上 下
73 / 98
8

8-9

しおりを挟む
 アッシュと名乗った青年は、海軍が支給している訓練着を身に着けていない。どうやら、軍人ではないようだ。

 まだ若そうだが、いったい何者だろう?
 キリウ団長の新しい弟子だろうか?

 そんなマリウスの考えが顔に出たのか、向こうから身分を名乗って来た。

「オレは、第一王女専属の衣装係を務めるリリス・クラシス様の護衛騎士をしています。キリウ師匠には、騎士に値するだけの剣技を直接教えて頂きました」

『リリス』の名に、パァっとマリウスの顔が明るくなった。

「ほぉ! リリス嬢の護衛騎士とな!」
「はい。本日は――」

 続けて口上を述べようとするアッシュを制して、マリウスは自分の想いを口にした。

「まさかこんな色気もないところで、彼女と繋がりのある人物と出会えるとは思いもしなかった。キリウ団長のお呼びとあっては無視できないと思い、正直言って嫌々来たのだが、その甲斐があったな」

「何だと? こいつめっ」

 立腹するキリウに、マリウスは朗らかに笑って応える。

「ハハハハ、ご勘弁を! しかしオレも若輩者の頃には、散々先生にしごかれたものですから。ちょっとは、こっちの気分も察して頂きたい」

 無礼ではあるが、正直なその物言いに毒は無い。
 故に、キリウは本気で怒る様子もなくフッとだけ微笑んだ。

 それよりも、今回の用件は自分ではなくアッシュの方が本題だ。

 キリウはさり気なく後ろに下がりながら、アッシュをうながした。

「今日は、新米どもの訓練もそうだが……それより、この男の話を先に聞いてくれないか」
「ほぉ?」

 いったい何だろうと、興味有り気に見下ろしてくる偉丈夫マリウスを前にしながら、アッシュはゴクリと息を呑んだ。

「マリウス提督は、ジンと知り合いなんですか?」
「ジン? ……悪いが、知らない人物の名だ」
「ファニーラ国のザザドゥ公と、ジンが関係あると仰っていたと。オレは、あながたそう言っていたと聞いたんですが」
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私から婚約者を奪った妹が、1年後に泣きついてきました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:657

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:25,403pt お気に入り:6,908

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:39,234pt お気に入り:6,180

転生公爵令嬢の婚約者は転生皇子様

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:966

処理中です...