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176 ポーレとの最後の冬③新年の祝いとフィリアの今後
「だからこそキミのところで服のモデルをする時には自分として注目が集まるってのに、気合いが入るのかもな」
「でもそれは役者としては」
「まあ、その後は俺の知ったことじゃないし」
ひらりとそう言い放つ彼に、テンダーは苦笑した。
*
仕事や計画や結婚式やら色々皆で考えたり手を動かしているうちに新年がやってきた。
もう何年も帝都で迎える新年だったが、今年は内々の祝いもやや豪勢なものとなった。
普段は年末から年始にかけてが内々、そして二日目に「123」の個室の一つを借りてパーティを開く。
のだが。
普段の「内々」が店に常に住む四人であるのに対して、今年はカナン女史の家に集合ということになった。
「これから内々になるけど皆で集まることができるのはそうそうできないから」ということらしい。
「で、うちの母も同行です」
「フィリアも?」
「カナン女史が会いたいと前々から仰ってたのてすが、母は遠慮してまして。でもこの際、と。一緒に料理も作ろうと言ったら、まあそれならと」
「……それだけ? フィリアがもしポーレについて行かないなら、そのままうちに居ればいいけど……」
「エイザンさんとも話して、思うことがありまして」
何なんだ、とテンダーは思っていたが、当日となり、料理を披露する母子に女史は感動していた。
「まあ! 前からポーレさんのお料理にはとろかされていたのだけど、お母様の方も素晴らしいのね!」
「いえ、まあ自分もそういう仕事が長かったですから」
それこそ「お屋敷だがオールワークスの様なもの」という立場も長かったし、今現在もポーレが工房の作業に忙しい時には厨房に立つこともある。
さすがにまだ若い子に厨房を預けきることはできない、というのがここの母子には共通認識だった。
だがポーレが出ていってしまったならば。
「それで、今後どうなさるおつもり?」
「いささかその辺りを迷っておりまして…… 娘について行けば、そのうち子供が生まれた時にも何かと手助けになるかと思ったりもするのですが、少々最近足の調子も悪いので、若い二人のお荷物になるのもどうかと……」
「そうよね、若い二人の家庭に姑が一緒というのも何だし、私はこちらに住んでいた方がいいから、息子については行かないのだけど……」
「逓信省のお役人の方に嫁げるなんて、娘は本当に幸運です」
「いえいえ、こちらこそ私が母親としては今一つだっただけに、お嬢さんが良い家庭を作ってくれるだろうと思うと」
お互いにそれぞれの子供を誉め合う会話ののち。
「……ところで、フィリアさんはずっとお屋敷勤めだったのですよね」
「ええ」
「でしたら、お屋敷勤めで色々な話を聞いたことがありません?」
「え?」
ぐい、と女史はフィリアに迫った。
「私は怪奇小説を書いているのですが、やはり何と言っても一番怖いのは人間ですのよ。だけど私自身はどうにも頭でっかちで、人々の間を泳ぐことはしてこなくて。こういう時はやっぱり実体験やら聞いた話とかに詳しい方が近くに居ると凄くいいなあと」
「あ、あの?」
「もの凄く身勝手な話ですが、フィリアさん我が家に越してきませんこと? うちは広いですから、そこで何をしていても構いませんの。時々私の話相手になってくだされば!」
「え、その、あの」
女史の勢いに、さすがにフィリアは戸惑う。
「あ、あの奥様」
「駄目?」
がっちりと手を握って懇願する「奥様」というものにフィリアは弱い。
ああ成る程、とテンダーは陥落するフィリアを見て苦笑した。
充分に使用人も居るが、家事をしたければすればいい、ただ時々聞いたことがある噂話とか、体験したことを話の種に欲しい、と。
「女史のところなら私も安心ですので」
テンダーは苦笑しつつも、工房の片隅で娘も居ない環境よりはその方が良いな、と納得したのだ。
だが。
「そうですわね。こちらに居ればテンダー様の結婚式の支度も手伝えるし」
