140 / 208
134 妹、再び帝都来襲⑤
ポーレは少年を浴室に連れていき軽く洗うと、とりあえず大人用のシャツの見本を取り出した。
さすがに子供用の服まではこの工房は扱っていない。
後で着替えは買いに行くしかない、と少し心中ため息をつく。
だが子供の前ではそんな表情は見せなかった。
ちょっと突っつくとまた泣きそうな少年を下手に刺激してはいけない。
平気で頬をはたくアンジーを見て、身体の方に傷跡とか打痕が無いかとざっと見る。
胴体には無いが、腕にはちょこちょことつねった痕があった。
予想はしていたが、やはり見て楽しいものではない。
それにこの少年、妙に痩せすぎていないか?
洗っていてもあばらが浮いている。
何故だ? 一応お坊ちゃまではないのか?
「大人しくしてて下さいね。あとで美味しいものをあげましょう」
「ほんとう!? でも」
そこでいきなり「でも」と来た。
「どうしました?」
「ぼくひとりでいいの」
「いいですよ? それとも、誰かに横から取られてしまうんですか?」
かまをかけてみる。
少年はびく、と身体を震わせた。
「とられるんじゃなくて、あげるんだ」
「誰に?」
「おかあさまに」
ははん、とポーレは少年が背を向けた瞬間、思い切り顔を歪めた。
「大丈夫ですよ。お母様は今お話中ですから。坊ちゃんが食べているところを邪魔させはしません」
「ほんとうに?」
「約束します」
すっ、と少年の身体の力が抜けた様にポーレには思えた。
小さな身体にはぶかぶかのシャツはそれだけで上下を兼ねる。
肩の辺りを思い切り上げて留めて、それでも袖口は沢山折って。
引きずってしまうので腰のところでいったん革紐をベルト代わりにして、上半身を膨らめて。
それでやっと服らしくなった。
靴は無いので、自分達が足を休める時に履くサンダルやスリッパの中で、先が開いていないものをとりあえず見繕った。
そのまま厨房へと連れて行き、調理用に使うテーブルに椅子を持ち込んで座らせた。
「大人しくしていたら、美味しいものが出てきますよ」
「うん!」
少年から初めて元気な声が出た。
ポーレはすぐにできるものを、ということでパンをサイコロ状にカットすると、ボウルに割り込んだ卵にミルクを少し混ぜ、よくよくかき混ぜたものに浸した。
染みるまでの間に平たい浅い片手鍋を熱すると、氷の冷蔵庫からバターを取り出した。
熱せられた鍋にじゅわ…… とバターが溶け広がり、一気に厨房が香ばしい匂いに包まれた。
少年もそれに気付き、わくわくしている様だった。
そろそろいいかな、とポウルの中身を一気に鍋に入れる。
蓋をして火を弱め、少しの間。
固まるか固まらないか、充分温まったあたりでポーレは深手の皿にそれを盛り付け、上から蜂蜜をとろりと回しがけした。
「さあどうぞ」
出したのはスプーン。
大人だったら形のしっかりしたもの、焼き色とかこだわりもするが、子供ならまずスピードだった。
手早く美味しいものを、と思いついたのは甘いパンがゆだったのだ。
「どうしたんですか? 全部どうぞ」
「い、いいの?」
「お腹壊さない程度に」
ポーレの言葉に少年は、勢いよくがつがつと食べ始めた。
その様はとても貴族の子供には思えなかった。
四つかそこらなら――だが、母親はテンダーにもその頃からしつけはしていたということだった。
しつけをされていないのか、それとも本当にお腹がひたすら空いているのか。
眺めながら、その辺りもこの後やってくるであろう母に聞かなくてはならないだろうな、と彼女は思う。
――そんな時だった。
「何このいい匂い!」
椅子に縛り付けられながら――椅子を引きずったまま、少年の母親が突撃してきたのだ。
さすがに子供用の服まではこの工房は扱っていない。
後で着替えは買いに行くしかない、と少し心中ため息をつく。
だが子供の前ではそんな表情は見せなかった。
ちょっと突っつくとまた泣きそうな少年を下手に刺激してはいけない。
平気で頬をはたくアンジーを見て、身体の方に傷跡とか打痕が無いかとざっと見る。
胴体には無いが、腕にはちょこちょことつねった痕があった。
予想はしていたが、やはり見て楽しいものではない。
それにこの少年、妙に痩せすぎていないか?
