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 ユリのセリフが最後まで終わる前に、アッシュは駆け出していた。

――何だか凄く、悪い予感がする。

 この『予感』がただの勘違いであるようにと願いながら、アッシュは先を急いだ。

(クソッ! こんな事なら、誰がなんと言おうと、もっとお嬢さんの周りに人を増やしておけば良かった!)

 リリスの秘密を守るために、出来るだけ少人数で固めていたのが悔やまれる。

 大体にしてその秘密というのが、ジンというと契約を交わして、リリスは美しい容姿と才能を手に入れたのだという真相を隠匿する為というものであった。

 アッシュに言わせれば、その契約自体がマガイモノだ!

 かつてリリスは『豚姫』と陰口を叩かれていたのは事実だが、元々のベースは美しかったし、別にジンに頼らなくとも確かな才能もあった。
 だが、ボタンの掛け違いで何もかもがズレて不遇な目に遭った事により、リリスは他者に対して心と耳と閉ざしてしまった。
 散々止めろと言ったのに、曾祖母から受け継いだという胡散臭い魔法書を紐解き、そうして現れたのが、あのジンだった。
 ジンは人知を超えた力を使う訳でもなく、ただ、復讐を為すための『知恵と方法』をリリスに授けた。

――しかし、リリスはそれを信じて、見事成し遂げるに至った。

 己の実力で達成した事になるのだが、リリスはそれら全部がジンの力によるものだと信じているようだ。

(オレは、ジンの事をお嬢さんの肩書爵位と役職と財産を狙う腹黒い詐欺師だと思って警戒していたが……あいつの目的は、それ以上にヤバイ予感がする)

 広い中庭を突っ切ると、目的の棟が視界に入った。
 作業室は、あの棟にある。

「お嬢――!」

 アッシュは大声を上げたが、それに被さるように、凄まじい雷のような轟音が棟から鳴り響いた。

「お嬢さん――リリス!!」
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