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175 ポーレとの最後の冬②モデルをしてくれる女優の件
「まあそれは仕方ないんじゃないの?」
発表会に出てくれる女優の採寸をしに、劇団にやってきたテンダーは作業ついでにぽろぽろとそんな自分の感情をこぼす。
「キミとポーレさんは生まれながらの友達で、乳姉妹で、一番頼りになる相手なんだし」
「分かってるんですよー」
ありがとうございます、と一人の女優のサイズを計り終わり、記録しつつテンダーは答える。
「俺にはそういうの居なかったから、キミの気持ちは全部が全部分かる訳でもないし」
「正論で叩くの止しましょうよ」
「おや、正論だと分かってるんだ」
「意地悪ですねえ」
「意地悪言って欲しいんじゃない? こういう時だし。キミ俺がそういう性格ってこと知ってるよな?」
「そりゃ、知ってますけど」
ヒドゥンは何も「いい人」ではない。
周囲がどう見ているか、はともかく、彼が自分にとって距離を上手いこと取った上で、事態においてより良い提案をしてきている。
そしてその際にはわりあい手段を選んでいない。
「テンダー嬢、ヒドゥンさんに愚痴言っても無駄ですって」
「ねえ。愚痴なら私達が聞くからねっ」
そうさざめく女優達はテンダーの肩を抱いたりお茶やお菓子を差し出してきたりする。
「そうそう。俺はそういうのには役に立たないし。むしろ俺としては、どう舞台を進めるか、の方をそろそろちゃんと聞きたいし」
流れや音楽といった舞台上の件は劇団にかなり任せることになっていた。
と言うのも、モデルとなることを依頼したら、劇団の女優達が我も我もと名乗りを挙げてきたのだ。
テンダーにとってそれは願ったり叶ったりだった。
女優達はそれぞれ体型が違う。
身長もそうだが、体つきが違うというのは、今回発表会で見せる様なシンプルな服にはありがたいものだった。
同じ様な服でも、体型によって見せ方が違う。
もしくは、どんな体型であっても見せ方によっては似合う方向にもっていける。
令嬢に求められる様な体型だけでは街を行く様々な女性には訴えることができない。
無論マリナの様な、貴婦人と並べても遜色無い女優もそれはそれで良い。服に対して憧れをかきたてるには、まずぱっと見て「綺麗!」「素敵!」と思わせる要素が欲しい。
だがその一方で、「でも自分には」と考えてしまう女性も居るはずなのだ。
学校で同じ制服をまとっていた級友達のことを思い出せばいい。
同じ様なものだから「こそ」、ちょっとした差異が際立つのだと。
その意味を含めて女優達に頼んだら、普段端役の位置から抜け出せない者が特に乗り気だった。
「皆、舞台で自分自身に一身に注目を浴びてみたいから」
ヒドゥンはそう言った。
たとえば、と稽古をしている者を指す。
「最近は俺がやってた役を、背格好が近い子が入れ替わり立ち替わりやってる」
「入れ替わり立ち替わり? でもヒドゥンさんが女装で舞台に立っていた時には結構何というか…… ええと、可愛らしいお嬢さんの役とかはいつも当たってませんでした?」
「俺の場合は『特に』それが強調されたからなあ。だけどこれが結構本物の女優にやらせると、『そこ』まであざとくできないみたいで」
あざとい、という言葉にテンダーは驚いた。
「や、実際俺が演る時には、実際以上に少女や娘や女のそれらしいところを強調してたからな。けど実際の女優にそれはなかなか上手く伝わらない」
「何故ですか?」
「ほら、今やってるミナ・ランシーって子。筋はいい。姿も少女役に向いてる。ただ、やっぱり役よりも地が出てしまうことが多い。彼女と同じ役を別の日にやらせてるアリュール・ルダにしてもおんなじ」
「役よりも地?」
「俺の時は、そもそも性別を逆転している訳だから、俺自身という要素を全く感じさせないことが基本だし。その上に少女なり娘なりの姿を乗せてた訳だ。動きも仕草も声音も」
とは言え、現在の彼の声が決して高いという訳ではない。
ただ音域が広いのだ。
歌ってもらった時にテンダーは気付いたが、音域が三オクターブはあった。
そしてまた、その声の使い分けが。
「そういう技術を第五で知ってからは俺もみっちりやったからな。けど、元々が女の身体を持ってる子達には、今一つそこが甘いことがある」
「そうなんですか」
「あとは観客だな。女装の俺を見てきた観客は、女が演る少女に物足りなさを感じることもあるのかもな」
