トンネルを抜けると異世界だった~荒れ狂うと言う名を持つ乙女~

ゆき

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19 シグルーンの敗北②

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 吹雪の中で、横たわるアルビノの竜を背にシグルーンは、冒険者ヘルヴォル・アルヴィトルを前に、構える。
 俺様は負けた。
 いくらサングリーズルとの戦いで、傷ついていたとしてもだ。
 サングリーズルもヘルヴォルが、一撃で首を切り落としたのだ。
 
「お前はいったい!?」
「・・・考えろ。それよりも、アルビノの竜が、人の姿になっているぞ」
「なに?」

 勢い良く振り返れば、ヴェルジュは人の姿になり、カーラが良く自己防衛に纏っていた球体のような魔力に包まれている。

「すごいな・・。自己回復と魔力回復だな」
「ヴェルジューーっ!!バカヤロー!このバカヤロー」

 生きていた。
 それだけで、胸のあたりが変な感じだ。
 それは不快感ではなく、カーラが離れなかった時の感覚。

「このアルビノの竜を殺してもよいだろうか」
「なんでだ! このバカヤロー」
「わかった・・もういい」
「はぁ?」

 訳の分からない雄だとシグルーンはかかわらないようにと思う。

「のう~。わらわは、もう疲れた抱いてたもう」
「はぁ?」

 足元に小さな子供がいた。

「サングリーズルか」
「そうなのか!?」

 ヘルヴォルの言葉にシグルーンは小さな子供を見る。

 べしっと少女の髪から蛇が顔を出し、シグルーンの横面をはたいたのだ。

「このドちびがぁぁぁーーっ!」

 首根っこを掴み上げると、今度は蹴り返してきた。

 サングリーズルは首を切り落とされたのに、小さくなっただけだ。
 転がる自分の首を眺めている。
 どうして死なないのだろう?

「わらわは首を落とされたくらいでは死なない。まぁ、力は弱まるがいずれまた戻る」

 知れ~とそう言うチビッ子サングリーズルだ。

「その首はお前がギルドに届けろよ」
「・・そうか」
「あぁ・・俺様が切り落としたんじゃねーからな」

 ヴェルジュをシグルーンはフェンリルになり背に乗せた。

「じゃな」
「まて。忘れ物だ」

 ひょいとチビッ子サングリーズルを摘み上げ、フェンリルの背に乗せる。

「・・・おい!」
「なんだ?」
「お前が何とかしろよ」
「わらわはこっちのフェンリルがよいの~ぉ」

 ぱちくりとシグルーンは瞬きする。

「こっちの?」
「そうじゃ、わからぬのか? 鈍感な年増じゃな」

 クスクス笑うチビッ子サングリーズルに怒りを感じる。

「お前・・フェンリルか?」
「・・・・さぁな」

 そう言うと、ヘルヴォルは跳躍した。
 人とは思えないほどの跳躍力で、あっという間に見えなくなる。


 しかしどうしたらいいのか?
 チビッ子でもサングリーズルだ。

「お前どこかへ行け」
「わらわを庇護せよ。こんな幼い姿では魔物や魔獣の餌じゃ」
「知るか」

 そう言って振り落とそうとしたら、ヴェルジュが落ちた。
 もう一度、ヴェルジュを背に乗せる。

「言っとくが、俺様達は人間世界で、人の姿で生活している。ばれないようにな」
「ほ~う。それは旨そうな愚鈍なりを見分け餌にと思うてか?」
「ちがわい!」

 このチビッ子サングリーズルの相手をしていると、血圧が上がってしまう。

「まずはロイ爺の所にヴェルジュを連れ帰り、後はロイ爺に任すか」

 考えるのが苦痛になり、シグルーンは考えるのを放棄した。



===============

 プラトーの冒険者ギルドの三階の特別部屋。
 ここを使えるのはただ一人だけ。
 それは、大斧使いのS級冒険者のみ。
 そこに筋肉凶暴女が加わるかは任務完了で決まる。

