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 だがその為には、後一日が必要だ。
 古びた魔法書に視線を落としながら、リリスは自身を鼓舞した。

 床には、炭で書いた魔法陣が敷いてある。
 彼女はこの上で陣取りながら、魔法書に記されていた呪文をずっと唱え続けていた。
 それは日が昇ってから、暮れるまでずっとだ。

 傍から見れば、気の触れた狂女にしか見えないだろう。

 手入れのしない髪はぼうぼう、服もボロボロのぶかぶか、口から出る言葉呪文は意味不明。
 最初は面白がって遠巻きにしていた連中も、今は気味悪がって見ようともしなくなっている。

 リリスは気にもしなかったが、アッシュの方はそれを悔しがっているようだ。

「あんた、結構可愛い顔してんだからさ。ちゃんと身綺麗にして髪も手入れすれば、それなりにイケてんぜ? 街に行けば、付き合ってくれって言う野郎も多いはずだ。なぁ、こんな辛気臭ぇところなんかどうでもいいじゃん。今夜、一緒に出て行こうって」

 誘ってくれるのは有り難いが、リリスはその誘いに乗るわけには行かない。

 曾祖母の魔女ミオラから魔法書を譲り受けたはいいが、正直言ってリリスもそれは半信半疑だった。
 だが今、その力を信じて復讐を遂げる事が、リリスの何よりの願いとなっている。
 それこそ、命を懸けて良いと思うくらい。

(可愛い顔しているなんて、そんなお世辞なんてもういいのに)

 豚姫と陰口を叩かれるくらいなのだから、きっとこの顔は酷く醜いのだろう。

 ここに到着した時、執事から「姿見で確認を」と強烈な皮肉を言われからずっと、リリスは鏡を見ていなかった。
 あれからずいぶん痩せてしまったが、だからといって、が美しい訳がない。

 リリスはもう二度と、自分の顔を見るつもりはない。

 稜線に日が落ちていくのを確認すると、アッシュは溜め息をつきながらリリスに声を掛けた。

「お嬢さん、日が落ちたよ。今日はもう終了だ。さっきメイドが夕飯を持って来たから、こっちで食おうぜ」

 アッシュの誘いに、リリスは小さく頷いた。
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