そういうこともあるのか、とテンダーは思った。
発表会に出てくれる女優の採寸をしに、劇団にやってきたテンダーは作業ついでにぽろぽろとそんな自分の感情をこぼす。
「キミとポーレさんは生まれながらの友達で、乳姉妹で、一番頼りになる相手なんだし」
「分かってるんですよー」
ありがとうございます、と一人の女優のサイズを計り終わり、記録しつつテンダーは答える。
「俺にはそういうの居なかったから、キミの気持ちは全部が全部分かる訳でもないし」
「正論で叩くの止しましょうよ」
「おや、正論だと分かってるんだ」
「意地悪ですねえ」
「意地悪言って欲しいんじゃない? こういう時だし。キミ俺がそういう性格ってこと知ってるよな?」
「そりゃ、知ってますけど」
ヒドゥンは何も「いい人」ではない。
周囲がどう見ているか、はともかく、彼が自分にとって距離を上手いこと取った上で、事態においてより良い提案をしてきている。
そしてその際にはわりあい手段を選んでいない。
「テンダー嬢、ヒドゥンさんに愚痴言っても無駄ですって」
「ねえ。愚痴なら私達が聞くからねっ」
そうさざめく女優達はテンダーの肩を抱いたりお茶やお菓子を差し出してきたりする。
「そうそう。俺はそういうのには役に立たないし。むしろ俺としては、どう舞台を進めるか、の方をそろそろちゃんと聞きたいし」
流れや音楽といった舞台上の件は劇団にかなり任せることになっていた。
と言うのも、モデルとなることを依頼したら、劇団の女優達が我も我もと名乗りを挙げてきたのだ。
テンダーにとってそれは願ったり叶ったりだった。
女優達はそれぞれ体型が違う。
身長もそうだが、体つきが違うというのは、今回発表会で見せる様なシンプルな服にはありがたいものだった。
同じ様な服でも、体型によって見せ方が違う。
もしくは、どんな体型であっても見せ方によっては似合う方向にもっていける。
令嬢に求められる様な体型だけでは街を行く様々な女性には訴えることができない。
無論マリナの様な、貴婦人と並べても遜色無い女優もそれはそれで良い。服に対して憧れをかきたてるには、まずぱっと見て「綺麗!」「素敵!」と思わせる要素が欲しい。
だがその一方で、「でも自分には」と考えてしまう女性も居るはずなのだ。
学校で同じ制服をまとっていた級友達のことを思い出せばいい。
同じ様なものだから「こそ」、ちょっとした差異が際立つのだと。
その意味を含めて女優達に頼んだら、普段端役の位置から抜け出せない者が特に乗り気だった。
「皆、舞台で自分自身に一身に注目を浴びてみたいから」
ヒドゥンはそう言った。
たとえば、と稽古をしている者を指す。
「最近は俺がやってた役を、背格好が近い子が入れ替わり立ち替わりやってる」
「入れ替わり立ち替わり? でもヒドゥンさんが女装で舞台に立っていた時には結構何というか…… ええと、可愛らしいお嬢さんの役とかはいつも当たってませんでした?」
「俺の場合は『特に』それが強調されたからなあ。だけどこれが結構本物の女優にやらせると、『そこ』まであざとくできないみたいで」
あざとい、という言葉にテンダーは驚いた。
「や、実際俺が演る時には、実際以上に少女や娘や女のそれらしいところを強調してたからな。けど実際の女優にそれはなかなか上手く伝わらない」
「何故ですか?」
「ほら、今やってるミナ・ランシーって子。筋はいい。姿も少女役に向いてる。ただ、やっぱり役よりも地が出てしまうことが多い。彼女と同じ役を別の日にやらせてるアリュール・ルダにしてもおんなじ」
「役よりも地?」
「俺の時は、そもそも性別を逆転している訳だから、俺自身という要素を全く感じさせないことが基本だし。その上に少女なり娘なりの姿を乗せてた訳だ。動きも仕草も声音も」
とは言え、現在の彼の声が決して高いという訳ではない。
ただ音域が広いのだ。
歌ってもらった時にテンダーは気付いたが、音域が三オクターブはあった。
そしてまた、その声の使い分けが。
「そういう技術を第五で知ってからは俺もみっちりやったからな。けど、元々が女の身体を持ってる子達には、今一つそこが甘いことがある」
「そうなんですか」
「あとは観客だな。女装の俺を見てきた観客は、女が演る少女に物足りなさを感じることもあるのかもな」
そういうこともあるのか、とテンダーは思った。
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