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当時、リリスは手帳にあれこれと書き込んでいたようだが、それを誰にも見せる事は無かった。
どうしてそれをアッシュが知っているのかというと、彼女が一人で庭のガゼボに立ち寄った際に、手帳を置き忘れたのを一度だけ届けた事があったからだ。
(お嬢さんは、いったい何を書いているんだろう?)
好奇心からペラペラと手帳のページをめくって、その内容に驚いたアッシュである。
最先端のデザインと斬新なアイディアが詰まっていたその手帳は、それまでファッションなど無縁であったアッシュでさえ目を見張るものだった。
どうしてこれを発表しないのかと、手帳を届ける際にそれと無く訊いたのだが。
『だって、私がこんな事を考えているんて言ったら、みんながリリスには似合わないって言うでしょうから』
そう、ちょっと困ったように言っていた。
今にして思えば、当時のリリスはブクブクに太っていたのは確かな事だが、それには理由があったのだと思う。
――可愛く愛らしいお姫様。クラシス伯爵家の、大切な一人娘。
故に、誰もが彼女に気を遣い、多大な期待をかけていた。
リリス自身も己の事を『クラシス家の正当な跡取り』だと自負していたので、何とか周りの期待に応えようと頑張っていたのだろう。
知識や教養もそうだが、
『提供されたお料理を残さず食べると、みんなが喜んでくれるのよ』
そう言っては、苦しそうに腹を押さえて笑っていたのを思い出す。
たぶん彼女は、食うのが好きであんなに太っていた訳では無い。
シェフを含む家人の皆を喜ばせたくて、無理矢理食っていたのだと思う。
そして皆が望むのは“クラシス伯爵家の益々の繁栄”だった。
血筋が良く財もある貴公子を婿に迎え、リリスが次代の跡取りを産む事であった。
そこには、リリスがカリスマデザイナーとなって世界で活躍する未来など、誰も望んでいなかった。
だからリリスは、誰にもその才能を打ち明けずに、手帳にだけ描き続けていたのだと察する。
しかし、皮肉にも、その才能を開花させる非常事態が起こってしまった。
――これら全てが、ジンの魔法の訳が無い!
どうしてそれをアッシュが知っているのかというと、彼女が一人で庭のガゼボに立ち寄った際に、手帳を置き忘れたのを一度だけ届けた事があったからだ。
(お嬢さんは、いったい何を書いているんだろう?)
好奇心からペラペラと手帳のページをめくって、その内容に驚いたアッシュである。
最先端のデザインと斬新なアイディアが詰まっていたその手帳は、それまでファッションなど無縁であったアッシュでさえ目を見張るものだった。
どうしてこれを発表しないのかと、手帳を届ける際にそれと無く訊いたのだが。
『だって、私がこんな事を考えているんて言ったら、みんながリリスには似合わないって言うでしょうから』
そう、ちょっと困ったように言っていた。
今にして思えば、当時のリリスはブクブクに太っていたのは確かな事だが、それには理由があったのだと思う。
――可愛く愛らしいお姫様。クラシス伯爵家の、大切な一人娘。
故に、誰もが彼女に気を遣い、多大な期待をかけていた。
リリス自身も己の事を『クラシス家の正当な跡取り』だと自負していたので、何とか周りの期待に応えようと頑張っていたのだろう。
知識や教養もそうだが、
『提供されたお料理を残さず食べると、みんなが喜んでくれるのよ』
そう言っては、苦しそうに腹を押さえて笑っていたのを思い出す。
たぶん彼女は、食うのが好きであんなに太っていた訳では無い。
シェフを含む家人の皆を喜ばせたくて、無理矢理食っていたのだと思う。
そして皆が望むのは“クラシス伯爵家の益々の繁栄”だった。
血筋が良く財もある貴公子を婿に迎え、リリスが次代の跡取りを産む事であった。
そこには、リリスがカリスマデザイナーとなって世界で活躍する未来など、誰も望んでいなかった。
だからリリスは、誰にもその才能を打ち明けずに、手帳にだけ描き続けていたのだと察する。
しかし、皮肉にも、その才能を開花させる非常事態が起こってしまった。
――これら全てが、ジンの魔法の訳が無い!
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