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しおりを挟む「依頼の人物の消息が分かりました」
全身黒装束の、どこか禍々しい雰囲気を醸す男は淡々とそう言うと、報告書を差し出した。
ジンはそれを受け取り、サッと内容に目を通す。
そこには、待ちにまった『アンリ』の顛末が記されていた。
そう、クラシス家でリリスの専属メイドだった、あのアンリである。
「なんと、こいつはもう既に病死していたのか! これは確かなのだろうな?」
「はい。街の教会の墓地に葬られたと台帳に書かれていました。葬儀を行ったのは伯母のマーゴットという人物です。僅かですが、慰労金が勤め先から支払われた記録もありました」
報告書によると、クラシス伯爵は、リリスを男爵へ売り払うような真似までして出資金を捻出したが、鉱山の開発が完全に失敗に終わった為に、ジンが手を下さなくともどんどん傾いて行ったようだ。
その為、養い切れなくなった家人たちに暇を出し、メイドでは中堅クラスだったアンリも屋敷を出る事になったらしい。
しかし、あんな田舎にそうそう実入りの良い職などあるワケがなく。
アンリは、下級の下働きとして商家でこき使われる事になったと――。
「そして、そこの商家のバカ息子を誘惑して子を身ごもり。これで晴れて正妻になって悠々自適に暮らせるかと思いきや、少しの手切れ金だけ渡されて商家を追い出され。心労の為に子は流れて、自身の身体も壊し、そのまま病死……か。なんとも哀れな末路だな」
――――小悪党には丁度いい顛末だ。
愉快そうにククッと笑いながら、ジンはそう断じた。
何はともあれ、これでリリスの全ての『復讐』に片は付いた。
既に、クラシス家の没落とマーロー男爵の失脚の報告は届いている。
リリスが願った全てが、満願成就だ。
「……それでは彼女に、今まで僕が支払った対価を清算してもらうか」
当然だが、それは金ではない。
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