上 下
77 / 98
8

8-13

しおりを挟む
「……偶然、ジンと似ているような人物がタペストリーに描かれていただけという事はないんですか?」

 尤もな疑問に、マリウスは曖昧に首を振った。

「それはオレも考えた。五十年以上も前の人間が、その時の姿のまま生きている筈が無いからな。だから、ヤツがザザドゥ公と縁がある人物だと、オレも強くは言えないのだ」

(なんだ、やっぱり確証は無いのか)

 そう思い、アッシュはがっくりと脱力した。
 ただの他人の空似を、あたかも当事者であるような言い方をするなど、何て迷惑な貴族なんだと腹が立つ。

 そんなアッシュの内心を察したように、マリウスは不快気に咳払いをした。

「ゴホン!」
「っ!」
「さては、肩透かしを食らったと思ったな?」
「え、そんな事は――」

 慌てて否定するアッシュだが、マリウスは「全てがオレの勘違いとも言えぬのだ」と呟いた。

「タペストリーの人物には、左目尻と眉間に小さな黒子ほくろが描かれていた」
「黒子が?」
「ああ、そうだ。……お前のいう『ジン』にも、

 それは、衝撃の告白だった。

――そうなのだ。
 確かにジンには、その場所に黒子がある!

「他人の空似にしては、合致する特徴が多い気はしないか?」

 黙り込んだアッシュを見遣りながら、マリウスはそう駄目押しをした。
 そして、自分をここへ呼びつけた元上司を振り返ると、マリウスは別れの挨拶をする。

「どうやら、先生の本来のも終わったようなので、これで失礼させて頂きます。こう見えて、オレも結構忙しい身ですので」

「分かった。わざわざ悪かったな。――お前も、これ以上訊きたい事は無いな?」

 キリウはそう言うと、青ざめた顔で棒立ちになっているアッシュを見遣った。。
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私から婚約者を奪った妹が、1年後に泣きついてきました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:657

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:33,157pt お気に入り:6,908

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:52,541pt お気に入り:6,207

転生公爵令嬢の婚約者は転生皇子様

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:326pt お気に入り:966

処理中です...