165 / 208
159 新しい店④無意識なモデル達
イリッカとリーカはテンダーの工房で「よく来てくれたわね」とにこにこ顔で迎えられると、いきなり巻き尺を突きつけられた。
「え」
「いえ、今度の服って、ほら、サミューにも似合う様に、若い子の夏向け軽い外出用のものを中心に考えているのよね。で、もう私達もいい歳だから、若い子に似合うってのがよく分からなくなってきているし! 動きやすさとかもあるしね」
つらつらと立て板に水式に話すテンダーの勢いに、イリッカとリーカが呆然としているうちに、サミューリンの時の様にさくさくと採寸が行われた。
「で、今日サミューリンが着ていたのが、このデザインなんだけど」
服を直しつつもまだ呆然としている少女達にやれやれ、とばかりにサミューリンはお茶と菓子をすすめつつ、ぽんと肩を叩いた。
あきらめてここは聞いておけ、とそうすれば新しい服も手に入るよ、とその肩叩きには意味が込められていた。
テンダーは画帳を開くと、幾つかのデザインを二人に見せた。
さすがに具体的なデザインを見せられると、二人も身体を乗り出した。
「あ、これ可愛いですね!」
「これは涼しそう。でも今だとまだちょっと?」
「あ、その場合下に着るブラウスを長袖にするってことで」
ポーレもさりげなくそこに生地を持ち出してくる。
サミューリンの着ていたものは軽くごつごつとした表面の格子模様だ。
その他、ちりちりとした細かい模様織りのもの、染め模様にしても、大小の水玉だったり小紋だったりと様々なものが次から次へと現れる。
「貴女方に三着それぞれ違う物を作ろうと思うから、選んでちょうだいな」
「……あ、あの、それ……」
さすがにイリッカはそれだけでは済まないだろうな、と感づいた。
「ええ。夏の服を作る代わりにお願いがあるの」
「お願い」
はあ、とサミューリンはため息をついた。
「テンダー様はつまりまあ、新しい服を私達に外で見せて欲しいって言ってるんんだね」
「ああ……」
「そうなの?!」
リーカは目を丸くして問い返した。
「恥ずかしいならそう言って。それならそれで、また別口の知り合いにお願いしようと思うの。ただ、やっぱり貴女方くらいの知り合いはそうそう居ないから」
「そうなんですよね。『友』や『画報』の編集部のお嬢さんや奥さん達にも気が向いたら来て欲しい、ってお願いしたんですよ。だから大人の女性の新しい服についてはそれでいいんですが、やっぱり若い娘さんというのは」
ね、とポーレは言ってテンダーと笑顔で頷き合う。
「恥ずかしく…… は全く無い訳ではないですが、新しい服の着心地とかを知られるのは興味が……!」
イリッカは拳を握りしめた。
「私は元々服が少ないんで、いただければ嬉しいです~」
とリーカ。
よし、とテンダーはぽんと手を叩いた。
「じゃあデザインと生地と色が合うかどうか考えながら選んでね。実際生地と形が合うかどうかというのは、まだ分かっていないことが多いのよ。これもまだ試供品の段階だからね」
そう、並べられた生地は量的にはそう多くはない。ただ種類だけはひたすらに多い。
セレにとっても市場調査の意味があったらしい。
どういう色・柄・織りのものが生地として売り出すにしても需要があるのか。
工場から工房に卸すものは決して全体量としては多くない。
一般家庭では自身で作ることも多いので、小売店――それも雑貨店のレベルのものが殆どだ――に回すためのものだ。
中間に卸業者は入るとはいえ、末端は決して沢山の種類が置ける訳ではない場所に売り出すものである。
近年の流れとして、婦人雑誌でその生地の存在を知り、店にこれこれこういうものはあるか、無い時には入らないか、と問いかけて入手する訳だ。
さて彼女達の場合。
その見本であるところの雑誌は「友」の役割だ。
それを見た業者なり読者なりの要望が、生地の売り上げに反映する。
――となると、まずその「友」で紹介されるまでの段階で、「いける」と確信が持てるものが欲しい。
そこで何と言っても、実際の働く女や少女に着てもらうのが一番。
そして彼女達に、現在何かと情報や流行の発信地と化している「123」をふらふらしてもらうこと、それ自体が大きな宣伝であり、一方彼女達を見た周囲の反応が、市場調査となるのだ。
サミューリンは「123」で自分に向けられた視線をかなり感じていた。
良くも悪くも、だが。
「え」
「いえ、今度の服って、ほら、サミューにも似合う様に、若い子の夏向け軽い外出用のものを中心に考えているのよね。で、もう私達もいい歳だから、若い子に似合うってのがよく分からなくなってきているし! 動きやすさとかもあるしね」
