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「お久しぶりです。
 可愛い私の妹。
 元気でしたか?
 今まで連絡しなくてごめんなさい。
 私は今フランスで暮らしています。
 あの貴女の誕生日にやってきた菓子職人のマルセルと、今は結婚して二児の母となっています。
 あの時、貴女の質問に答えられなくてごめんなさいね。
 私は答えを知っていました。
 シェリルというのは、私の実の母親で、貴女のお母様の妹。
 そう、私は婚約者である姉娘を差し置いてお父様と関係を持ってしまった女の娘なのです。
 シェリルとお母様を結婚相手として取り替えよう、という話もあったそうです。
 ですが、シェリルというのはお母様の様な男爵夫人としての実務ができる程の頭と根気の無い人だった様です。
 お父様から見せてもらった写真では、綺麗な人でした。
 でも、綺麗なだけでした。
 だからどうしても男爵夫人としては、賢いお母様の方が必要だったのです。
 ですがその結婚前に、シェリルはお父様と関係を持って私を身籠もりました。
 そして産んだ後に体調が急変して亡くなったということです。
 貴女は時々私のプレゼントにお母様からのカードがつかない、と不思議に思ってましたね。
 仕方がないことです。
 私もそれが気になって、お父様に聞いたら、あのひとは無造作に私がシェリルの子だから、と言いました。
 私はそれ以来お父様を憎みました。
 お母様ではありません。
 お母様からしたら、放り出してしまいたい程の娘だったと思います。
 しかも、御自身にはなかなか子供ができなかったこともあったのでしょう。
 それでも私に露骨に当たることもなく、男爵令嬢としての生活と教育、そして自分の娘と対外的に示してくださいました。
 ですがそう、きっと貴女が気付いてしまった様に、夫婦の部屋の中では何かしらあったのでしょうね。
 あの時、マルセルも不思議に思ったそうです。
 そう、彼は私に一目惚れだったそうです。
 私に赤い薔薇の飴菓子をくれたのもそのせいです。
 そしてお父様がむっとしたのも、その意味に薄々気付いたからです。
 お父様は私をシェリルと何処か重ねていました。
 その頃縁談も幾つか来ていたのですが、なかなか何処とも話をつけなかったのは、そのせいです。
 お父様は私を離したくなかったのです。
 私はそれに気付いてからできるだけお父様から距離を取りました。
 ですが、あの時期、そろそろ本気でお父様の視線が怖いものになってきました。
 どうしよう、と悩む日々が続きました。
 そんな折りのマルセルからの告白です。
 私は彼と庭で話すうちに、とてもいい人だな、好ましいな、と思う様になりました。
 そして貴女から問われたあと。
 私は彼の前でわっと泣き出してしまい、自分のことを吐き出す様に話してしまいました。
 その時彼は一緒に来てくれないか、と言ってくれました。
 こんな凄い暮らしはできないけれど、それでも職人としてある程度の名は知れている、不自由はさせない、と言ってくれました。
 私はお母様を困らせるのはもう嫌でした。
 だからその話に乗りました。
 場所と時間をずらし、何とかフランスまでたどり着いた後、彼と結婚しました。
 そして今は幸せです。
 貴女は今どうでしょうか。
 お母様は大丈夫でしょうか。
 私はお母様にだけはこれ以上不幸になって欲しくないのです。
 無論貴女もです。
 もしフランスに来ることがあったら、夫の店まで便りを下さい。
 その時には歓迎いたします。

 貴女をいつまでも愛する姉、ローズより」
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