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本当のこと
しおりを挟む……だが、いつまで経っても挿入ってくる様子がない。不思議に思って顔を上げると、目の前には信じられない光景が広がっていた。彼のそれが、私の中に入る直前でぴたりと静止している。どうしていいかわからず、されるがままになっていると、彼はおもむろに腰を引いた。
「……ごめんなさい。やっぱり、大好きなあなたの苦しむ顔は見たくない……」
そう呟いて、彼は寂しげな笑みを浮かべた。そして、私の足をそっと床に降ろす。それから、ズボンを穿き直して優しく抱き締めてきた。私はしばらく呆然としていたが、ハッと我に返ると急いで身を起こした。この隙に、自分のはだけてしまった衣服も整える。彼はその様子を黙って見ていた。私は怖くて顔を上げられないまま、なんとか声を絞り出す。震える声で尋ねた。
「黒太郎くん、私を好きっていうのは本当?」
すると、彼は驚いたように目を見開いた。一瞬の間があって、その後こくりと小さく頷く。私はほっとした。
よかった……。まだ引き戻せるかもしれない。
そう思ったからだ。でも、それは甘い考えだったようで、私が起き上がろうとする前に、また両手を押さえつけられてしまう。仰向けに寝転んだ状態で彼の体の下に組み敷かれ、そのままじっと見下ろされる。その目はどこか虚ろで、焦点が合っていないように見えた。
やがて彼は、ぽつりと小さな声で言った。
「……でももう遅いですよね」
「そんなことないよ!」
咄嵯に大きな声で否定してしまった。彼の表情がわずかに歪む。悲しそうな眼差しだ。
「……全部、教えてよ。黒太郎くんのこと。……本当のこと……」
私が言うと、彼は少し迷うような素振りを見せた後、観念したように話し始めた。
「…………本当は……記憶喪失なんかじゃ、ないんです。普通の大学生で、自分の名前だって本当は覚えてて……。ただ、あなたと一緒に暮らすために嘘をつきました。僕は……ずっと前から、あなたのことが好きでした。……だけど、気持ちを伝えたらきっと嫌われると思って言えなかった。だから、あの日も最初は、何も言わずに帰ろうとしたんです」
そこまで言って、一度言葉を切った。そして、躊躇いながらも再び口を開く。その瞳には涙が滲んでいた。今にも泣き出してしまいそうだ。
「じゃあ、私の家の前で倒れてたのも、演技だったってこと?」
「あ、いえ。それは本当に倒れてたんです。あの日、なんだか無性にゆかりさんの顔が見たくなって。本当は外からチラっと中を覗くだけのつもりだったんですけど、ゆかりさんが留守にしてたので帰ってくるまで待とうと思って……そうしたら熱中症で……」
「あのとき黒いパーカー着てたのは何か意味があるの?」
「それは……いつもああいうの着てるっていうだけです。あんまり自分の体に自信がないから。なんか僕の体、すごい白くて、細いんですよ。男なのに弱そうな感じして、だからなんかかっこ悪いなっていうか……」
その言葉を聞いて、思わず脱力してしまう。そういうことだったのか……心配して損した。でも、今はそんなことはどうでもいい。私は彼の話の続きが気になった。
彼は私の手を握ると、祈るようにぎゅっと握り締めて続けた。今度は、はっきりとわかるくらいに目に涙を溜めている。唇が微かに震えていた。まるで、泣いているみたいに見える。それでも、必死に堪えようとしているようだ。
「そういえば、私のストーカーしてたのはなんだったの?」
「……それは、ゆかりさんのこと大好きだったから、アピールしたくて。自分ではストーカーのつもりはなかったんですけど」
「付きまとわれたり変な手紙送られてきたら普通気持ち悪いって思うよ」
「……そう……ですね、ごめんなさい……」
彼はしゅんとして俯いた。
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