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 思いもしなかった言葉に、リリスは立ち尽くした。

 こちらの要求を呑んでもらうには、当然、それに見合うだけの対価が必要なのは承知していた。
 ならば、唯一の命さえ捧げれば、それが叶うと信じていたのに。

――それが、不可能だというのか!?

 絶望で、リリスは目の前が暗くなった。
 それでも、ようよう声を絞り出す。

「で、ですが……私がみすぼらしいのは本当の事ですが、私には他に差し出せるものがないのです。どうしたらジン様は、私の願いを叶えてくださいますか?」
「ふん……」

 するとジンは、リリスの爪先から頭のてっぺんまでを、しげしげと視線を這わせた。

「お前の、その髪飾り」
「え?」
「まずはそれを頂こうか」

 ジンの要望に、リリスは慌てて髪飾りを差し出す。
 それは、今は亡き祖父から誕生祝に貰った、赤珊瑚をあしらった高価な髪飾りであった。

 ここの来た時、不心得者によって不幸にも多くは持ち去られてしまったが、辛うじて残っていた宝飾の、それは一つだった。

「もしかして、ジン様は宝石がお好きなのですか?」
「ああ。僕は美しいものが大好きなんだ」
「良かった! だったら、幾つかまだ残っています! それを全て捧げるので、どうか……」
「お嬢さん!」

 アッシュが鋭い声で、間に入って来た。
 そうして、激しい声で「騙されるな!」と警告する。

「少ない財産を、何でこんな詐欺師に丸ごとやんなきゃならないんだ! もっとよく考えろよ! あんた、これから先の人生の方がずっと長いんだぞ!」

 しかしこれに、アッシュ以上の激しい声が発せられた。
 絶叫を上げるように、リリスは言う。

「私の人生なんか、これ以上長くても意味なんてないわよっ!!」
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