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序章

25:ダンジョン防衛 一から三日目

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 ダンジョンボスの攻略は一週間後となった。下層はダンジョンボスの周辺以外はほぼ全て攻略済みとなり、もうすることも無くなった…という訳ではなかった。むしろ、一番大変な時間を過ごすことになってしまったのだ。

 オーダーメイドを予約した次の日、俺と陽菜と鬼月で下層の様子を見に行ったのだが、ダンジョンボスがいる方面からモンスターが大量に押し寄せてきているのが分かったのだ。

 数は大体50前後。殆どゴブリンで構成された軍団だったが、中にぽつぽつとホブゴブやミノタウロスが混じっているのが見えた。その上、ゴブリンの中にゴブリンウォーリアやゴブリンアサシンなど厄介な奴も見ることができた。

 魔素払いの水晶の子機はモンスターを寄せ付けないが、大量のモンスターに押し寄せられると流石にキャパオーバーとなり、最終的には壊れてしまう。

 つまり敵は陣取り戦を仕掛けてきたという事だ。恐らく目的は俺達をおびき寄せて殺す為だろうが、おびき寄せられなかったとしても子機を着実に減らしていけるから良いよね、という考えなのだろう。

 様子を見に行った時点で既に三つほど子機を壊されていたので、真夜中も行軍が続いていたようだ。ぞっとする。

 最初の一戦目は、敵が子機の破壊を繰り返していた為疲労が強く、簡単に倒すことができた。

 当然次どう動くかを確認する必要があったため、子機を設置し直して、山の上等の高台から俺、鬼月、陽菜と交代でダンジョンボス周辺を見張った。

 次の行軍があったのは、4時間後の事だった。

 数は100は越えていた。恐らく一戦目は子機を破壊する度に数を減らしていっていたのだろう。むしろ、ノーマルゴブリンは子機を破壊するための生贄と言ったところか。

 戦闘は非常に苦しいものとなった。陽菜の魔法による絨毯爆撃が上手くヒットしても3割削れればいい方なのに、敵には魔法を使うモンスターもいれば、アサシンのように魔法使いを狙うモンスターもいる。

 アサシンの速さに対応できるのは今の所俺だけだが、同時にミノタウロスなどに大きな打撃を与えられるのも俺と陽菜の魔法だけだ。陽菜の魔法は敵を減らすことに使いたいため、実質俺だけという事になる。

 では鬼月に前に出てもらうかというとそれも難しい。陽菜を守るのは絶対条件だし、そもそも鬼月にそれほどの火力は出せない。

 結果として、俺は四方八方に駆け続けることになった。シャーマンやカースドデーモンと言った魔法系を優先的に撃破しに行って、アサシンが陽菜に近づこうとしたら全力で戻って対応して、シャーマンのワープで前線にミノが行ったらそれも倒しに行って、と体力がいくつあっても足りない。

 仕方ない、ここは搦め手で行くとしよう。

 という訳で、貯めに貯めていた《爆玉石》を大盤振る舞いし、子機のオンオフを利用して敵の行軍を誘導。岩山の側面を爆破して瓦礫で押しつぶす作戦を決行した。

 落石によりゴブリンは普通に死ぬし、ホブゴブもダメージを食らう。それに、敵の動きを一時的に止めることができるというのも大きな利点だった。

 落石で動けなくなったところを、陽菜のチャージブラストで攻撃し、生き残ったモンスターは俺が殲滅する。

 当然空を飛ぶ、カースドデーモンやゴブリンシャーマンに関しても、俺が対応する。カースドデーモンは呪詛の込められた忌々しい炎を飛ばしてくるため、最優先での撃破が求められる。

 が、当然シャーマンもゲートを作って邪魔をしてくるため、放っておくわけにはいかない。むしろ、シャーマンもゲートを通じてモンスターを移動させようとしてくるので、こちらもこちらで撃破優先度は高い。

 戦いが終わって4時間のインターバルがあるが、その間何もしないという訳ではなかった。

 見張りが必要だったし、《爆玉石》はいくつあっても足りなかったため買い集めに行ったりもした。

 4時間おきに来るということは、単純計算で一週間で40回近くこのウェーブは行われるという事になる。

 その間、見張りの交代、休憩、そして戦闘、と延々とそれの繰り返しだ。この点は爺ちゃんと婆ちゃんにもかなり世話になったし、橘のおじちゃんおばちゃんも世話をしてくれた。同時にめっちゃ心配をかけてしまった。

