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番外編
94 レナーシュミは見た
しおりを挟むレナーシュミはアシュテ伯爵家に引き取られた。そして直ぐに貴族学院で貴族として生きていくようにと放り込まれた。その際に半年程基礎的なマナーの勉強をしたわけだが、元々貧乏とはいえ村の中で神のように崇められて育ってきていた為、そこまで酷い田舎臭さもなく、順調に学院に溶け込めた。
兎に角大人しく卒業しよう。
そう思っていた。そしてアシュテ伯爵家のバカ息子との結婚だけは回避しよう。そう心に誓った。
顔も不味ければ頭も悪い。武力もないし親の金を使って偉そうにしている。
そんな息子と結婚させる為にアシュテ伯爵はレナーシュミを引き取ったのだ。
冗談じゃない!
顔が良くて、頭なり力なり何なり取り柄があればいいものの、何も良いところがないのに、あんなのと結婚したくない!
この学院に通う間にどうにか突破口を見つけなければ!
その突破口が騎士団への入隊だった。学生のうちはまず見習いからと言われ、貴族女性なので白銀騎士団を勧められた。
レナーシュミには『水操作』というスキルがあるので、入隊は簡単に済んだ。
三年生で特別任務まで貰い、途中失敗したけど、今やレナーシュミは王太子妃様の専属護衛だ!
アシュテ伯爵はそれでもレナーシュミと息子の結婚を諦めなかったけど、事情を知ったドゥノー様が間に入って止めてくれた。
レナーシュミはいい主人に出会えたと大満足だ。
アシュテ伯爵家の息子との結婚は嫌だったけど、結婚自体は別に嫌ではない。
レナーシュミは頭は良くないが見た目も良いしスキルを持っているのでかなりモテる。モテる自覚はある。
だけど結婚相手に妥協したくないし、妥協するくらいなら一人でも良いと思っている。
ドゥノー様は現在初夜真っ最中だ。
皆んなの予想では一週間くらいは続くのではと言っている。この国のトップが仲睦まじいのは良い事だ。国王?まだいたかもしれない。
るんるんと鼻歌を歌いながらレナーシュミは一軒の店へ入った。どこもお祝いムードで大賑わいだ。
店主に相席でも良いかと言われ、レナーシュミは元気よくいいよっと応じた。
皆んな浮かれている。他人同士でも今日は楽しく飲めると思った。
「すみませーん、お邪魔しますっ。」
一言断りを入れてから座ると、相手は見たことのある人物だった。
「いいよ、どこも混んでるからね。」
おや?この人、前に黒銀騎士団にいた人だ。確かワトビ・ニナンという名前だ。赤毛に緑色の瞳が特徴的で、そばかす顔が少年っぽいのだが、レナーシュミより十歳くらい年上のはずだ。
そしてその隣には驚くことにファマリ・エレンレフ白銀副団長が座っていた。
「今日は非番か?」
ファマリ副団長とは面識があるので話しかけてきた。
「あ、今日から当番制で待機です。晩御飯と休憩ですよ。」
「あー初夜かぁ~。あの殿下がとうとうねぇ。」
ワトビ元副官は既に酔っているらしい。
「副団長はワトビ様と仲が良かったんですね。」
レナーシュミの話にワトビが首を傾げた。
「俺のこと知ってるの?」
「はいっ!今は王太子妃殿下の護衛をしておりますが、以前は白銀騎士団に所属しておりました。レナーシュミ・アシュテと申します!」
「おー、そうなんだ。ドゥノー様はお優しいから仕えがいがあるでしょう?俺、今はワトビ・サクアレアと言うんだ。」
ワトビ様は今やファバーリア侯爵の最側近として活躍されている方で、爵位も伯爵位を叙爵しているのだと教えてくれた。
「失礼のないようにな。」
ファマリ副団長がすかさず忠告してくる。
「別に良いよ、大した地位じゃない。雑用係だよ。」
「そう思ってるのはお前だけだろう?」
ワトビ伯爵とファマリ副団長は仲が良いようだ。気軽に喋っている。
「団にいる時には感じませんでしたけど、仲がよろしかったんですね。副団長同士は繋がりがあるんですか?」
何気なく質問したレナーシュミに、ワトビはケラケラと笑った。
「俺は副団長ではないんだよ。」
「え?でも、副団長でしたよね?」
ファマリ副団長も笑っていた。
「ワトビは副官な。ファバーリア侯爵が黒銀の団長してる時は何でもかんでもコイツが処理するもんだから皆んな副団長と思ってたけどな。」
「副官ですか?副団長と何が違うんですか?」
「何だろうね?役職かな?俺はエジエルジーン様の補佐なんだよ。補佐としてエジエルジーン様について来ただけで副団長ではないわけ。そうだな、雇い主はエジエルジーン・ファバーリア侯爵であって、黒銀騎士団ではなかったわけだよ。一応エジエルジーン様が黒銀にいる間は俺も黒銀の団員ではあったけどね。」
かなりびっくりした。
副団長ではなかった!
