女遊びをする旨を婚約者に言ってしまいます。それに対する婚約者の反応は意外なもので…… 短く拙いお話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。 このお話は小説家になろう様にも掲載しています。

断罪予定の悪役令嬢ですが、王都でカフェを開いたら婚約者の王太子が常連になりました

由香
恋愛
公爵令嬢エリザベートは、自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生していることに気付く。 このままでは一年後の夜会で婚約破棄され、断罪された上で国外追放されてしまう運命だ。 「――だったら、その前に稼げばいいわ!」 前世の記憶を頼りに、王都の裏通りで小さなカフェを開くことにしたエリザベート。 コーヒーやケーキは評判となり、店は少しずつ人気店へと成長していく。 そんなある日、店に一人の青年が現れる。 落ち着いた雰囲気のその客は、毎日のように通う常連になった。 しかし彼の正体は――なんと婚約者である王太子レオンハルトだった!? 破滅回避のために始めたカフェ経営が、やがて運命を変えていく。 これは、悪役令嬢が小さなカフェから幸せを掴む ほのぼのカフェ経営×溺愛ロマンスストーリー。

包帯妻の素顔は。

サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

妹の方が大切なら私は不要ですね!

うさこ
恋愛
人の身体を『直す』特殊なスキルを持つ私。 毒親のせいで私の余命はあと僅か。 自暴自棄になった私が出会ったのは、荒っぽい元婚約者。

処理中です...