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ぶっきら棒で品位も感じないが、このアッシュだけがリリスを案じてくれている。
一人だけ残ると言ってくれたこの少年の為にも、こんな所で埋もれて野垂れ死にするわけには行かない。
リリスは顔を上げると、アッシュが抱えていた荷物へ視線を転じた。
「アッシュ、私が家から持って来た蔵書は、その荷物の中にある?」
「ええと――はい、あります。他の金目のものは持ち去られちまったようだけど、本は大して金にならないって、みんな無視したんかな」
呆れた事に、リリスの供に付いて来たはずの従者やメイドたちは、主人の私物を各々持ち去って領地へと逃げ帰ってしまったらしい。
リリスが追って来られない事を知っていて、そんな盗賊のような無頼の真似をしたのだろう。
伯爵家も、もう放逐したリリスなど歯牙にも掛けないのだし。
(バカにされたものね……)
怒りよりも虚しさがリリスの中に込み上げたが、とにかく、蔵書が残ってくれて良かった。
それは、今は亡き曾祖母が、いつかリリスの役に立つだろうからといって与えてくれた魔法書だった。
曾祖母は、クラシス最後の『魔女』であった。
とはいっても、あくまで本人がそう名乗っているだけで、周囲は誰もそれを本気にはしなかった。
若い頃に馬車の事故に遭い、激しく頭を打った為に、そこから妄言を吐くようになってしまった哀れな狂女……それが、リリスの曾祖母であるミオラ・クラシスだ。
自称『魔女』の彼女は廃城の塔に独りで住み、そこで生涯を閉じたのだが。
気のおかしくなったミオラを疎んじ、誰も塔に近寄ろうとはしなかったが、唯一、幼かったリリスだけは密かに足を運んでいた。
おとぎ話でしか聞かなくなった伝説の魔女が、廃城の塔に居るという。
子供だったリリスは純粋に魔女に会いたくて、ミオラの許を訪ねたのだ。
そして、リリスが目の当たりにしたミオラは、実年齢とはかけ離れた美貌と若さを誇っていた。
彼女はどんな姫君よりも美しく、もちろんリリスの母よりもずっと綺麗だった。
――まごう事なき、伝説の魔女だ!
一人だけ残ると言ってくれたこの少年の為にも、こんな所で埋もれて野垂れ死にするわけには行かない。
リリスは顔を上げると、アッシュが抱えていた荷物へ視線を転じた。
「アッシュ、私が家から持って来た蔵書は、その荷物の中にある?」
「ええと――はい、あります。他の金目のものは持ち去られちまったようだけど、本は大して金にならないって、みんな無視したんかな」
呆れた事に、リリスの供に付いて来たはずの従者やメイドたちは、主人の私物を各々持ち去って領地へと逃げ帰ってしまったらしい。
リリスが追って来られない事を知っていて、そんな盗賊のような無頼の真似をしたのだろう。
伯爵家も、もう放逐したリリスなど歯牙にも掛けないのだし。
(バカにされたものね……)
怒りよりも虚しさがリリスの中に込み上げたが、とにかく、蔵書が残ってくれて良かった。
それは、今は亡き曾祖母が、いつかリリスの役に立つだろうからといって与えてくれた魔法書だった。
曾祖母は、クラシス最後の『魔女』であった。
とはいっても、あくまで本人がそう名乗っているだけで、周囲は誰もそれを本気にはしなかった。
若い頃に馬車の事故に遭い、激しく頭を打った為に、そこから妄言を吐くようになってしまった哀れな狂女……それが、リリスの曾祖母であるミオラ・クラシスだ。
自称『魔女』の彼女は廃城の塔に独りで住み、そこで生涯を閉じたのだが。
気のおかしくなったミオラを疎んじ、誰も塔に近寄ろうとはしなかったが、唯一、幼かったリリスだけは密かに足を運んでいた。
おとぎ話でしか聞かなくなった伝説の魔女が、廃城の塔に居るという。
子供だったリリスは純粋に魔女に会いたくて、ミオラの許を訪ねたのだ。
そして、リリスが目の当たりにしたミオラは、実年齢とはかけ離れた美貌と若さを誇っていた。
彼女はどんな姫君よりも美しく、もちろんリリスの母よりもずっと綺麗だった。
――まごう事なき、伝説の魔女だ!
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