「かなり特殊な立場なのに、黒銀の奴らは団長怖さにワトビを担ぎ上げたんだよ。実際ワトビはスキルないけど強いしな。訓練も普通に副団長として働いてたし。」
「給料はちゃんと二倍出てたよ。」
超お得っ!とヘラヘラ酔っ払って喋ってるけど、それはお得とは言わないのでは?
「レナーシュミ、お前食べたなら帰れ。」
レナーシュミは食べるのが早い。注文した分は早くも食べ終わってしまった。ワトビ伯爵は話しやすくてもう少しお喋りしたくもある。
「自分も飲みたい……。」
「か・え・れ。」
「可哀想だろ?一杯くらい付き合おうよ。お祝いの日だよ?」
帰そうとするファマリ副団長に対してワトビ伯爵は気軽に了承してくれた。
つまみとエールを頼む。
ファマリ副団長の機嫌が悪いな………。
届いたエールを飲みながら二人を観察する。元であろうと部下は大事にするべきと主張しだしたワトビ伯爵に、ファマリ副団長は軽く返事をしていた。
「ワトビ伯爵様はご結婚されたんですか?」
「ん?伯爵様はいらないよ。それと、結婚はしてないよーん。」
ワトビ伯爵は機嫌がいいけど、やっぱりファマリ副団長の機嫌は悪いなぁ。
二人で飲むのに隣同士で座ってる時点で気付けばよかったかな?
ファマリ副団長は好みではなかったけど、話しやすくて優しそうなワトビ伯爵は有りだなと思った。だけどこれは観賞用だなと結論を出した。
結婚相手ではない。
「レナーシュミさんなら、お嫁さんにピッタリだね。」
「ダメですよ、その発言ここで言ったら。報復が怖いです。睨まないでください、応援しますから、エール飲んだら帰りますから!」
ファマリ副団長はスキル持ちて怖い人だ。だけどそのスキルの内容を知る人はいない。
白銀には見習いとしてしか入団していなかった為、副団長がどんな仕事をしているのかはよく知らない。ただ一部の団員が下についていて、専用の部隊を持っているのは知っている。そこの団員達の絶対服従ぶりはちょっと怖いなと思っていた。
レナーシュミはペンペンと机を叩いてファマリ副団長に合図を送る。
「何だ?」
コソコソと二人で顔を寄せ合って話した。
「何かあったら力になります!なので自分にも良い相手紹介して下さい!」
「お前の協力なんて王太子妃殿下に助力願うくらいだろ?まぁ、それでもあれば便利か。後ろに王太子殿下やファバーリア侯爵家が付いてきそうだもんな。…………そうだな、じゃあ宰相閣下は?」
「何言ってるんですか。宰相閣下は独身貫くって聞いてます。それにはあんな怖いのはヤです。もっと平和的なのを希望します。」
「閣下を振るとは良い度胸だな。」
「振ってませんって。勝手にそんなこと言ってたら首飛んじゃいます。」
コソコソと話している間にもワトビ伯爵のお酒はなくなっていっていた。
「こら、飲み過ぎだ。」
「あ、取るなよっ。珍しく連休なんだよ。いいだろ~。」
「後は家で飲もう。ほら、帰るぞ。水飲め。」
ワトビ伯爵は渡された水を大人しく飲んでいた。ちょっと年上だけど、素直で優しくて爵位持ちで働き者。いい……、恋人に立候補したい………。けど、無理か。隣の副団長が圧をかけてくる。
結局今日の晩御飯代はファマリ副団長の奢りになった。それ狙って高い肉頼んだけど見逃してくれた。
アレはもう付き合ってるのかな?それとも落としてる最中?どちらにせよ先が見えている気がしてならない。
遠ざかる二人を見送って、レナーシュミは帰路につくのだった。
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