110 / 125
落ちてきた場所を探して(帝国を終わらせるために)
第107話 自動車が普及していない地方
しおりを挟む
「へえ……」
思わずユカリはそう声にしていた。
「どうした? 思ったより小さな駅でびっくりしたか?」
「……まあ、正直言えば」
実際そうだった。海南市は大陸横断鉄道の終着駅である。帝都から途中、梅香市・梨花といった二つの大きな駅をはさみ、一応この海南市も、青海に面した都市間鉄道のターミナルでもあるのだ。
「なのにこの大きさ」
こぢんまりとしている。可愛らしい、と言ってもいい。赤い屋根は、三角に似ていたが、その手前で一度折れ曲がる形になっている。
「使用する目的は色々あるかもしれないが、何せ人の数が少ないからな、こうなってしまうのだろう」
「確かにこの間降りたあの駅よりは大きいけど」
カバンを手に、駅舎の前で二人はそんな会話を広げていた。ナギは首を回したり足を曲げ伸ばしたりしていた。どうもずっと座りっぱなしだったことから、筋肉がこわばっているらしい。
しかしそれでも、確かに大陸横断列車の駅だけあって、駅前はそれなりににぎわいがあった。駅舎から出てすぐに、車回しがあるだけでも、それは既に「都市」であったから。自動車が普及していない地方は未だに多いのだ。
「それで、今からどっちへ行くの?」
ユカリは訊ねた。
「ちょっとばかり、知り合いの所へ寄りたい」
「知り合いって」
「知り合いだ」
そして車を拾おう、と彼女は車回しの方へと進む。歩いて何処へでも行きそうだったのに、と彼は多少驚く。
車は多くは無かったが、すぐにつかまった。
「清野の町の、エゼ屋は知ってます?」
口調を改めて、ナギは運転手に問いかける。
「清野? あそこへ行くのかい? 学生の嬢さん」
「ええ、知り合いが居るので」
「……ならいいが」
運転手の口調は決して勧められたものではない、と露骨に物語っていた。ナギはそれに気づかないふりをしているのか、角が丸くなった小さな窓から、外を眺めていた。
わざわざ車を頼むくらいだから、遠いのか、とユカリは思ったのだが、運転手がもうここは清野の町だ、と言ったのは、駅を出てからそう時間は経っていなかった。
それからひどくゆっくりと車は進み、やがて止まった。
「はいここがエゼ屋だよ。お嬢ちゃん、帰りはいいのかい?」
「心配ありがとう。でも知り合いが居るから。それにお兄さんも」
「ほほう。お兄さんここで変な気を起こすんじゃないよ?」
運転手はそういうと、肩をすくめて彼らに代金を請求した。ナギが少し多めに払おうとすると、学生からもらう訳にはいかない、と言っただけの分しか手にしなかった。ありがとう、とナギはにっこりと笑った。
車から出たユカリの目の前にあったのは、三階建ての店だった。木造のその建物には大きな、立派な入り口が開いているのだが、その奥は白い格子戸で見えない様になっている。
「立ち止まるなよ」
ナギはぽん、と彼の背を叩いた。
「ナギ、これは……」
「ん? 店だ。エゼ屋と言ってな…… 私は二年ほどここに居たんだが……」
彼はそれを聞いて眉をひそめた。
「いいのか?」
「いいさ。ここを離れて三年ほどだ。まだ大丈夫だ。この格好してるから若く見えるんだってことにできる」
そういうものだろうか、と彼はやや疑問に思うのだが、本人がそういうのだから仕方が無い。ナギはさっさと扉に手をかけた。
がらがらと音を立てて開いた扉の向こう側では、髪の毛が残りわずかな男がやや小さめの新聞を手に、煙草をふかしていた。だが扉が開いたとたん、それをばさりと閉じ、眼鏡を持ち上げた。そして入ってきた彼女の姿を認めると、また新聞を改めて開く。
「……何だね学生のお嬢さん、ここは女の子の来る店じゃないよ」
「ふうん。さすがにこの服の威力は大きいねえ」
ナギは声を張り上げた。
その声にはっとして、男は再び顔を上げた。そして今度は、眼鏡をしっかりと自分の顔に合わせ、逆光で見えにくかった少女の姿をとらえ直す。
「久しぶりだ、親爺どの」
「お前は……」
何があったことか、と奥からやっぱり年輩の女があちこちに目隠しの様に掛けられた布を退けながら現れた。ずいぶん厚化粧だ、と彼女の後から入ってきたユカリは思う。おまけに派手な衣装だ、と。
「あら! もしかして、ナギちゃんかい?」
「久しぶりです、女将」
「あらあらあらあらあらあら」
言いながら、女将と呼ばれた女性はすり足気味に近づいてくる。
思わずユカリはそう声にしていた。
「どうした? 思ったより小さな駅でびっくりしたか?」
「……まあ、正直言えば」
実際そうだった。海南市は大陸横断鉄道の終着駅である。帝都から途中、梅香市・梨花といった二つの大きな駅をはさみ、一応この海南市も、青海に面した都市間鉄道のターミナルでもあるのだ。
「なのにこの大きさ」
こぢんまりとしている。可愛らしい、と言ってもいい。赤い屋根は、三角に似ていたが、その手前で一度折れ曲がる形になっている。
「使用する目的は色々あるかもしれないが、何せ人の数が少ないからな、こうなってしまうのだろう」
「確かにこの間降りたあの駅よりは大きいけど」
