四代目は身代わりの皇后①発端

江戸川ばた散歩

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第22話 彼女達の誓い

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 え、とサボンは問い返した。アリカは繰り返した。

「本当に?」
「本当です」
「何でそんなこと、あんたに判るのよ」
「私だから、判るのです。それに可能性は、ありました」

 サボンは口を曲げた。

「何であんたは、そういうことさらっと言うのよ」
「いいじゃないですか。戻ってこれましたし。だから愚痴は後にお願いします。まず先に言わなくてはならないことがありますから」
「何」
「ともかくもう判っています。私の中に次の皇帝が居ます」
「本当なの」
「本当です。だから私が皇后になります。だから」

 こっちを向いて、と両手で頬を挟む動作をする。触れはしない。力の加減が効かないのだから。

「あなた、ずっと、私の側に居てくれますか?」
「え」
「私がこの先、どんなものになったとしても、一緒に居てくれますか?」

 真剣な、眼差し。サボンは思わず軽く身を退く。

「どうしたの一体…… 前から言っているでしょう? サボンはアリカのものだから、ずっと一緒に居るって言うのは……」
「ええ。だから、約束ですよ。私が、どんなに変わっても、変わらなくても、私がアリカである以上、サボンのあなたは、ずっと」
「ええ」
「私は変わってしまうでしょう」

 アリカは天井を見上げた。

「いえ、必ず変わる。変わらざるを得ない。いえ、もう変わってしまっているんです。その結果、態度も変わるし、あなたを足蹴にするような女になってしまうかもしれないし、あなたが泣き叫んで手放してくれと言っても、いつまでも掴んで放さないかもしれない。もしかしたら、さっきみたいに、何かの間違いで、―――死なせてしまうこともあるかもしれない」

 サボンはごくん、と唾を呑み込んだ。何を言い出すのだ、このひとは。

「それでも、居て下さい。お願いです」
「居るわよ」
「私が正気を無くしても?」
「居るわよ。だって、あんたが身代わりにならなかったら、私死んでたかもしれないでしょう?」

 ええ、とアリカはあっさりうなづいた。

「まず死んでました。そうでなかったら、狂ってました」
「そうなの?」

 サボンは肩をすくめた。

「そうです」

 アリカはうなづいた。

「馬鹿にしている訳ではありません。あなたや、あなたと同じくらいの令嬢なら、まず死ぬか狂ってました」
「あんたはどうよ」
「私は――― そうですね…… 何なんでしょう」
「運がいいのよ」

 サボンは断言する。 

「運がいい?」
「そうよ。運がいいのよ! だって、生き残って――― 皇后になれるんでしょう?」
「信じます?」

 アリカは首を傾げる。

「あんたがそう言ったんでしょ」

 サボンもまた、苦笑する。

「あんたが眠っている間に、お兄様がいらしたの」
「若様が」
「これからはあんたの兄上よ。お兄様には可哀想だったけど。あんたのこと、気に入ってたし。知ってた?」
「いえ」

 くすっ、とアリカは笑った。

「気付きませんでした」
「あんたってひとは……」
「私はそう器用ではないですから」
「冗談」
「いえ本当。器用ではないですよ」

 ふっ、とサボンは寝台に頬杖をつくと、軽く笑った。

「ともかくお互い、ここで生きてくの。お父様も私を娘としては見限ったわ。だったらここで、何とかして、生きていくしかないわよ。あんたがアリカ、私がサボン。できるだけ、嫌わないでよ。私の方が頼みたいわ」

 本当に、とアリカはうなづいた。



「お目覚めになられましたとーっ!」

 その晩の当直の侍医が、医女を連れてあたふたとやってきたのは、それからまもなくのことだった。

「こりゃまあ」

 侍医は眼鏡の下の目を大きく見開いた。

「全くの健康です」
「あの、先生、お嬢様はお腹が空いたとおっしゃるんですが」

 おお、と侍医は手を叩いた。

「食欲もお有りですか。よろしい、消化の良いものを」
「私なら大丈夫です」

 きっぱりとアリカは言った。  

「さっぱりしたものでは燃料になりません。ともかくいち早く身体を動かす力になるものが欲しいです」
「しかしあなた様は、十日近く、水の様なものしか口にしておられないのですぞ。さっぱりとしたものから戻さないと、内臓を痛めてしまいますぞ」
「ああ…… それは大丈夫です」

 言いながらアリカは先程の様に膝を立て、横目で侍医を見た。

「このままでは、私の中に居る子供が、私の肉も血も食らい尽くしてしまいます」

 へっ、と侍医はアリカを見た。

「何ですと?」
「そういう診察もしてもらえますか?」

 侍医は医女と顔を見合わせた。
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