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4 彼女の変化の理由
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久しぶりに再会したかつての婚約者同士、積もる話もあるだろうと言われ、俺はケバケバ王女と共に離宮の庭園を散歩して回ることになった。
このケバケバ王女、確かに髪の毛はエステルと同じ栗色だ。化粧に埋もれて見えないが、何となく目鼻立ちもエステルの面影がある。
エステル本人なのか?
彼女と再会した瞬間、俺はまた恋に落ちると思っていたのに。
自分の気持ちを整理できないまま、とりあえず彼女に腕を出してエスコートしてみた。
「4年振りに会ったというのに、もう少し何かないんですの?」
「……へっ?」
「ほら、懐かしいねとか、会いたかったよとか、そういうセリフは出て来ないんですの?!」
ドレスと同じ色の真っ赤な口紅がベッタリと塗られた唇が、悪態をつく。
「あっ! ええっと……懐かしいデス」
しまった、俺は完全に混乱している!
俺の機械人形のようなたどたどしいセリフに、エステルらしき女性は鼻の穴を広げて憤慨した。
「フェリクス様! もしかして、わたくしの事なんてすっかり忘れて、他のご令嬢と恋仲になったりしてませんでしょうね?!」
どうしよう。エスコートしている腕を、思い切りつねられている。
「痛っ……痛い、エステル王女殿下……」
「…………! なんとよそよそしい呼び方! 昔は、エステルと呼んで下さってたではありませんか!」
「いや、そうじゃなくて……ちょっと久しぶりすぎて見違えたというか、すごくお美しくナラレマシタネ」
庭園に入ったばかりでまだ案内もほとんどできていないというのに、俺はエステルっぽい女性の機嫌を損ねてしまった。これでもかという程つねられた腕はポイっと放され、彼女は尻をフリフリと護衛騎士イルバートの方に戻って行ってしまった。
もう、一体どうすれば良かったんだ。
貴女は本当にエステルなのかと確認すれば良かったのか? そんなことをしたら、もっと機嫌を損ねそうだったじゃないか。
4年間も恋焦がれ続けたエステル・ダンシェルド。こんなはずじゃなかった。
再会したら二人で感動の涙を流し、再び婚約しようと言ってお互いを抱き締め合う。そんな美しい再会を夢見ていたのに。
「……フェリクス殿下」
庭園のベンチで頭を冷やしていると、離宮の方から一人の男性がやって来た。
「イルバート……か?」
「はい、そうです」
ちょうどいい、護衛騎士としてずっとエステルの側にいたはずのイルバートなら、詳しい事情を知っているに違いない。彼女のことを根掘り葉掘り聞いてしまおう。
「イルバート、先ほどの女性は間違いなくエステルなのか?」
「……はい、そうです。殿下が驚いてらっしゃるのではないかと思い、エステル様を広間に送り届けて戻って参りました」
「そうか。エステルは、何と言うか……その……昔と違う雰囲気がするのだが」
「殿下の仰る通りです。あのようにお化粧したり横柄な態度になられたのは、1年ほど前からだったと思います」
なるほど。初めからああだったわけではなく、きっと何かのきっかけがあったんだな。
「エステル様が15歳になられ、ダンシェルド国内で社交界デビューなさいました。今と違って当時はエステル様も清楚で可愛くて優しくて素晴らしい女性でしたから、国内の色んな男性から引くて数多になりまして」
「……イルバート。なんとなく言葉の裏に悪意を感じるぞ」
「失礼しました。とにかく、当時はエステル様も大変だったのです。ずっとフェリクス殿下のことをお慕いになっていましたから」
エステル……俺と離れ離れになってから何年も経っていただろうに、俺のことを慕ってくれていたのか。
12歳の頃のエステルの姿を思い出して、両目が潤んでしまう。ダメだ、今はイルバートの話をきちんと聞かなくては。12歳のエステルじゃない、さっきの16歳のエステルを思い出せ!
すると、一気に涙が引っ込む。
「エステル様は、ずっとフェリクス様のことをお慕いになっていました」
「うん、それはさっき聞いた」
「……報告は以上です」
「はあっ?!」
え?! きっかけは?
社交界デビューした頃には清楚で可愛くて優しかったエステルが、あんなんになっちゃったきっかけは?
そこが大事なんじゃないのか?
「イルバートも、なぜエステルが変わってしまったのかは分からないということなのか?」
「その通りです。とにかく1年前に突然、変わってしまわれたのです」
庭園の暗闇に、俺のため息が解けていく。
しかし、ものは考えようだ。前向きに捉えれば、彼女がエステルに間違いないということが確認できて良かったじゃないか。
想像していた美しい再会ではなかったけれど、もう一度エステルとじっくり話をしよう。人間の本質は変わらない……はずなのだから!
