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*3 家族と絶縁する方法 *
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初めは異世界移住を渋っていた母だが、ものの十分ほどであっさりと妹に言いくるめられ、賛成に回った。
「きゃはッ。これで、あたしの人生楽勝モードよッ」
「えぇ、そうね。お母さんも楽になれそうだわ~」
……その根拠はどこから? この二人は、一体どんな妄想を膨らませているのやら。
キャッキャとはしゃぐ女二人を横目に、俺はこっそりとため息をついた。異世界へ移住なんて……そりゃ、二人と離れられるかもしれないって、憧れたことも……って、待てよ? 俺が日本に残れば、二人と離れられるんじゃ?
よし、そうしよう。俺は日本に残るぞ。
移住希望者には、世帯ごとに担当相談員が付くらしいから、隙を見てこのことを相談すれば……。俺も楽になれるかも知れない。
俺の人生を左右するであろう、相談員との初顔合わせは一回目の移住説明会の時だ。いい人だといいんだが。
******************
一回目の説明会は、あっさりしたものだった。ミーヌスラジアは、こんな世界ですっていう紹介レベル。これから、二回目、三回目と回数を重ねて詳しく説明していくし、担当相談員にも聞いてください、とのことである。
相談員との顔合わせは、お昼休憩を挟んで午後から個別のブースでと説明を受けたのだが……
「個別相談は、おにーちゃんと別にしてもらったから」
「え? ウソだろ?」
昼食会場へ移動してください、というアナウンスの直後、奈美恵がまさかの発言をしてきたのである。驚きで目を丸くする俺へ、
「え~? ホントですケドー。おにーちゃんと一緒なんて無理。あり得ないしィー。ぶっは。ヤーだ、おにーちゃん、何その顔。ウケるんですケドー」
「奈美恵ってば、そこまで笑わなくたっていいじゃないの」
俺を指さして笑う妹をたしなめはするものの、母の顔も笑っている。
ひとしきり笑った後、奈美恵と母は「じゃぁ~ねぇ~」と人を小馬鹿にしたような笑みのまま、昼食会場へ向かって行った。取り残された俺は、ぽかーんとしていたが、
「ウソだろ? こんなことってあるのか? なんて、ラッキーなんだ!」
正気に戻った俺は、思わずガッツポーズ。これで移住する気はない、日本に残りたいって、堂々と言える。
俺は意気揚々と昼食会場へ移動し、昼食をゆっくり味わった。この日の弁当は、今まで食べた弁当の中でも最高に美味かった。近くの席の人との雑談も楽しい。いやあ、二人がいないって、本当に平和だ。
さて、昼休憩が終わって会場へ戻る。正面のスクリーンには、ミーヌスラジアを紹介した特番が流されていた。隅っこに過去に放送されたものですって、テロップがあった。それを見ながら、近くの人と雑談をしたり、パンフレットの内容を確認し合ったりしながら、順番を待つ。小一時間ほどして、俺の番がきた。
説明会場を後にして、案内してもらったブースには、
「はじめまして。こんにちは~」
「え? 相談、員? ホストじゃなくて?」
言ってしまった後で、ヤベと思ったけど、一度言った発言は取り消せない。
「あははー。指輪とかピアスのせいでよく言われますけど、アクセサリーは魔道具でして。諸事情により、身に着けなきゃいけないんですよー。これも仕事の内なんで、見逃してください」
ブースにいた相談員の彼は、俺の発言に気を悪くした様子もなく、「どうぞ、どうぞ」と席をすすめてくれた。
「すみません、失礼なことを」
席に座る前に謝れば「気にしなくて大丈夫ですよ。俺もヤベぇなと思ってるんで」と笑ってくれた。ただ、さっきも言っていたとおり、アクセサリーを着けるのは仕事の内でもあるので、こんな見た目になってしまうのだとか。
いや、マジで驚いたよ。相談員は、てっきり親世代だとばっかり思ってたからな。まさかの同年代。しかも、イケメン。身長は高いし──百九十くらい?──身体も鍛えてるっぽいし。
アイドルやモデルじゃなく、ホストって言葉が出てきたのは、本人も言ってた通り、王道のホストスタイルみたいになってるから。指輪とピアスがなければ、ビジネスカジュアルで通用しそうなんだけどな。
「えっと、原田と申します。よろしくお願いします」
「初めまして。原田さんを担当します、チャールズと申します」
差し出された名刺を受け取り、すすめられた席に座る。外国の人だったのか。
「さて、早速ですが……原田さんのご希望をお伺いしても?」
「……実は、その……俺、移住するつもりはなくて……」
「理由をお伺いしても?」
「もちろんです」
軽く眉を持ち上げたチャールズさんに、俺は家庭内における俺の立場というか、扱われ方を全て話した。
はじめはポツリポツリだったのが、最終的にはドン引きされる勢いで、溜まりに溜まっていた、不平不満と愚痴をこぼしていた。
「なるほど……。お話は分かりました。とても辛い思いをなさっていたんですね」
話を聞き終えたチャールズさんは、うんうんと頷いてくれた。
洗いざらいぶちまけられたか、俺はちょっと落ち着きを取り戻し「すみません。こんな話」と彼に頭を下げた。チャールズさんは「いえいえ。心のケアは大事ですから」
嫌な顔をせずに、ニコニコと笑い、
「ご家族と距離をおかれた方がいいとは思いますが、地球に残ることはお勧めしません」
「ッ! 何でなんですか!? 家族は一緒にいるべきだとか、おっしゃるんですか?!」
今、分かったって、距離を置いた方がいいと言ったじゃないかと、チャールズさんに殴りかかりそうになったが、
「お金の問題で揉めることが目に見えていますから。で、揉め事を回避するために、俺からの提案です。原田さん、移住した後に、ご家族から離れましょう」
「きゃはッ。これで、あたしの人生楽勝モードよッ」
「えぇ、そうね。お母さんも楽になれそうだわ~」
……その根拠はどこから? この二人は、一体どんな妄想を膨らませているのやら。
キャッキャとはしゃぐ女二人を横目に、俺はこっそりとため息をついた。異世界へ移住なんて……そりゃ、二人と離れられるかもしれないって、憧れたことも……って、待てよ? 俺が日本に残れば、二人と離れられるんじゃ?
