14 / 26
第14話 判ってはいたけど。
しおりを挟む
ふう、と彼女はため息をつく。
「男の子って皆そうなのかしらね。それとも彼が特別そうなのかしら」
「何が?」
「いつもいつもクラスの男の子達とばかり遊んで」
「結構コノエ君に気があるのだったりして」
「そんなことないわよ!」
いきなり彼女は大声を立てた。驚いた。さすがのワタシも目を丸くした。
「あ、ごめんなさい。だけど」
「いいよサエナ。だけどあんたは、そういうの、駄目なほう?」
「そういうの?」
彼女は眉をひそめる。ワタシは注意深く言葉を選ぶ。
「だからさ、男子生徒同士が」
「嫌よ」
言葉は半分まで言わないうちにかき消された。胸にひりつく痛みが走る。
「だって…… やぁよ」
「何で?」
「何でって…… そんなの判らないわよ。ただ、何となく、嫌なの」
ふうん、とワタシはそれまで中断していた作業を再開させるフリをする。閉じた自分の唇が、微かにぶるぶると震えているのが判る。
「そうだね、何となくってのは確かに、一番強い理由かもね」
「信じられない、って思う――― そりゃ、個人の自由だとは思うけど…… 何か、やだ」
ざっ、と鉛筆を走らす音が耳に届く。
「ほら、クラスの中にも時々、そういうの、好きな子いるじゃない。別にそういう話しているのは構わないけど…… その子達の持ってたマンガとかちょっと見た時、気持ち悪かった。だって…… 結構、露骨だったし……」
ああ、腐女子ってやつか。どういうものを見せられたかは予想がついた。場をわきまえろ場を。
「ヤナセは?」
ざっ。
ワタシは唇の震えを一度かみ殺すと、顔を上げた。
言葉を探す。当たり障りのない言葉を。この聡い彼女に、気付かれないよう大急ぎで。
「ワタシは別に」
「そう?」
「別にそれは人の勝手だし」
「それはそうだけど。だけど身近な人がそうだったら、何か、すごく、やだ。身勝手な考えかもしれないけど」
「だけどその人は本気かもしれないよ?」
「それはそれよ。あくまで私の感情のことを言ってるんだってば」
そうだね、と短く言うと、ワタシは再び顔を紙の上に戻す。もう一度、唇を噛む。
すると、ず、と椅子を寄せる気配があった。近づいてくる。
「何か怒ってる? ヤナセ」
「別に怒ってないよ」
「だけど不機嫌そう」
「気のせいだってば」
「うそぉ」
そしてひんやりとしたものが、両頬に当てられたと思うと、ぐっと首は、上を向けられた。こんなに、冷たい手だった?
「ほら仏頂面してる」
違う。知らなかっただけだ。彼女の手が、こんなにひんやりとした乾いたものということを。
どんな火照りが頬にあったとしても、それを一瞬にして正気に戻すような。
なのに、どうだというのだろう。彼女の顔を正面から見たことが無い訳じゃない。なのに、どうしてこうも、心臓の音が響いてくる?
離して欲しい、とワタシは思った。
笑顔を必死で作る。
ああきっと歪んでいるはずだ。苦笑に見えたら上等。鉛筆を持ったままの手で、ワタシは彼女の手を外させる。
舌はちゃんと回るだろうか。回ってくれ。回ってくれなくては困る。
「そんなことないって」
「そぉ?」
「うん。それよりサエナ、頼みがあるんだけど」
何? と彼女は不思議そうに首を傾げる。
「あんたを描いてもいいかな?」
「私を?」
本当はこの閉じたスケッチプックの内側は、彼女の姿で一杯だ。
彼女が知らないだけで。きっとそう言えば彼女は許してくれるはず。そう思っていた。
だが。
「ごめんそれは止して」
「何で」
彼女の表情が曇る。これは予想外だった。
「私は自分の姿は好きじゃないから」
そう言ってサエナは、笑顔を作った。そしてもう一度、ごめんね、と言って立ち上がった。
「じゃも少し仕事が残ってるから、行ってくるわ。遅くなると思うから、今日はここでさよならね」
「うん。あんたも気をつけて」
「ヤナセもね」
ひらり、と軽快ないつもの足取りで彼女は扉を開けて、閉めた。
ワタシはその音が耳に届いた途端に、大きく天井をふりあおいだ。手にしていた鉛筆が、力を無くした手から落ちて床に転がる。
判っていた。判ってはいたけど。
ひどく、胸が痛い。