カバンを手に、駅舎の前で二人はそんな会話を広げていた。ナギは首を回したり足を曲げ伸ばしたりしていた。どうもずっと座りっぱなしだったことから、筋肉がこわばっているらしい。
しかしそれでも、確かに大陸横断列車の駅だけあって、駅前はそれなりににぎわいがあった。駅舎から出てすぐに、車回しがあるだけでも、それは既に「都市」であったから。自動車が普及していない地方は未だに多いのだ。
「それで、今からどっちへ行くの?」
ユカリは訊ねた。
「ちょっとばかり、知り合いの所へ寄りたい」
「知り合いって」
「知り合いだ」
そして車を拾おう、と彼女は車回しの方へと進む。歩いて何処へでも行きそうだったのに、と彼は多少驚く。
車は多くは無かったが、すぐにつかまった。
「清野の町の、エゼ屋は知ってます?」
口調を改めて、ナギは運転手に問いかける。
「清野? あそこへ行くのかい? 学生の嬢さん」
「ええ、知り合いが居るので」
「……ならいいが」
運転手の口調は決して勧められたものではない、と露骨に物語っていた。ナギはそれに気づかないふりをしているのか、角が丸くなった小さな窓から、外を眺めていた。
わざわざ車を頼むくらいだから、遠いのか、とユカリは思ったのだが、運転手がもうここは清野の町だ、と言ったのは、駅を出てからそう時間は経っていなかった。
それからひどくゆっくりと車は進み、やがて止まった。
「はいここがエゼ屋だよ。お嬢ちゃん、帰りはいいのかい?」
「心配ありがとう。でも知り合いが居るから。それにお兄さんも」
「ほほう。お兄さんここで変な気を起こすんじゃないよ?」
運転手はそういうと、肩をすくめて彼らに代金を請求した。ナギが少し多めに払おうとすると、学生からもらう訳にはいかない、と言っただけの分しか手にしなかった。ありがとう、とナギはにっこりと笑った。
車から出たユカリの目の前にあったのは、三階建ての店だった。木造のその建物には大きな、立派な入り口が開いているのだが、その奥は白い格子戸で見えない様になっている。
「立ち止まるなよ」
ナギはぽん、と彼の背を叩いた。
「ナギ、これは……」
「ん? 店だ。エゼ屋と言ってな…… 私は二年ほどここに居たんだが……」
彼はそれを聞いて眉をひそめた。
「いいのか?」
「いいさ。ここを離れて三年ほどだ。まだ大丈夫だ。この格好してるから若く見えるんだってことにできる」
そういうものだろうか、と彼はやや疑問に思うのだが、本人がそういうのだから仕方が無い。ナギはさっさと扉に手をかけた。
がらがらと音を立てて開いた扉の向こう側では、髪の毛が残りわずかな男がやや小さめの新聞を手に、煙草をふかしていた。だが扉が開いたとたん、それをばさりと閉じ、眼鏡を持ち上げた。そして入ってきた彼女の姿を認めると、また新聞を改めて開く。
「……何だね学生のお嬢さん、ここは女の子の来る店じゃないよ」
「ふうん。さすがにこの服の威力は大きいねえ」
ナギは声を張り上げた。
その声にはっとして、男は再び顔を上げた。そして今度は、眼鏡をしっかりと自分の顔に合わせ、逆光で見えにくかった少女の姿をとらえ直す。
「久しぶりだ、親爺どの」
「お前は……」
何があったことか、と奥からやっぱり年輩の女があちこちに目隠しの様に掛けられた布を退けながら現れた。ずいぶん厚化粧だ、と彼女の後から入ってきたユカリは思う。おまけに派手な衣装だ、と。
「あら! もしかして、ナギちゃんかい?」
「久しぶりです、女将」
「あらあらあらあらあらあら」
言いながら、女将と呼ばれた女性はすり足気味に近づいてくる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!
虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん><
面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
現代にダンジョンが現れたので、異世界人とパーティ組んでみた
立風館幻夢/夜野一海
ファンタジー
世界を研究する「普通」の女子大学院生、「猪飼瑠璃(いかいるり)」、彼女は異世界人と友達になることを夢見て、日々研究に勤しんでいた。
ある日、いつものように大学院に向かっている最中、大地震に巻き込まれる。
……揺れが収まり、辺りを見ると、得体のしれないモンスターと猫獣人が現れた!?
あたふたしているうちに、瑠璃はダンジョンの中へと迷い込んでしまう。
その中で、エルフの少女、吸血鬼の少女、サキュバスの女性、ドワーフの男性と出会い、彼らとパーティを組むことになり……。
※男性キャラも数人登場しますが、主人公及びヒロインに恋愛感情はありません。
※小説家になろう、カクヨムでも更新中
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜
岩 大志
ファンタジー
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!???
そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる