彼が恋した華の名は:3

亜衣藍

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最終章

最終章-28

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 まだ23の若者が背負うには、重い十字架だ。

 それをこの男は、ずっと一人で耐えていたのか。

(可哀想な男だな、お前は……)

 無意識に引き寄せられるように、新の方へと戻りかけた聖であるが……。

「待ちな」

 その肩を掴み、引き留めたのは青菱史郎であった。

 史郎は眦をキリリと吊り上げ、威嚇するような声を放つ。

「お前の悪い癖だ! そのガキに同情しても、何にもならんぞ。そこの探偵が法に明るい弁護士を紹介するってんだから、あとはそいつに任せればいいだけだ」

「史郎、でも」

「『でも』じゃねぇ。お前はここで退場だ」

 キッパリ言うと、探偵とその助手がうんうんと頷いた。

「――さ、新くん行こうか。向こうの空き地にオレの愛車を停めてある。弁護士事務所にはこれから窺うと連絡しておいたから、あんまり相手を待たせちゃあ悪い」

「その弁護士費用の代金も、青菱さんから頂く約束ですしね」

 助手はそう付け足すと、フフっと笑う。

「でもその前に、ジュピタープロダクションで首を長くして待っている真壁氏に報告しないとダメですが」

「佐々木、お前まさか……」

「救出の場合、追加の金を払うと言ったのは彼ですよ? オレは、青菱さんと真壁さんの両方から依頼を受けたと判断しています。だったら、しっかり向こうからも代金をもらわないと」

 遠慮のない助手に、探偵は溜め息をついた。

「全く、オレの助手は抜け目がないねぇ。――――さ、行くよ」

 声を掛けられたが、新は動かない。

 伝えたい言葉が多すぎて、逆に何を言えばいいのか迷っているようだ。

 謝罪を言うべきか、愛を伝えるべきか。


 それとも口にするのは未練が妥当か? 
 夢や希望か? 
 やり残したことを伝えるべきか。


「オレは……」

 言い淀む新の背中を、探偵がパンっと軽く叩いた。

「男は、引き際が肝心だ。これ以上甘えるのは卒業しな」

「――」

「『幸せかどうかは、自分次第であるHappiness depends upon ourselves』っていう格言もあるぜ? これから先はお前さん次第だ」

 探偵に促され、新は一度だけ聖を真正面から見ると、小さな声で呟くように言った。


「ありがとう」


 その言葉を受け、聖は寂しそうに微笑みながら、微かに頷いたのであった。

   END

ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。
本編はこれにて終了になります。
この後番外編の後日談となりますので、どうぞお楽しみに。
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