つらつらと立て板に水式に話すテンダーの勢いに、イリッカとリーカが呆然としているうちに、サミューリンの時の様にさくさくと採寸が行われた。
「で、今日サミューリンが着ていたのが、このデザインなんだけど」
服を直しつつもまだ呆然としている少女達にやれやれ、とばかりにサミューリンはお茶と菓子をすすめつつ、ぽんと肩を叩いた。
あきらめてここは聞いておけ、とそうすれば新しい服も手に入るよ、とその肩叩きには意味が込められていた。
テンダーは画帳を開くと、幾つかのデザインを二人に見せた。
さすがに具体的なデザインを見せられると、二人も身体を乗り出した。
「あ、これ可愛いですね!」
「これは涼しそう。でも今だとまだちょっと?」
「あ、その場合下に着るブラウスを長袖にするってことで」
ポーレもさりげなくそこに生地を持ち出してくる。
サミューリンの着ていたものは軽くごつごつとした表面の格子模様だ。
その他、ちりちりとした細かい模様織りのもの、染め模様にしても、大小の水玉だったり小紋だったりと様々なものが次から次へと現れる。
「貴女方に三着それぞれ違う物を作ろうと思うから、選んでちょうだいな」
「……あ、あの、それ……」
さすがにイリッカはそれだけでは済まないだろうな、と感づいた。
「ええ。夏の服を作る代わりにお願いがあるの」
「お願い」
はあ、とサミューリンはため息をついた。
「テンダー様はつまりまあ、新しい服を私達に外で見せて欲しいって言ってるんんだね」
「ああ……」
「そうなの?!」
リーカは目を丸くして問い返した。
「恥ずかしいならそう言って。それならそれで、また別口の知り合いにお願いしようと思うの。ただ、やっぱり貴女方くらいの知り合いはそうそう居ないから」
「そうなんですよね。『友』や『画報』の編集部のお嬢さんや奥さん達にも気が向いたら来て欲しい、ってお願いしたんですよ。だから大人の女性の新しい服についてはそれでいいんですが、やっぱり若い娘さんというのは」
ね、とポーレは言ってテンダーと笑顔で頷き合う。
「恥ずかしく…… は全く無い訳ではないですが、新しい服の着心地とかを知られるのは興味が……!」
イリッカは拳を握りしめた。
「私は元々服が少ないんで、いただければ嬉しいです~」
とリーカ。
よし、とテンダーはぽんと手を叩いた。
「じゃあデザインと生地と色が合うかどうか考えながら選んでね。実際生地と形が合うかどうかというのは、まだ分かっていないことが多いのよ。これもまだ試供品の段階だからね」
そう、並べられた生地は量的にはそう多くはない。ただ種類だけはひたすらに多い。
セレにとっても市場調査の意味があったらしい。
どういう色・柄・織りのものが生地として売り出すにしても需要があるのか。
工場から工房に卸すものは決して全体量としては多くない。
一般家庭では自身で作ることも多いので、小売店――それも雑貨店のレベルのものが殆どだ――に回すためのものだ。
中間に卸業者は入るとはいえ、末端は決して沢山の種類が置ける訳ではない場所に売り出すものである。
近年の流れとして、婦人雑誌でその生地の存在を知り、店にこれこれこういうものはあるか、無い時には入らないか、と問いかけて入手する訳だ。
さて彼女達の場合。
その見本であるところの雑誌は「友」の役割だ。
それを見た業者なり読者なりの要望が、生地の売り上げに反映する。
――となると、まずその「友」で紹介されるまでの段階で、「いける」と確信が持てるものが欲しい。
そこで何と言っても、実際の働く女や少女に着てもらうのが一番。
そして彼女達に、現在何かと情報や流行の発信地と化している「123」をふらふらしてもらうこと、それ自体が大きな宣伝であり、一方彼女達を見た周囲の反応が、市場調査となるのだ。
サミューリンは「123」で自分に向けられた視線をかなり感じていた。
良くも悪くも、だが。
あなたにおすすめの小説
留学してたら、愚昧がやらかした件。
庭にハニワ
ファンタジー
バカだアホだ、と思っちゃいたが、本当に愚かしい妹。老害と化した祖父母に甘やかし放題されて、聖女気取りで日々暮らしてるらしい。どうしてくれよう……。
R−15は基本です。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
聖女を怒らせたら・・・
朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。