さすがにそれに対しテンダーはつい言ってしまった。
「フィリア、私結婚式はしないのよ」
「でもそれは役者としては」
「まあ、その後は俺の知ったことじゃないし」
ひらりとそう言い放つ彼に、テンダーは苦笑した。
*
仕事や計画や結婚式やら色々皆で考えたり手を動かしているうちに新年がやってきた。
もう何年も帝都で迎える新年だったが、今年は内々の祝いもやや豪勢なものとなった。
普段は年末から年始にかけてが内々、そして二日目に「123」の個室の一つを借りてパーティを開く。
のだが。
普段の「内々」が店に常に住む四人であるのに対して、今年はカナン女史の家に集合ということになった。
「これから内々になるけど皆で集まることができるのはそうそうできないから」ということらしい。
「で、うちの母も同行です」
「フィリアも?」
「カナン女史が会いたいと前々から仰ってたのてすが、母は遠慮してまして。でもこの際、と。一緒に料理も作ろうと言ったら、まあそれならと」
「……それだけ? フィリアがもしポーレについて行かないなら、そのままうちに居ればいいけど……」
「エイザンさんとも話して、思うことがありまして」
何なんだ、とテンダーは思っていたが、当日となり、料理を披露する母子に女史は感動していた。
「まあ! 前からポーレさんのお料理にはとろかされていたのだけど、お母様の方も素晴らしいのね!」
「いえ、まあ自分もそういう仕事が長かったですから」
それこそ「お屋敷だがオールワークスの様なもの」という立場も長かったし、今現在もポーレが工房の作業に忙しい時には厨房に立つこともある。
さすがにまだ若い子に厨房を預けきることはできない、というのがここの母子には共通認識だった。
だがポーレが出ていってしまったならば。
「それで、今後どうなさるおつもり?」
「いささかその辺りを迷っておりまして…… 娘について行けば、そのうち子供が生まれた時にも何かと手助けになるかと思ったりもするのですが、少々最近足の調子も悪いので、若い二人のお荷物になるのもどうかと……」
「そうよね、若い二人の家庭に姑が一緒というのも何だし、私はこちらに住んでいた方がいいから、息子については行かないのだけど……」
「逓信省のお役人の方に嫁げるなんて、娘は本当に幸運です」
「いえいえ、こちらこそ私が母親としては今一つだっただけに、お嬢さんが良い家庭を作ってくれるだろうと思うと」
お互いにそれぞれの子供を誉め合う会話ののち。
「……ところで、フィリアさんはずっとお屋敷勤めだったのですよね」
「ええ」
「でしたら、お屋敷勤めで色々な話を聞いたことがありません?」
「え?」
ぐい、と女史はフィリアに迫った。
「私は怪奇小説を書いているのですが、やはり何と言っても一番怖いのは人間ですのよ。だけど私自身はどうにも頭でっかちで、人々の間を泳ぐことはしてこなくて。こういう時はやっぱり実体験やら聞いた話とかに詳しい方が近くに居ると凄くいいなあと」
「あ、あの?」
「もの凄く身勝手な話ですが、フィリアさん我が家に越してきませんこと? うちは広いですから、そこで何をしていても構いませんの。時々私の話相手になってくだされば!」
「え、その、あの」
女史の勢いに、さすがにフィリアは戸惑う。
「あ、あの奥様」
「駄目?」
がっちりと手を握って懇願する「奥様」というものにフィリアは弱い。
ああ成る程、とテンダーは陥落するフィリアを見て苦笑した。
充分に使用人も居るが、家事をしたければすればいい、ただ時々聞いたことがある噂話とか、体験したことを話の種に欲しい、と。
「女史のところなら私も安心ですので」
テンダーは苦笑しつつも、工房の片隅で娘も居ない環境よりはその方が良いな、と納得したのだ。
だが。
「そうですわね。こちらに居ればテンダー様の結婚式の支度も手伝えるし」
さすがにそれに対しテンダーはつい言ってしまった。
「フィリア、私結婚式はしないのよ」
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