七代目は「帝国」最後の皇后

江戸川ばた散歩

文字の大きさ
111 / 125
落ちてきた場所を探して(帝国を終わらせるために)

第108話 「この服は結構便利なんだ」

しおりを挟む
「まあまあまあまあ、本当に学生さんになっちゃって。見違えちまったよ」

 そして近づくと、女将は彼女の肩から腕やらを両手でぽんぽんとはたいた。

「まあまあ本当によく似合う。けどあんた、中等学校の歳だったかね?」
「遅れているから、特別に入れてもらったんだ」

 あっさりと彼女はそう言ってのける。それを信じたのか、女将はほぉとかへぇ、とかいう声を繰り返した。その間も、新聞を読んでいた男は、何だかなあ、という顔をしたままで、椅子に掛けたまま、腕を組んでいる。

「……で何だい突然こんなところへ。そんな目立つ格好で来るところじゃないだろう?」
「この服は結構便利なんだ」

 ナギは短く、ユカリに言ったのと同じことを言った。だが彼に言ったのとは違って、それ以上の説明はしなかった。

「それより、ちょっと頼みがあって」
「頼み? わざわざうちに聞く様なことかい? そんな、官立の学校に行ける様な身分になったお嬢さんが」

 男はやや皮肉げに声を張り上げた。

「私は別にお嬢さんになった訳じゃないさ。お嬢さんについているだけだ。まあそれはいいが、親爺、アージェンが沈んだあたりの、詳しい位置とか判らないかな」
「アージェンの?」

 女将は眉を寄せる。

「彼女を、探したいんだ」
「馬鹿なことを言うんじゃない」
「本気だ私は。資金はあるんだ。引き上げるために人手や機械が必要だったら、取り寄せる。ただ、彼女が船を出して、沈んだとされたあたり、をちゃんと知りたいんだ」
「ナギちゃんあんたは、時々突拍子も無いことを言う子だとは思ったけれど、また今度はとびきりだね。見つからないよ、あの子は」
「それはまだ、やってみなくては判らないでしょう?」
「お前は海の怖さを知らないんだ」

 ばさ、と今度こそ男は新聞を畳んだ。

「アージェンは、あの時死にに出たんだ。今更探してどうする? まさかお前、あれが生きてるなんて思ってはいないだろうな?」
「まさか。生きているなんて思ってはいない。だけど、誰もいない海の底で眠ったままなんていうのはあまりにも可哀想だ。せめて地上できちんと葬ってあげたいと思うのは当然じゃないか?」
「あんたねえ、それはいいけれど、海なんて、そんなところをどうこうするためのお金は、何処から出ているんだい? こんな家のあたしらが言っちゃなんだが、海を洗い出そうなんて、よっぽどのお金が要るんだよ?」
「じゃあ白状しましょうか? 実は、私がついているホロベシ男爵家のご主人が、やがて東海航路線を開くらしいんで、調査に乗り出そうってことなんだ」

 ひえっ、と女将の口から息を呑む声がする。

「何あんた、ホロベシ男爵さまの所に居るのかい?」
「ちょっとしたご縁って奴でね。お嬢さんと一緒に学校に行ってるんだ。会社の方に任せると、そんなとんでもない計画が、何処からどう漏れるか判らない。だから私の様なちょっと見には判らない女が動くんだったら、調査も秘密にできるだろうってことなんだ」
「何だね。じゃあアージェンのことは、口実かい?」

 何故か少しがっかりした様に、女将は言う。ナギはそれに首を横に振った。

「口実はそっち。私の目的は、あくまでアージェンの遺体を見つけだしたいということだ。向こうの目的をちょっと利用させてもらおうと思うんだ。だったらどうかな? 女将、協力を頼めないかな?」

 ふむ、と女将も腕を組み、考え込む。

「けどなイラ・ナギ、男爵様はちぃと前に事故で亡くなったとか新聞に出ていなかったか?」
「本当かい?」

 ナギが微かに眉を動かすのをユカリは見た。

「ええそれは本当。だけど、その計画のことは前々から言われていたし、私がその件を頼まれているのも本当なんだ。嘘だと思ったら、男爵家の執事にでも聞いてみればいい」
「ふん」

 男は言葉と鼻息を一度に吐き出した。

「どうだろう?」
「……あたしはいいがね。ところでナギちゃん、今夜は何処かに泊まっているのかい?」
「いや、まだ」
「だったら泊まってくがいい。ちょっとあたしも、地図が何処にあるのか忘れちまった。そこのお兄さんは、別々がいいのかい?」
「ありがとう。でも一緒でいい」
「ふうん」

とうなづくと、女将はにやにやとユカリに向かって笑い掛けた。

「こいつに女を教えようとか変なことを考えるんじゃないぞ、女将、これは私のだ」
「なるほどね」

 かかかか、と女将は笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

汚部屋女神に無茶振りされたアラサー清掃員、チートな浄化スキルで魔境ダンジョンを快適ソロライフ聖域に変えます!

虹湖🌈
ファンタジー
女神様、さては…汚部屋の住人ですね? もう足の踏み場がありませーん>< 面倒な人間関係はゼロ! 掃除で稼いで推し活に生きる! そんな快適ソロライフを夢見るオタク清掃員が、ダメ女神に振り回されながらも、世界一汚いダンジョンを自分だけの楽園に作り変えていく、異世界お掃除ファンタジー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

現代にダンジョンが現れたので、異世界人とパーティ組んでみた

立風館幻夢/夜野一海
ファンタジー
世界を研究する「普通」の女子大学院生、「猪飼瑠璃(いかいるり)」、彼女は異世界人と友達になることを夢見て、日々研究に勤しんでいた。 ある日、いつものように大学院に向かっている最中、大地震に巻き込まれる。 ……揺れが収まり、辺りを見ると、得体のしれないモンスターと猫獣人が現れた!? あたふたしているうちに、瑠璃はダンジョンの中へと迷い込んでしまう。 その中で、エルフの少女、吸血鬼の少女、サキュバスの女性、ドワーフの男性と出会い、彼らとパーティを組むことになり……。 ※男性キャラも数人登場しますが、主人公及びヒロインに恋愛感情はありません。 ※小説家になろう、カクヨムでも更新中

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

天竜川で逢いましょう 〜日本史教師が石田三成とか無理なので平和な世界を目指します〜

岩 大志
ファンタジー
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!!??? そもそも現代人が生首とか無理なので、平和な世の中を目指そうと思います。

処理中です...