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 その、顔さえ知らない夫と離縁すべく、リリスはアナスタシア王女の力を借りた。

 以前から、名門貴族の家名を買収して王家に取り入ろうとする事象が問題視されていた事も有り、リリスの訴えはタイミングよく聞き入れてもらえた次第だ。
 側室リリスの『養子』と体裁を整えて、クラシス・ウル伯爵と息子に名乗らせようとしてたマーロー男爵の企みは白日の下に晒され、これから断罪されるだろう。

 青ざめて言葉を失うか、憤怒に顔を赤くするか。

 見た事もない『夫』のリアクションを想像し、リリスはクスクスと笑う。

「本当に楽しみね。王都からでは、マーロー男爵の悔しがるご尊顔を見れないのが残念だわ」
「お嬢様?」
「王女様を介して、法曹界を操るのもいいわね。マーロー男爵に偽証罪や不敬罪を適用させて、陥れる事だって可能だわ。ああ、想像しただけで楽しいわね。ユリ。あなたにも誰か復讐したい相手がいるのなら、私に教えてね。無力だった六年前と違って、今なら、私にもある程度の力があるんだから」

 第一王女のお気に入りで、第一王子の衣装係を賜った伯爵令嬢。
 これからどんどん、リリスに権力が集中して行くだろう。

 豚姫と陰で嘲笑い、無情にもリリスを切り捨てた侍女アンリにも必ず報いを受けさせてやる。

 リリスは彼女の事をずっと親友だと信じていただけに、絶望と憎悪は一層深かった。

 復讐に酔いしれて微笑みを浮かべるリリスは、ゾッとする程美しい。
 ユリはそんな主人を横目にしながら、内心で違う事を考えていた。

(お嬢様は、ジンさんと個人的に関係ではなさそうね。全然色っぽい様子も無いし)

 そこはホッと安心するが、別の事も脳裏をよぎった。

(こんなに綺麗で、家柄も良くて、王女様の信任も厚いなら……色々な殿方がお嬢様に懸想して、我先と行動を起こすんじゃないかしら?)

 そう思ったユリの考えは、直ぐに的中するのであった。
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