「男の子って皆そうなのかしらね。それとも彼が特別そうなのかしら」
「何が?」
「いつもいつもクラスの男の子達とばかり遊んで」
「結構コノエ君に気があるのだったりして」
「そんなことないわよ!」
いきなり彼女は大声を立てた。驚いた。さすがのワタシも目を丸くした。
「あ、ごめんなさい。だけど」
「いいよサエナ。だけどあんたは、そういうの、駄目なほう?」
「そういうの?」
彼女は眉をひそめる。ワタシは注意深く言葉を選ぶ。
「だからさ、男子生徒同士が」
「嫌よ」
言葉は半分まで言わないうちにかき消された。胸にひりつく痛みが走る。
「だって…… やぁよ」
「何で?」
「何でって…… そんなの判らないわよ。ただ、何となく、嫌なの」
ふうん、とワタシはそれまで中断していた作業を再開させるフリをする。閉じた自分の唇が、微かにぶるぶると震えているのが判る。
「そうだね、何となくってのは確かに、一番強い理由かもね」
「信じられない、って思う――― そりゃ、個人の自由だとは思うけど…… 何か、やだ」
ざっ、と鉛筆を走らす音が耳に届く。
「ほら、クラスの中にも時々、そういうの、好きな子いるじゃない。別にそういう話しているのは構わないけど…… その子達の持ってたマンガとかちょっと見た時、気持ち悪かった。だって…… 結構、露骨だったし……」
ああ、腐女子ってやつか。どういうものを見せられたかは予想がついた。場をわきまえろ場を。
「ヤナセは?」
ざっ。
ワタシは唇の震えを一度かみ殺すと、顔を上げた。
言葉を探す。当たり障りのない言葉を。この聡い彼女に、気付かれないよう大急ぎで。
「ワタシは別に」
「そう?」
「別にそれは人の勝手だし」
「それはそうだけど。だけど身近な人がそうだったら、何か、すごく、やだ。身勝手な考えかもしれないけど」
「だけどその人は本気かもしれないよ?」
「それはそれよ。あくまで私の感情のことを言ってるんだってば」
そうだね、と短く言うと、ワタシは再び顔を紙の上に戻す。もう一度、唇を噛む。
すると、ず、と椅子を寄せる気配があった。近づいてくる。
「何か怒ってる? ヤナセ」
「別に怒ってないよ」
「だけど不機嫌そう」
「気のせいだってば」
「うそぉ」
そしてひんやりとしたものが、両頬に当てられたと思うと、ぐっと首は、上を向けられた。こんなに、冷たい手だった?
「ほら仏頂面してる」
違う。知らなかっただけだ。彼女の手が、こんなにひんやりとした乾いたものということを。
どんな火照りが頬にあったとしても、それを一瞬にして正気に戻すような。
なのに、どうだというのだろう。彼女の顔を正面から見たことが無い訳じゃない。なのに、どうしてこうも、心臓の音が響いてくる?
離して欲しい、とワタシは思った。
笑顔を必死で作る。
ああきっと歪んでいるはずだ。苦笑に見えたら上等。鉛筆を持ったままの手で、ワタシは彼女の手を外させる。
舌はちゃんと回るだろうか。回ってくれ。回ってくれなくては困る。
「そんなことないって」
「そぉ?」
「うん。それよりサエナ、頼みがあるんだけど」
何? と彼女は不思議そうに首を傾げる。
「あんたを描いてもいいかな?」
「私を?」
本当はこの閉じたスケッチプックの内側は、彼女の姿で一杯だ。
彼女が知らないだけで。きっとそう言えば彼女は許してくれるはず。そう思っていた。
だが。
「ごめんそれは止して」
「何で」
彼女の表情が曇る。これは予想外だった。
「私は自分の姿は好きじゃないから」
そう言ってサエナは、笑顔を作った。そしてもう一度、ごめんね、と言って立ち上がった。
「じゃも少し仕事が残ってるから、行ってくるわ。遅くなると思うから、今日はここでさよならね」
「うん。あんたも気をつけて」
「ヤナセもね」
ひらり、と軽快ないつもの足取りで彼女は扉を開けて、閉めた。
ワタシはその音が耳に届いた途端に、大きく天井をふりあおいだ。手にしていた鉛筆が、力を無くした手から落ちて床に転がる。
判っていた。判ってはいたけど。
ひどく、胸が痛い。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる