206 / 208
198 三十歳の誕生日①手続き完了
その日、テンダーとヒドゥンの二人は朝もはよから役所へと出かけていき、さっさと手続きを済ませた。
それこそ朝の散歩に行きますよ、とばかりの格好で。
実際のところ、役所で籍を変える手続きをするのは飾り立てた人々だけではない。
大半は普段着なのだ。
この日はテンダーの三十歳の誕生日だった。
無論以前から結婚式はしない、祝われたくない、と口にもしたし全身で常に訴えてるテンダーに対し、お祭り好きの友人達も理解はしてくれた――
――が、油断はできない、とテンダーは思っていた。
彼女達は既に「123」で「お誕生会」の準備を前日から始めていた。
皆――遠方の友達も――帝都にそれぞれの宿を取って揃っているのだ。
だとしたら、何が起きてもおかしくはない。
そこで当人達は朝からささっと役所で手続きをさくっと済ませたのちにゆったりと朝食を摂りに向かったのだった。
お誕生会は「123」の階上の個室だったので、階下のフロアでお茶と軽食を注文し、証明書や戸籍の写しをテーブルの上に広げる。
「いやー、あっけないものだなあ」
「そんなものですよ」
あははは、とテンダーとヒドゥンは笑い合う。
なおこの時、吹き抜けの手すり辺りからは、ヘリテージュとエンジュが苦笑しながらその様子を見下ろしていた。
「信用されていなかったわねえ」
「まあ仕方ないけどね。ところで貴女の結婚式の方は?」
「ああ、そっちはうちの両親が適当に」
「まあ、そんなものよね」
エンジュもこの時点で結婚が本決まりになっていた。
彼女の場合は父親に申し入れしていた通りの「生理的に嫌悪感が無い程度の相手」との政略結婚だった。
「私は相変わらず出版の仕事続けるしね。あと前からその出版がらみの商売もあるし、不動産関係もお父様がちょっとずつ任せてくれているし」
「そうすると編集長の仕事は両立させづらいんじゃないの?」
「うん。だから私は編集長からはだんだん退いていって、後続に任せようかな、と。社長業の方に集中していこうと思うの」
「それはそれで大変そうだけど」
するとエンジュはにやりと笑い。
「そういうところの連携ができる相手を上手く見つけ出してくれたからね」
さすが! とヘリテージュは目を大きく広げた。
「貴女こそ三人目ができた訳だし大丈夫?」
「テンダー嬢の服のおかげでゆったりと過ごせましてよー」
そう言うヘリテージュの腹は確かにやや大きくなっていた。
だが発表会から多少なりとも時間が経った今、緩やかな服、時にはウエストラインそのものを無くした服というものを、周囲の工房でも模索しだしていたのだ。
それはとうとう貴族の中でも広がりだし、ヘリテージュは最近ではそんなものばかりを夜会でも着ているということだった。
「一番影響力があるのは皇女様方だけど、皆何かしらお役目だのお仕事をお持ちだから、動きやすいものに惹かれていった様で」
帝国における皇子皇女の数は多い。
彼等は次代の帝位に興味が無ければ自身の道をひた走る。
宮中女官になる者も居れば、母親の実家側で活躍する者もあるし、野に降りる者もある。
帝国の次期皇帝選びはやや独特な実力主義なので、そこから外れた者には政治的干渉はまず入らない。
そのように制度ができているのだ。
とは言え名前は残るので、社交界等ではやはり人気者のことも多いのだ。
「こうしてどんどん風潮として広がっていけば、テンダー嬢としての…… って、待って、『嬢』じゃなくなるんじゃない」
「そう言えばそうだ! テンダーどうするつもりかしら」
*
「え、工房の名称? ああ決めてあるわよ」
食事を終えたところに降りてきた二人に問われたテンダーはあっさりと答えた。
「テンダー・ウリー工房。それで充分でしょ? ねえ確か今日のお誕生会の件、貴女記事にするんじゃなくって? だったら私の名前が変わったこともきっと貴女方宣伝してくれるでしょ?」
そう来たか、と二人は苦笑し――
ヒドゥンは我関せず、とばかりにお茶を呑んでいた。
それこそ朝の散歩に行きますよ、とばかりの格好で。
実際のところ、役所で籍を変える手続きをするのは飾り立てた人々だけではない。
大半は普段着なのだ。
この日はテンダーの三十歳の誕生日だった。
無論以前から結婚式はしない、祝われたくない、と口にもしたし全身で常に訴えてるテンダーに対し、お祭り好きの友人達も理解はしてくれた――
――が、油断はできない、とテンダーは思っていた。
彼女達は既に「123」で「お誕生会」の準備を前日から始めていた。
皆――遠方の友達も――帝都にそれぞれの宿を取って揃っているのだ。
だとしたら、何が起きてもおかしくはない。
そこで当人達は朝からささっと役所で手続きをさくっと済ませたのちにゆったりと朝食を摂りに向かったのだった。
お誕生会は「123」の階上の個室だったので、階下のフロアでお茶と軽食を注文し、証明書や戸籍の写しをテーブルの上に広げる。
「いやー、あっけないものだなあ」
「そんなものですよ」
あははは、とテンダーとヒドゥンは笑い合う。
なおこの時、吹き抜けの手すり辺りからは、ヘリテージュとエンジュが苦笑しながらその様子を見下ろしていた。
「信用されていなかったわねえ」
「まあ仕方ないけどね。ところで貴女の結婚式の方は?」
「ああ、そっちはうちの両親が適当に」
「まあ、そんなものよね」
エンジュもこの時点で結婚が本決まりになっていた。
彼女の場合は父親に申し入れしていた通りの「生理的に嫌悪感が無い程度の相手」との政略結婚だった。
「私は相変わらず出版の仕事続けるしね。あと前からその出版がらみの商売もあるし、不動産関係もお父様がちょっとずつ任せてくれているし」
「そうすると編集長の仕事は両立させづらいんじゃないの?」
「うん。だから私は編集長からはだんだん退いていって、後続に任せようかな、と。社長業の方に集中していこうと思うの」
「それはそれで大変そうだけど」
するとエンジュはにやりと笑い。
「そういうところの連携ができる相手を上手く見つけ出してくれたからね」
さすが! とヘリテージュは目を大きく広げた。
「貴女こそ三人目ができた訳だし大丈夫?」
「テンダー嬢の服のおかげでゆったりと過ごせましてよー」
そう言うヘリテージュの腹は確かにやや大きくなっていた。
だが発表会から多少なりとも時間が経った今、緩やかな服、時にはウエストラインそのものを無くした服というものを、周囲の工房でも模索しだしていたのだ。
それはとうとう貴族の中でも広がりだし、ヘリテージュは最近ではそんなものばかりを夜会でも着ているということだった。
「一番影響力があるのは皇女様方だけど、皆何かしらお役目だのお仕事をお持ちだから、動きやすいものに惹かれていった様で」
帝国における皇子皇女の数は多い。
彼等は次代の帝位に興味が無ければ自身の道をひた走る。
宮中女官になる者も居れば、母親の実家側で活躍する者もあるし、野に降りる者もある。
帝国の次期皇帝選びはやや独特な実力主義なので、そこから外れた者には政治的干渉はまず入らない。
そのように制度ができているのだ。
とは言え名前は残るので、社交界等ではやはり人気者のことも多いのだ。
「こうしてどんどん風潮として広がっていけば、テンダー嬢としての…… って、待って、『嬢』じゃなくなるんじゃない」
「そう言えばそうだ! テンダーどうするつもりかしら」
*
「え、工房の名称? ああ決めてあるわよ」
食事を終えたところに降りてきた二人に問われたテンダーはあっさりと答えた。
「テンダー・ウリー工房。それで充分でしょ? ねえ確か今日のお誕生会の件、貴女記事にするんじゃなくって? だったら私の名前が変わったこともきっと貴女方宣伝してくれるでしょ?」
そう来たか、と二人は苦笑し――
ヒドゥンは我関せず、とばかりにお茶を呑んでいた。
あなたにおすすめの小説
姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました
饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。
わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。
しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。
末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。
そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。
それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は――
n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。
全15話。
※カクヨムでも公開しています
【完結】婚約破棄はいいですよ?ただ…貴方達に言いたいことがある方々がおられるみたいなので、それをしっかり聞いて下さいね?
水江 蓮
ファンタジー
「ここまでの悪事を働いたアリア・ウィンター公爵令嬢との婚約を破棄し、国外追放とする!!」
ここは裁判所。
今日は沢山の傍聴人が来てくださってます。
さて、罪状について私は全く関係しておりませんが折角なのでしっかり話し合いしましょう?
私はここに裁かれる為に来た訳ではないのです。
本当に裁かれるべき人達?
試してお待ちください…。
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する
タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。
社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。
孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。
そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。
追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜
福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。
彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。
だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。
「お義姉さま!」 . .
「姉などと呼ばないでください、メリルさん」
しかし、今はまだ辛抱のとき。
セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。
──これは、20年前の断罪劇の続き。
喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。
※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。
旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』
※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。
※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位