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25 弁護士は疑問をまとめてくれた

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 仕事しながら失礼、と一言かけてから、私は自分の考えていることを彼につらつらと話し出した。
 と言うか、こういうことは結構手を動かしながらの方が言いやすい。
 要するに私は彼に私の考えていることをまとめてもらいたいのだ。
 キャビン氏はふんふん、とお茶を呑みながら、そして時々メモを取りながら私のとりとめのない話を聞いてくれた。
 まああえてとりとめなくしていた部分はある。
 ハッティとロッティも、そして他の同僚も、何だかんだ言って気にはしているのだろうから。
 そして一通り話終わった頃、籠の中のジャガイモはむかれて大きなボウルに盛られ、彼のメモは数頁に渡っていた。

「お一人で、色々考えましたね」
「考える時間だけはありましたから」
「ただやっぱりとりとめが無い。まず、アリサさん、貴女は最終的にどうしたいんですか? 貴女は時期が来れば子爵家へ逃げ込めばいい。子爵も、オラルフ氏の手により、貴女を引き取る計画はちゃくちゃくと進めています。考える時間があったなら、貴女自身もその辺りは考えていると思います。だからこそ、貴女の本当の、最終的な望みが何なのか、なんですよ」
「知りたい、では」
「知りたい、だけならきっとここまで執着はしないでしょう? 貴女は男爵をどうしたいのですか?」

 ぐっ、と私は詰まった。

「貴女はこう考えている。まず現在の男爵は、そもそものハイロール男爵とは縁もゆかりも無いドイツ系の誰かだと」

 私はうなづいた。

「言語の癖がどうなのか、その辺りも専門家に聞かせれば判ります。母語が何処なのか、というのは結構大きいものですよ」
「母語」
「最初に覚えた言葉です。それがまず、そのひとからは絶対消えません。生粋のドイツ系なのか、その中でもどの地方の出身なのか…… 向こうで生まれ育ったドイツ系の誰かなのか。ともかく生粋のこちらの出身であるハイロール男爵の一族なのかどうかは、それである程度は合否が出ます」
「出るんですね」
「はい。で、もしそうだとしたら、彼は何かしらの経緯で成り代わった。だとしたら、その場合、元々のハイロール男爵一族はどうなったのか、そして現在どうしているのか、ですね」
「ええ。事業はそのまま引き継いでいる部分もあるようなんですが」
「貴女は、その上に人身売買も絡めていると踏んでいる」
「そう。そうなんです。でも、向こうからの『ペット』はそれに当たるのでしょうか?」
「難しいところですね。我が国の民であるならともかく、異国の、しかも東洋のだとすると、人ではなくモノと見なされている。それに対して罪を課せるかというと難しい」
「……そうですか……」
「だから、もし貴女がお父上を告発したいと言うのなら、もともとのハイロール男爵一族の行方に関することですね」
「こくはつ」
「ええ、罪に問いたいということでしょう? 貴女は。公の場で」
「たぶん」
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