マガイモノ

亜衣藍

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 聖は、自分が本当は何を望んで、誰を愛しているのか――自信を失いそうだった。

「史郎……それだけは、勘弁してくれ……」

 逡巡した後、ようやくそれだけを言う。

 そして聖は、史郎から身体を離そうと、その腕の中で身悶えた。


――――ユウを愛している。


 極力人の手を借りずに済むように、ユウを救う手立てを色々考えた。

 だが、今この瞬間も、差し迫ってその身に危機が迫っているならば……もう手段を選んでいる場合ではない。

 とにかくユウを助けなければ。

 だから聖は、史郎の誘いをキッパリと断る事はできずに、折衷案を口にした。

「あんたとの事は、しばらく考えさせてくれ……」

「ダメだ」

「頼むよ。オレは息子のことが心配で、今はそれどころじゃないんだ……」

 実のところ、聖はずっとギリギリの緊張状態だった。

 一夏や万里子と対峙している最中も、史郎が到着するまで何とか時間を引き延ばさなければならないと考え、そしてこの二人と史郎が鉢合わせしないように、どうにか別の部屋に誘導しなければならないと――――冷静に計算しながらずっと気丈に振舞っていた聖であったが、本当はもう限界が近かった。

 美しい顔は蝋のように白く、身体は不安で細かに震えている。激しい憔悴しょうすい故か、体温までが下がっているようだ。

 こんな状態の彼に無体を強いるには――――昔の史郎ならやり兼ねなかったが、情を交わした今となっては、さすがの彼も気が引けるらしい。

 ふぅ、と大きく息をつくと、史郎は、そっと聖の身体を降ろしていた。

「――――わかった。だが、後で必ず話し合いの席には着いてもらうからな」

「……ありがとう」

 たおやかな様子でひっそりと微笑むと、聖は間近で史郎を見上げる。

 そして、少し哀し気に瞼を伏せた。

「あんたは――オレを諦めることは……」

「無理だ」

「――そうか……」

「だが今は、無茶はしねぇよ。オレも、さすがにいい歳になったからな――だから、お前の言う通りに……今回だけは口で我慢するとしよう」

いい歳・・・、ねぇ」

 この状況にあっても全く衰えない逸物に苦笑しながら、今度こそ聖は、史郎の前へ膝を折った。


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