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 その、尚も食い下がりそうな様子が、ジンのカンに触った。

「君は、クビだ」
「――は?」
「もう帰れ。僕の言う事に一々反論するようでは、これ以上雇っていられないんでね」
「そ、そんな急に……!」

 反論しようとする相手に向き直り、ジンは

「短かったが、ありがとう。これは今日までの手当だ」

 そう言いながら、ポケットから財布を出したジンは、サッとそこから数枚の札を抜き取り、そのまま相手へと手渡した。

 封筒に入れる訳でもなく、裸の状態での現金の手渡しだ。
 流石にこれは礼儀に反するだろう。

 相手は困惑した表情で、顔を上げた。

「ジンさん、幾ら何でもっ」
「おや、まだ何か言いたいのか?」
「――」

 相手はジンと目が合うや否や、一切の言葉を忘れたように口をつぐんでその金を受け取り、そのまま回れ右をして部屋から退出した。

 それを見送りながら、ジンは忌々し気に舌打ちをする。

「野心のない男なら扱いやすいかと思ったが。変に常識があるとダメだな」

 アッシュはジンを疑っているようなので、駒にはならない。
 ユリは、ジンが思っていたよりも頭が良さそうな上に、どうやらアッシュに懐柔されたらしいので、駒として扱うには危険だ。
 手足となって動いてくれるような人材を欲して『執事見習い』を雇ったのだが、これも人材を誤ったようだ。

 本当に忌々しい。

 リリスに付き合って、もう六年だ。
 復讐をしたいという彼女の願いを聞き入れ、少ない力を最大限に活かしてここまで来た。

 リリスの復讐は、自分を陥れた人間達のだった。

 ハッキリ言って『死』を願ってくれたなら、こちらとしては簡単だったのだが(殺せばいいだけだから楽だ)それがではなくとなると、どんなに手を尽くしてもそれなりに時間が掛かるもので。
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