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   ◇

「ファニーラ国のザザドゥ公と、マリウス提督? それが、ジンに関係しているんだな?」
「うん。お嬢様から聞いたから間違いないわ」
「そうか! ありがとう、ユリ」

 これでようやく、ジンの正体に辿り着けるかもしれない。
 アッシュはやっと見えた希望の光に、内心で喝采を上げた。
 しかしユリの方は、アッシュとは違う意味でホッと胸を撫で下ろす。

「ジンさんを脅している悪党達は、この情報だけで見当がつくかな?」
「悪党?」
「だから、そいつらに脅されて、ジンさんが困った状況になっているって言ったじゃないですか」
「あ……ああ、そうだな」

(っぶねー! ユリにはそんなデマカセを吹き込んで、協力するよう仕向けてたんだった)

 アッシュは焦りを出さないよう、ゴホンと咳払いをして頷く。

「ジンは好きで詐欺師をやっている訳じゃない。お嬢さんをそそのかすよう、悪党どもに脅されているんだ。奴等の根城を突き留めたら密かに憲兵に密告して、そうしてジンは晴れて自由の身だ。ユリはジンにとって恩人になるんだから、きっと感謝すると思うぜ」

「えへへ、そうなったら嬉しいな。でも、アッシュさんはファニーラ国の情報なんてどうやって調べるんです? それに、マリウス提督も……相手は貴族ですよ?」

 素朴な疑問に、アッシュはフッと笑う。

 六年前。
 やせ細って無力だった少年は、今やリリスの護衛騎士に昇格している。
 腰に刺した剣は、見せかけの得物ではない。
 アッシュは、本物の剣士だ。
 下僕だった彼が剣術を身につけるに至るには、当然ながら教師がいる訳で。

「国内の貴族軍人の情報なら、オレの、剣の師匠から訊いてみるさ」

 それに師匠なら、傭兵として何度も戦に参戦している。
 ファニーラ国の情報にも、きっと明るいだろう。

――お嬢さんはすっかりジンを信用しきっているが、これでようやく目を覚まさせる事が出来るかもしれない!

 アッシュはそう思い、早速行動に移ることにした。

 マリウスなる人物が、リリスに求婚した事を知らぬまま……。
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