よし、そうしよう。俺は日本に残るぞ。
移住希望者には、世帯ごとに担当相談員が付くらしいから、隙を見てこのことを相談すれば……。俺も楽になれるかも知れない。
俺の人生を左右するであろう、相談員との初顔合わせは一回目の移住説明会の時だ。いい人だといいんだが。
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一回目の説明会は、あっさりしたものだった。ミーヌスラジアは、こんな世界ですっていう紹介レベル。これから、二回目、三回目と回数を重ねて詳しく説明していくし、担当相談員にも聞いてください、とのことである。
相談員との顔合わせは、お昼休憩を挟んで午後から個別のブースでと説明を受けたのだが……
「個別相談は、おにーちゃんと別にしてもらったから」
「え? ウソだろ?」
昼食会場へ移動してください、というアナウンスの直後、奈美恵がまさかの発言をしてきたのである。驚きで目を丸くする俺へ、
「え~? ホントですケドー。おにーちゃんと一緒なんて無理。あり得ないしィー。ぶっは。ヤーだ、おにーちゃん、何その顔。ウケるんですケドー」
「奈美恵ってば、そこまで笑わなくたっていいじゃないの」
俺を指さして笑う妹をたしなめはするものの、母の顔も笑っている。
ひとしきり笑った後、奈美恵と母は「じゃぁ~ねぇ~」と人を小馬鹿にしたような笑みのまま、昼食会場へ向かって行った。取り残された俺は、ぽかーんとしていたが、
「ウソだろ? こんなことってあるのか? なんて、ラッキーなんだ!」
正気に戻った俺は、思わずガッツポーズ。これで移住する気はない、日本に残りたいって、堂々と言える。
俺は意気揚々と昼食会場へ移動し、昼食をゆっくり味わった。この日の弁当は、今まで食べた弁当の中でも最高に美味かった。近くの席の人との雑談も楽しい。いやあ、二人がいないって、本当に平和だ。
さて、昼休憩が終わって会場へ戻る。正面のスクリーンには、ミーヌスラジアを紹介した特番が流されていた。隅っこに過去に放送されたものですって、テロップがあった。それを見ながら、近くの人と雑談をしたり、パンフレットの内容を確認し合ったりしながら、順番を待つ。小一時間ほどして、俺の番がきた。
説明会場を後にして、案内してもらったブースには、
「はじめまして。こんにちは~」
「え? 相談、員? ホストじゃなくて?」
言ってしまった後で、ヤベと思ったけど、一度言った発言は取り消せない。
「あははー。指輪とかピアスのせいでよく言われますけど、アクセサリーは魔道具でして。諸事情により、身に着けなきゃいけないんですよー。これも仕事の内なんで、見逃してください」
ブースにいた相談員の彼は、俺の発言に気を悪くした様子もなく、「どうぞ、どうぞ」と席をすすめてくれた。
「すみません、失礼なことを」
席に座る前に謝れば「気にしなくて大丈夫ですよ。俺もヤベぇなと思ってるんで」と笑ってくれた。ただ、さっきも言っていたとおり、アクセサリーを着けるのは仕事の内でもあるので、こんな見た目になってしまうのだとか。
いや、マジで驚いたよ。相談員は、てっきり親世代だとばっかり思ってたからな。まさかの同年代。しかも、イケメン。身長は高いし──百九十くらい?──身体も鍛えてるっぽいし。
アイドルやモデルじゃなく、ホストって言葉が出てきたのは、本人も言ってた通り、王道のホストスタイルみたいになってるから。指輪とピアスがなければ、ビジネスカジュアルで通用しそうなんだけどな。
「えっと、原田と申します。よろしくお願いします」
「初めまして。原田さんを担当します、チャールズと申します」
差し出された名刺を受け取り、すすめられた席に座る。外国の人だったのか。
「さて、早速ですが……原田さんのご希望をお伺いしても?」
「……実は、その……俺、移住するつもりはなくて……」
「理由をお伺いしても?」
「もちろんです」
軽く眉を持ち上げたチャールズさんに、俺は家庭内における俺の立場というか、扱われ方を全て話した。
はじめはポツリポツリだったのが、最終的にはドン引きされる勢いで、溜まりに溜まっていた、不平不満と愚痴をこぼしていた。
「なるほど……。お話は分かりました。とても辛い思いをなさっていたんですね」
話を聞き終えたチャールズさんは、うんうんと頷いてくれた。
洗いざらいぶちまけられたか、俺はちょっと落ち着きを取り戻し「すみません。こんな話」と彼に頭を下げた。チャールズさんは「いえいえ。心のケアは大事ですから」
嫌な顔をせずに、ニコニコと笑い、
「ご家族と距離をおかれた方がいいとは思いますが、地球に残ることはお勧めしません」
「ッ! 何でなんですか!? 家族は一緒にいるべきだとか、おっしゃるんですか?!」
今、分かったって、距離を置いた方がいいと言ったじゃないかと、チャールズさんに殴りかかりそうになったが、
「お金の問題で揉めることが目に見えていますから。で、揉め事を回避するために、俺からの提案です。原田さん、移住した後に、ご家族から離れましょう」
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