洗っていてもあばらが浮いている。
何故だ? 一応お坊ちゃまではないのか?
「大人しくしてて下さいね。あとで美味しいものをあげましょう」
「ほんとう!? でも」
そこでいきなり「でも」と来た。
「どうしました?」
「ぼくひとりでいいの」
「いいですよ? それとも、誰かに横から取られてしまうんですか?」
かまをかけてみる。
少年はびく、と身体を震わせた。
「とられるんじゃなくて、あげるんだ」
「誰に?」
「おかあさまに」
ははん、とポーレは少年が背を向けた瞬間、思い切り顔を歪めた。
「大丈夫ですよ。お母様は今お話中ですから。坊ちゃんが食べているところを邪魔させはしません」
「ほんとうに?」
「約束します」
すっ、と少年の身体の力が抜けた様にポーレには思えた。
小さな身体にはぶかぶかのシャツはそれだけで上下を兼ねる。
肩の辺りを思い切り上げて留めて、それでも袖口は沢山折って。
引きずってしまうので腰のところでいったん革紐をベルト代わりにして、上半身を膨らめて。
それでやっと服らしくなった。
靴は無いので、自分達が足を休める時に履くサンダルやスリッパの中で、先が開いていないものをとりあえず見繕った。
そのまま厨房へと連れて行き、調理用に使うテーブルに椅子を持ち込んで座らせた。
「大人しくしていたら、美味しいものが出てきますよ」
「うん!」
少年から初めて元気な声が出た。
ポーレはすぐにできるものを、ということでパンをサイコロ状にカットすると、ボウルに割り込んだ卵にミルクを少し混ぜ、よくよくかき混ぜたものに浸した。
染みるまでの間に平たい浅い片手鍋を熱すると、氷の冷蔵庫からバターを取り出した。
熱せられた鍋にじゅわ…… とバターが溶け広がり、一気に厨房が香ばしい匂いに包まれた。
少年もそれに気付き、わくわくしている様だった。
そろそろいいかな、とポウルの中身を一気に鍋に入れる。
蓋をして火を弱め、少しの間。
固まるか固まらないか、充分温まったあたりでポーレは深手の皿にそれを盛り付け、上から蜂蜜をとろりと回しがけした。
「さあどうぞ」
出したのはスプーン。
大人だったら形のしっかりしたもの、焼き色とかこだわりもするが、子供ならまずスピードだった。
手早く美味しいものを、と思いついたのは甘いパンがゆだったのだ。
「どうしたんですか? 全部どうぞ」
「い、いいの?」
「お腹壊さない程度に」
ポーレの言葉に少年は、勢いよくがつがつと食べ始めた。
その様はとても貴族の子供には思えなかった。
四つかそこらなら――だが、母親はテンダーにもその頃からしつけはしていたということだった。
しつけをされていないのか、それとも本当にお腹がひたすら空いているのか。
眺めながら、その辺りもこの後やってくるであろう母に聞かなくてはならないだろうな、と彼女は思う。
――そんな時だった。
「何このいい匂い!」
椅子に縛り付けられながら――椅子を引きずったまま、少年の母親が突撃してきたのだ。
あなたにおすすめの小説
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
【完結】平凡な容姿の召喚聖女はそろそろ貴方達を捨てさせてもらいます
ユユ
ファンタジー
【 お知らせ 】
先日、近況ボードにも
お知らせしました通り
2026年4月に
完結済みのお話の多数を
一旦closeいたします。
誤字脱字などを修正して
再掲載をするつもりですが
再掲載しない作品もあります。
再掲載の時期は決まっておりません。
表現の変更などもあり得ます。
他の作品も同様です。
ご了承いただけますようお願いいたします。
ユユ
【 お話の内容紹介 】
“美少女だね”
“可愛いね”
“天使みたい”
知ってる。そう言われ続けてきたから。
だけど…
“なんだコレは。
こんなモノを私は妻にしなければならないのか”
召喚(誘拐)された世界では平凡だった。
私は言われた言葉を忘れたりはしない。
* さらっとファンタジー系程度
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
お言葉ですが今さらです
MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。
次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。
しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。
アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。
失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。
そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。
お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。
内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。
他社サイト様投稿済み。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!
山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。
「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」
周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。
アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。
ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。
その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。
そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。
学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?
今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。
しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。
が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。
レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。
レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。
※3/6~ プチ改稿中