 プラトーダンジョンの地下で、スケルトンキングが討伐された来た次の日の夜。

「今まで何処に?」
「・・・これを」

 ボンと、床に転がるサングリーズルの大きな首を軽々と投げる。

「ヘルヴォルだけでか?」
「いや・・ウールヴヘジンと言う女冒険者とヴェルジュと言う者とで戦った。」

 その言葉にランドグリスは身を乗り出す。

「二人はどうした? 無事なのか?」
「・・ヴェルジュは焼け爛れ・・」
「ななななぁぁぁぁぁぁーーーー」

 床に崩れ落ちるように、ランドグリスは地を這う嘆き声を上げた。

「だが・・回復していた。あの者の回復力は・・」
「だろう! ヴェルジュ様の腕は既にS級なのだよ。いや、伝説だ」

 復活したギルドマスターだった。

「ウールヴへジンは・・」
「あぁ、いい。あいつは殺しても死なない」
「・・・そうか」

 パンパンとランドグリスが、手を叩く。
 部屋の扉が開き、職員が入って来た。
 彼女の押すワゴンに、色々な菓子が乗せられている。

「まぁ、食べてくれこの『ラブ・ブランジュ』は我が女神に捧ぐケーキなんだ。こっちは新作の『ラブ・プディング』この白さを見てくれ」

 生クリームの上にラズベリーソースがかかる。
 ヘルヴォルは片っ端から、ランドグリス手作り菓子を食べつくす。

「・・旨かった。しばらく・・ここにいる・・」
「ほんとうか?」
「あぁ・・やっと会えた・・」
「誰とだ?」

 その返事はない。
 ヘルヴォルは奥にある個室に行った。
 そこは、ランドグリスが彼専用に設けた個室だった。
 ルリジオン神国のS級冒険者は、プラトーの冒険者ギルドのヒーローなのだ。
 ランドグリスが見つけて、あっという間に駆け上がる。
 その風貌には似合わない菓子好きの男は、ランドグリスが作る菓子をいたく気に入り、忘れたころにここに来ては次の冒険へと出かける。

 初めて会った時のことをランドグリスは思い出す。
 誰かを探して旅をしていると言った。
 彼は狼の獣人だと言うが、耳も尾もない。
 そう言った獣人達もいるだろう。
 腹を空かせているようだったから、菓子を食わせた。
 そこで、冒険者勧誘活動をしたら、今がある。
 全くあの頃と容姿は変わらない。
 獣人に妖精族やエルフ族の血が混ざっているのかもしれない。
 探していた者と会えたのだ。
 それは喜ばしい出来事。

「まぁ、好きなだけいればいい。お前さんの家はここなのだからな」

 ヘルヴォルには聞こえていない。
 それはランドグリスの独り言なのだから。



===================

 広い工房で、ロイ爺は無心でハンマーを動かしている。

 ボロボロで帰って来たシグルーンとヴェルジュにおまけがいた。
 本来ならヴェルジュの回復魔法で、シグルーンは完治しているだろうが、本人が眠り状態で、自身の傷を回復中なのだ。

 サングリーズルが問題だ。
 小さくてもフェンリルや竜と同じ凶暴な魔獣。

「のう・・ジイ。聞こえておるか?もうろくしたかえ?」
「聞こえておるわーーー! だれが、もうろくジジイじゃ」

 くわっとハンマーを片手に振り向くと、幼女のサングリーズルがいる。

「ここには立ち入り禁止じゃ! 神聖なる工房に入るな」
「じゃがな、わらわは腹が減った。狼も竜も寝ておるしの。ジイを食っても良いのかえ?」

 無垢なる目でサングリーズルが見つめてくる。

「ど阿呆! お前の餌などになってたまるかーーーぁ! 食いたいのなら山に帰れ」

 しっしっとロイ爺はサングリーズルを払う。

「・・わらわは今は力が弱い。眠りを妨げた者が悪いのじゃ。なのに皆・・いじわるじゃ」

 シクシクと泣いているサングリーズルが、妙に憐れんで見えた。

「これでも食え。鹿肉ジャーキーじゃ。魔物や魔獣は食って良いが、人族や獣人にワシのようなドワーフなど食うな。これは人の世界で、人と混ざり生活している最低ルールだからな。できないならこの地を去れ」

 がつがつと鹿肉ジャーキーに食らいつくサングリーズルは、首を縦に何度もふった。

「おかわりをたのむぞ。これは中々の美味じゃな~」

 いたく気にいったようだ。
 だが、この食欲だと自分で狩ってもらわなければ、自分も制作に没頭できない。
 気にいったのなら、スパイシーケルウスくらい自分で狩れ。

「サングリーズルよ。お前さんもシグルーンやヴェルジュのように、ギルド登録をし、自分の食うものくらい賄え。ここで人に混ざり生活したいならば、必要不可欠なことじゃ」
「人になど混ざりたくない。だが、ジイはその方が良いのかえ?」

 おかわりだと、また鹿肉ジャーキーを欲しがった。
 ロイ印の袋から鹿肉ジャーキーを取り出し渡す。

「そうじゃな。お前さんはリズとでも名乗れ。人前ではあるべき姿になってはいけない」
「リズかの~ぉ。ほほう、中々に良い名じゃ。気にいったぞ。しかしあれもこれもと大変な事じゃの」

 名前を付けてしまったロイ爺だ。
 こうなれば、サングリーズルと言う、珍しい貴重な素材集めが出来る。
 爪を手入れし、シグルーンのように、ブラッシングして毛を集める。
 ここで暮らすのなら宿代はもらおうと、ロイ爺は笑った。
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