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しおりを挟む「師匠、それは本当の事なんですか!?」
アッシュの驚愕した様子に、逆に『師匠』と呼ばれた人物は訝し気に眉根を寄せた。
「本当の事も何も。どうして今になってザザドゥ公の名前なんて出て来るんだ? お前はファニーラ国とは関係ないところで育ったんだろう?」
「そ、そうですが……」
「だったら、私の言葉に疑念を抱く発言は不自然だろう。いったい、どうしたワケだ?」
久しぶりに剣の稽古を付けてほしいと尤もな理由を作り、師匠が営む街の道場を訪ねたアッシュだ。
しかし、稽古の前に直球で「師匠は、ファニーラ国のザザドゥ公を知ってますか?」と訊いたところ、思わぬ答えが返って来た。
「ザザドゥ公? 確か、昔、ファニーラ国の港湾の一つを統括していた貴族だったような……でも今は、その屋敷は我が軍の管理下にある筈だぞ」
「戦で奪い取ったんですか?」
「違う」
「え?」
「いま、私がしゃべっただろう? ザザドゥ公が港湾を統治していたのは昔の話だ。公は謀反の嫌疑をかけられて、一族ごと、とっくの昔に離散しているんだ。以来、『港の真珠』と讃えられる程美しかったザザドゥ公の屋敷は、様々な人間の手に渡り、現在はバーバロザ帝国の海軍が接収するに至ったワケだ」
あっさりと言う師匠に、アッシュは戸惑った。
ザザドゥ公が存命していたのは、昔だと?
ならば、それはどのくらい過去の話なのか?
(ジンは、オレ達と六年間一緒に居る。それなら少なくとも、師匠の言う『昔』は十年前後の筈だ)
だがこれに、師匠はにべもなく答えたのだ。
「五十年くらい前の話だな」
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