彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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最終章

最終章-8

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――――男性の身でありながらの、その二つ名は、現在の裏社会では、あまりにも有名になっていた。

 迂闊には、手が出せない程に。

 当然のように、客たちのボルテージは否応なしに上がる。

「こんなチャンスは、もう二度とないかもしれないぞ」

「全くです。生体データを手に入れるだけでも僥倖であろうに、まさか彼の自慰を見られるなんて……いくら金を積んでも、もう彼は簡単には靡かないという事でしたので、私も諦めていたところです」

 興奮を抑えられない様子で、そこかしこでヒソヒソと会話が交わされる。

 確かに、その通り。

 以前ならば、ジュピタープロダクションも、ただの一芸能事務所。

しかも、地回りから起業した老舗という看板が逆に災いして、タレントもかなり偏っていた。業績も中々軌道に乗らず、当時は社長である御堂聖自らが、あちこちに奔走しなければとてもやって行けないような状況であったらしい。

その時分には、金を積めばそれなりに御堂聖本人を抱ける機会もあったらしいが。

だが、現在では無理だ。

今やジュピタープロダクションは、業界でそれなりの地位を築き、ハリウッドにも自前の役者を多く送り出している。

その知名度は、業界の内外でも上昇中だ。

抱えて加えて、関東最大勢力の広域指定暴力団青菱会との、密接な噂も絶えない。

青菱会は勢力が大き過ぎて、警察でも易々とは近寄る事が出来ないという。

そんな相手に手を出そうものなら、確実に火傷しそうだ。

だから、この場にいる招待客の多くは『御堂聖』に興味があるものの、今まで手を出す事は不可能であった。

それが、どんな奇跡が起こったのか、本人が今からここに現れるという。

これで興奮しない方がおかしいというものだ!

 一瞬、静まり返ったサロンに、オーナーの一人である安蒜の声が響き渡った。

「皆様、僕は美しいものが大好きです! 心の底から『美』を愛しています。世界中を周り、今なお常に美しいものを探し付けている美の探究者です。もちろん僕自身も、永遠に美しくあろうと、可能な限り努力・・して参りました」
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