このケバケバ王女、確かに髪の毛はエステルと同じ栗色だ。化粧に埋もれて見えないが、何となく目鼻立ちもエステルの面影がある。
エステル本人なのか?
彼女と再会した瞬間、俺はまた恋に落ちると思っていたのに。
自分の気持ちを整理できないまま、とりあえず彼女に腕を出してエスコートしてみた。
「4年振りに会ったというのに、もう少し何かないんですの?」
「……へっ?」
「ほら、懐かしいねとか、会いたかったよとか、そういうセリフは出て来ないんですの?!」
ドレスと同じ色の真っ赤な口紅がベッタリと塗られた唇が、悪態をつく。
「あっ! ええっと……懐かしいデス」
しまった、俺は完全に混乱している!
俺の機械人形のようなたどたどしいセリフに、エステルらしき女性は鼻の穴を広げて憤慨した。
「フェリクス様! もしかして、わたくしの事なんてすっかり忘れて、他のご令嬢と恋仲になったりしてませんでしょうね?!」
どうしよう。エスコートしている腕を、思い切りつねられている。
「痛っ……痛い、エステル王女殿下……」
「…………! なんとよそよそしい呼び方! 昔は、エステルと呼んで下さってたではありませんか!」
「いや、そうじゃなくて……ちょっと久しぶりすぎて見違えたというか、すごくお美しくナラレマシタネ」
庭園に入ったばかりでまだ案内もほとんどできていないというのに、俺はエステルっぽい女性の機嫌を損ねてしまった。これでもかという程つねられた腕はポイっと放され、彼女は尻をフリフリと護衛騎士イルバートの方に戻って行ってしまった。
もう、一体どうすれば良かったんだ。
貴女は本当にエステルなのかと確認すれば良かったのか? そんなことをしたら、もっと機嫌を損ねそうだったじゃないか。
4年間も恋焦がれ続けたエステル・ダンシェルド。こんなはずじゃなかった。
再会したら二人で感動の涙を流し、再び婚約しようと言ってお互いを抱き締め合う。そんな美しい再会を夢見ていたのに。
「……フェリクス殿下」
庭園のベンチで頭を冷やしていると、離宮の方から一人の男性がやって来た。
「イルバート……か?」
「はい、そうです」
ちょうどいい、護衛騎士としてずっとエステルの側にいたはずのイルバートなら、詳しい事情を知っているに違いない。彼女のことを根掘り葉掘り聞いてしまおう。
「イルバート、先ほどの女性は間違いなくエステルなのか?」
「……はい、そうです。殿下が驚いてらっしゃるのではないかと思い、エステル様を広間に送り届けて戻って参りました」
「そうか。エステルは、何と言うか……その……昔と違う雰囲気がするのだが」
「殿下の仰る通りです。あのようにお化粧したり横柄な態度になられたのは、1年ほど前からだったと思います」
なるほど。初めからああだったわけではなく、きっと何かのきっかけがあったんだな。
「エステル様が15歳になられ、ダンシェルド国内で社交界デビューなさいました。今と違って当時はエステル様も清楚で可愛くて優しくて素晴らしい女性でしたから、国内の色んな男性から引くて数多になりまして」
「……イルバート。なんとなく言葉の裏に悪意を感じるぞ」
「失礼しました。とにかく、当時はエステル様も大変だったのです。ずっとフェリクス殿下のことをお慕いになっていましたから」
エステル……俺と離れ離れになってから何年も経っていただろうに、俺のことを慕ってくれていたのか。
12歳の頃のエステルの姿を思い出して、両目が潤んでしまう。ダメだ、今はイルバートの話をきちんと聞かなくては。12歳のエステルじゃない、さっきの16歳のエステルを思い出せ!
すると、一気に涙が引っ込む。
「エステル様は、ずっとフェリクス様のことをお慕いになっていました」
「うん、それはさっき聞いた」
「……報告は以上です」
「はあっ?!」
え?! きっかけは?
社交界デビューした頃には清楚で可愛くて優しかったエステルが、あんなんになっちゃったきっかけは?
そこが大事なんじゃないのか?
「イルバートも、なぜエステルが変わってしまったのかは分からないということなのか?」
「その通りです。とにかく1年前に突然、変わってしまわれたのです」
庭園の暗闇に、俺のため息が解けていく。
しかし、ものは考えようだ。前向きに捉えれば、彼女がエステルに間違いないということが確認できて良かったじゃないか。
想像していた美しい再会ではなかったけれど、もう一度エステルとじっくり話をしよう。人間の本質は変わらない……はずなのだから!
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