反帝国組織MM⑤オ・ルヴォワ~次に会うのは誰にも判らない時と場所で

江戸川ばた散歩

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第14話 惹かれたのは、格別な意味があった訳じゃなかった。

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「だけどなあ」
「何も無茶で無謀だからって、俺が必ず死ぬって決まった訳じゃないし、だいたい俺達は、『優秀な兵士』だよ?そう簡単には死なないだろう?」
「それはそうだけど……」

 友人の視線が、何気なく一点を見据えている。Gはそれが自分の手であったことは判ったが、何故友人がそんなところをじっと見ているのか、その理由は判らなかった。
 とりあえず、一言を付け加える。

「大丈夫、俺は死なないから」

 確かに。それは嘘ではない。
 彼は、死ぬ気だけはさらさらなかった。



 何かが変わってきている、と鷹は思っていた。確実に。
 自分ではない、とは思う。変わったとしたら、相手だった。あの年下の友人が、変わってきたのだ。
 無論彼は彼で、人の心の永遠を信じる程純粋ではない自分を知っている。その時はその時だ、と割り切っていたつもりなのだ。
 だがそう簡単に割り切れる程に単純ではない。それを自分自身というもので思い知らされるものだとは、さすがに彼も予想していなかった。
 Gの隊が出撃してから、数日が経っていた。
 レプリカントの工場のあるヴィクトール市は、数少ないこのマレエフの都市の中では、彼らの基地のある場所からは遠い所にある。
 だがこの時代である。一つの惑星上で「遠い」と言ったところで、それは大した距離ではない。
 ただ問題なのは、彼らが出撃して以後、電波障害がひどくなったことだった。もともとこの惑星は電波状況は良いとは言えない。それが開発に熱心でない理由の一つでもある。
 だが鷹は過去の惑星開発の理由などどうでもいい、と思う。問題は現在だった。出撃した部隊との交信が全くできなくなっているのだ。
 そしてそれを確かめるべく出動した隊もまた、何処で迷子になっているのか、予定の時間になっても戻らない。彼はその知らせを聞いた時、思わず爪を噛んだ。
 二の舞になることが判っているから、基地の居残り組は、手も足も出ない状態だった。そしていつの間にか機械に依存している自分たちに対して悪態をついた。
 母星に居る頃はそうではなかったのだ。
 確かに母星の環境が、電波障害とは無縁だった、ということもあったろうが、それ以上に、アンジェラス星域の母星では、そんなものに頼らずとも、一人一人が、アンテナであり通信機であった。上の世代は、それこそテレパシイを持っていたし、直接的にそういう交信手段として能力を持たない下の世代にしても、能力を持つ者のアンテナにはなり得た。
 だがどうだろう。困ったものだ、と顔をつき合わせた士官達の間で、鷹は皮肉気な笑いを浮かべる。「優秀な兵士」アンジェラスの天使種も、そんなものなんだよ、と彼は内心つぶやく。そうせずにはいられない。
 一つの不安は、他の不安の存在をも思い起こさせる。彼にとっては、あの出動の直前の友人の姿もその一つだった。
 あの朝の食堂で、Gは嘘をついていた。少なくとも彼にはそう感じられた。
 何を自分に隠しているのかは判らなかった。言っていることも事実は事実だろう。出撃のことも、仕方ないだろうという言葉自体にも、それは本当だろう、と感じられた。なのに、それ自体ではなく、そのあたりに、何か嘘が感じられた。

 何だろう。

 年下の友人の手は、無意識に閉じたり開いたりしていた。それは友人の癖だった。指摘したことはない。指摘することで余計に気にするかもしれない、と思ったし、それはそれで、一つの目印になるのだから、言わずにおいていた方が面白い、とも思った。
 あの時の友人の手は、本当に無意識に動いていた。

   *
 
 惹かれたのは、格別な意味があった訳じゃなかった。少なくとも最初は、冗談のつもりだった。
 士官学校に入ったのは決して本意ではなかった。彼が望んで足を向けた道ではない。
 ただそれがその時期の母星のその年代の青年の義務のようなものであったから、彼は大人しく出向いていたにすぎない。
 そして出向いたら出向いたなりに、彼はわりあい要領よく立ち回ることができる質ではあった。同じだけの才能を持った生徒がいたとしたら、彼はそれを如何にそれ以上のものに見せるかをよく知っていた、とも言える。
 そういうものだ、と思っていたのだ。生きていくというのは、要領よく全てのことをすりぬけることだ、と。それで十分だ、と考えていたのだ。
 あの時までは。

 まあ何とかなるだろう、と考えていた。
 士官学校のお祭り騒ぎは、毎年恒例のものだった。その年には「上級生」の看板を背負っていた彼にとっては既にお馴染みのものである。
 何事につけてもそつなくこなし、それなりに華もある彼は、こういったお祭り騒ぎの時には、何かとかり出される。その年もそうだった。
 そして何かとかり出されるために、その忙しい予定はしばしば交差する。仕方ないな、と思いながら、優先順位をつけて、下位の相手にはにこやかに断りを入れて。
 「合唱」など、その下位のいい例だったのだ。毎年同じ曲を演る。真面目にやっているのは、その年の新入生くらいなものである。
 だからその年の伴奏者が誰になったかも知らなかった。
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