 陽菜も俺の家に泊り込みまでして動いてくれたし、本当に世話になった。

 鬼月はモンスターの数の原因に興味があるようだった。

『あの数のモンスターを集めるのには、何か仕掛けがあるはずだヨ』

 という事で、いくつか検証してみた。

 原因はすぐに判明した。魔素払いの水晶の子機をオフにして、数時間待つと普通ならダンジョンがモンスターを召喚して再出現させる。ダンジョンは一つの生命体みたいな側面も持っており、モンスターはダンジョンにとっての免疫のようなもの。つまりそういうルールがダンジョンにはあるのだ。

 しかし、実際に試してみた所全くと言っていい程モンスターは湧かなかった。

 鬼月曰く、ダンジョンボスがモンスターの再出現を操作しているのだろう、という事だった。魔素払いの水晶はモンスターの出現の原因となる魔素を払う効果を持つが、敵からしたら払われると分かっている魔素をそのまま放出させる理由がない。

 ボスはダンジョン全体のモンスターの湧きを操作して、自分の陣地に一極化させていると考えられるのだ。

 これは前代未聞の話だ。どれだけ調べても、過去にダンジョンボスがそうした行動に出たというデータは無い。

 ここで思い出されるのは過去に戦ったゴブリンリーダーの不可思議な召喚の事だ。恐らくあの召喚は、アスモデウスの力の加護を利用して行っていたのだろう。

 まさかここまでトリッキーな相手だとは思わなかった。

 俺は正直悩んだ。協会に支援を要請するべきなのではないかと。モンスターを纏めて、一気に行軍させてくるダンジョンボスなど、凶悪すぎる。やろうと思えばスタンピードさえ起こせるはずだ。

 万全を期す必要がある。ダンジョンボスは必ず倒さなければ。

 そもそも、これは完全に俺の考えが足りなかった。むしろ経験不足か?ダンジョンという存在をまだ完全に理解できていなかった。

 人に頼るべきところなのかもしれない。

 という事でパーティーメンバーで相談してみると、

『敵が例外すぎるんダ。経験不足とかそういう話ではないだろウ』
「そうです!圭太君は全く悪くありませんよ。むしろこれまでしっかりと冒険者として役目を果たして来てます!」

 と、物凄く励まされてしまった。どうやら弱気になっていたらしい。情けねえ、しっかりしろ俺。

 まず回避すべきは、陽菜が死ぬこと。そして次に俺か鬼月が死ぬこと。誰かが死んでも攻略は止まってしまう。そして攻略が止まってしまえば謎の企みが進んでしまう。

 企みが達成されればどうなるか分かったものじゃないし、全く影響は無かったとしても、ダンジョンボスにスタンピードを起こす可能性があるとなればそもそも外の安全は保障できなくなる。

 達成すべきはとにかくダンジョンボスの撃破だ。あいつさえどうにかできれば謎の企みも終わるしスタンピードの可能性の芽も潰える。

 …ここは、やっぱり支援を要請するべきだ。

 ただし、冒険者協会にではない。個人のプロの冒険者に依頼を出す。

 【塞翁が馬】についてはもうこの際考えない事にする。そうも言ってられないという事だ。まあ、バレなければ御の字という事で。

 さて、依頼を出すのであれば、パッと思いつくのは俺よりも先に冒険者を始め、テレビに出る程成長しているあの二人の顔だが…アイツらは協調性が無いし欲に弱い。うまく戦ってくれるかも分からないし、俺のスキルを知れば全力で取り込もうとしてくるだろう。それはちょっとうざい。頼るべき相手ではないだろう。

「あの、だったら私の知り合いに頼んでみます!」
「知り合い?」
「はい、お姉ちゃんのパーティーに入っていた冒険者なんです。口も堅いし誠実な方なので、頼んでも大丈夫…な筈です。少なくとも秘密は絶対に守る人なので」
「…分かった。陽菜を信じる。橋渡しをお願い出来るかな?」

 という事で、早速連絡を入れて、明日には来てくれることになった。

 4時間ごとにモンスターの行軍と戦うのは骨が折れる。まず睡眠時間を取れないのが一番つらい。その上、一回の戦闘で長ければ数十分も走り回らなければならないし、陽菜も命を狙われながら魔法を何度も何度も撃たなければならない。鬼月も言わずもがなだ。それが何日も続くとなると流石に疲労がたまっていく。

 婆ちゃんの作る食材アイテムのご飯が無ければとっくに過労死してただろう。

 気張っていこう。俺は回復薬を疲労回復のために飲み干し、またダンジョンへと潜るのだった。
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