反帝国組織MM⑤オ・ルヴォワ~次に会うのは誰にも判らない時と場所で

江戸川ばた散歩

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第6話 恋愛沙汰が起こせるのなら、反乱だって起こせるのかもしれない。

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 確かに彼らには、同じアンジェラス星域の人間でありながら、その土地に最初に到達し、適応した第一世代のような特別はっきりした力はなかった。
 鷹が彼に対して「声」を駆使していたとしても、それはあくまでひどく個人的な事柄に過ぎない。
 不老だ不死だということは共通であるのせよ、世代を追うごとにそういった特殊な能力は薄らいでいる。
 だから、結局そんな推測は、事実を元に経験を生かして考えるしかないのだが…… 確かに判らないのだ。
 今この時点でそんなことを起こして、何のメリットが彼らにあるというのか。
 そもそも「独立」と言ったところで、何をしたいのか。

「何、気になる?」
「まあね」
「珍しいな。君がそういうこと言うのは」
「え? そう?」

 そうだよ、と鷹はうなづいた。

「そうかなあ?」

 言われてみて、そうかもしれない、とGはぼんやりと思う。

「少なくとも俺は、君が何かに特別に興味を持つところを見たことがないけど」
「何、俺、あんたには興味持ってるじゃない」
「ああ――― そうだな」

 どうしたの、と彼は問いかけた。相手の声がこころもち何かを含んでいるような気がしたのだ。
 だがその問いかけには、答えはなかった。
 逆光で表情も見えない。答えの代わりに、手が伸ばされた。
 まだ足りないのか、とぼんやりと考えつつも、彼は伸ばされた手が自分に絡むのを感じていた。
 悪くはないのだ。嫌いじゃない。
 その声が耳から入り込み、自分の思考すら飛ばしてしまうのも、感覚を何倍にも尖らせるのも、熱い手が自分を抱きしめるのも、揺さぶられるのも、果てには自分の身体がここにあるのかすら判らなくなってしまうような感覚も、時には意識を手放してしまうような瞬間も。

 その全てが、彼は嫌いではないのだ。
 嫌いでは。



 新しい司令が来たのはそれからまもなくだった。
 それまでの司令は、特にそれまでの部下に告げることもなく母星へと帰って行った。Gはその知らせを聞いてはいたが、特にこれと言って感じるところのものはなかった。

「M、という名らしい」

 年上の友人は食事時に、耳聡いところを彼に見せた。

「M? 隠されているのは何かな」
「俺は昔の何処かの神の名を思い出したね」

 へえ、とGは友人の言葉にうなづく。そしてどんな神だったのか、と彼は訊ねた。

「そうだな…… よくある一神教のそれじゃなあなくてさ」
「と言うと?」
「自然神と言うか。わりあい原始的な宗教の一種らしいよ。そばにあるもの全てに宿る神って奴かな?ちょっと俺も忘れたけど」
「原始的?」
「まあね。だからこそ、それを信じる心は純粋ってことかな」
「それにちなんでいる名だと?」
「俺はそう思っただけ。別にそうとは限らないだろ?」

 それはそうだ、とGは思う。ただ、そんな名を…… 持っていた、ならまだいいが、自分でつけたのだったら。
 何となく彼はぼんやりとした不安を感じていた。

 程なくして新しい司令は、マレエフに到着した。
 前司令を見送らなかったと同じく、新司令を大勢で迎えることもなかった。ただ簡単な紹介と、赴任の理由を説明する場が設けられただけだった。
 そしてそこで、彼は自分達の新しい司令をその時初めて見た。
 一目見た瞬間、彼は息を呑んだ。聞いていたその名が、その姿には、ぴったりと当てはまった。
 軍の共通の帽子の下からは、蒼とみまごう程のつややかな長い黒髪がざらりと流れている。
 その下には、美しい仮面が。閉じることを忘れたように開かれたくっきりとした目、鮮やかな唇。
 いやもちろんそれは、仮面ではない。生身の顔だった。だがそれを信じるのが難しいくらい、その表情は、動くことを知らない様に、そこに居る誰もに思われたのだ。
 Gは無礼であることも忘れて、しばらく新司令の姿に見入っていた。
 それに気付いたのかどうなのか、一瞬新司令が自分の方を向いたような気がした。ちらりと、その凍り付いたような視線が、自分に向けられたような気がしたのだ。
 だがそれはほんの一瞬のこと――― だったに違いない。
 席につくと、新司令のMは、無言のまま手にしていた鞭を軽く上げ、副司令に説明をうながした。
 副司令は慌てて用意していた説明用の画像をセットさせた。
 ぶ、と軽い音がして、映像が正面のスクリーンに開いた。
 新しい司令の着任の理由と、それに伴う作戦について軽く説明を始まる。
 Gはやや緊張した。変化の無かったこの地に、変化が起こるのだ。彼はちら、と司令に視線を移した。―――その途端、彼は眉を軽くひそめた。
 説明の主人公であるはずの司令は、その様子を表情を映し出さない目で、さほどの興味も湧かない、とでも言うように投げやりに眺めている。
 副司令はそんな視線に気づいたのか気づかないのか、続ける。

「……すなわち、『独立』などというたわごとを掲げる暴徒を一掃することが、我々に課せられた中央からの…… 引いては母星からの命令である」

 Gはそれを聞きながら、あまり自分がいい気分がしないことに気づいていた。
 だが友人の心配も判るので、あからさまには顔には出さない。ただ、その話の間中、少しばかり視線をひざに落としていただけである。
 たわごとと言うには、あのモニターに映し出されたレプリカの首領の瞳は、意志に溢れすぎていた。
 考えに考え抜いた者の持つ意志の力を、彼は感じたのだ。
 もっとも、Gは、これまで特にレプリカに何らかの感情を持ったことはない。
 アンジェラス星域の母星においては、そもそもメカニクル自体、大した数はいないのである。
 自分のことは自分で、という風潮を持つ自然満載の母星の環境の中では、人間の補助的存在であるメカニクルは不要な存在だった。
 だから彼にとってレプリカントは「縁が無い」というのが正直なところだった。
 縁がないものに、大して感情を持ちようがない。レプリカが人間と恋愛沙汰を起こした、と聞いたところで、ああそうですかと言うしかないのである。そういうこともあるのか、それなら仕方ないな、と。
 だが彼はあのモニターを見た日からずっと思っていた。
 恋愛沙汰が起こせるのなら、反乱だって起こせるのかもしれない、と。
 無論彼も、鷹の言ったように、「命令」のことは気にはなった。
 レプリカントだけでなく、全てのメカニクルに共通した、「人間への服従」を規定した一文である。それは全てのメカニクルにとって、反抗すれば自己崩壊を招くものであることはよく知られたことだった。
 だが何からの形でそれを解除することができたなら。
 人間の開発したものである。完璧ということはないはずなのだ。
 前の話が切れたので、Gははっとして顔を上げた。
 副司令はまだそれでも前に居る。ちら、と彼は司令の方へと視線をやった。
 そしてその瞬間、彼はさっと血が引く感覚を覚えた。司令の視線は自分に向けられていたのだ。

 程無くして、解散の号令がかかった。官舎の、自分の部隊の集合場所へと向かおうとした時、彼は下士官に呼び止められた。

「司令がお呼びです、少佐」

 彼の背中にまた、軽い悪寒が走った。
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