落ちろと願った悪役がいなくなった後の世界で

黄金 

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竜が住まう山

41 九老会議

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 聖王陛下の下にはまず緑、青、赤の三つの翼主がいる。この中から最も相応しいと思われる者が次の聖王陛下になることになる。
 聖王陛下を守るのが神聖軍主であり、透金英の樹を守るのが花守主、神事を司るのが予言者と、役割が分かれている。
 この聖王陛下の下にいる六つの役割を六主といい、それぞれの役割を務めながら聖王陛下の補佐を務めていく。
 この六主の他に、天空白露には重要な役職がある。
 三護さんもりといい、各地にある司地しちを束ねる機関の白司護はくしもり、天空白露内の治安を守る地守護ちしゅもり、地上のあらゆる情報や遺跡の調査、それに付随する古代語や遺物の解析、蔵書の管理などを一手に受け持つ識府護しきふもりの三つの役職がある。
 この六主三護ろくしゅさんもりが合わさって九老きゅうろうと言われ、普段はそれぞれの役割に則って稼働しているのだが、九老の内誰が一人でも議会を開きたいと聖王陛下に申請すれば、九老会議を開くことができる。


「ふぅーーーん、で、その会議で赤の翼主が決まっちゃったわけ?」

 そうなのです。と護衛の一人が説明してくれた。
 もう少しで天空白露に着くという頃合いの出来事だった。

「じゃあトステニロス様は赤の翼主から降ろされたの?」

 一緒に聞いていたアオガが尋ねる。

「そのようです。元々赤の翼主は血筋が途絶えてますから、天空白露を空けてしまうくらいなら誰か他の者を就かせるべきだと議会が開かれたようです。」

「誰がそれ言いだしたんだ?」

三護さんもりが一緒に言い出したようですね。」

 てことは示し合わせたのか。
 
「じゃあ次の赤の翼主って誰なんだ?」

「フィーサーラですね。神子様と同じ歳ですよ。天上人に成り立てです。」

 てことは二十五歳?

「赤の翼主ってそんな簡単になれるもん?」

「そんなわけないよ。コネでしょ?フィーサーラってソノビオ地守護長ちしゅもりちょうの息子だし。ツビィロランは気をつけた方がいいよ。」

「はあ?なんで俺が気をつけるんだよ?」

 意味わからん。関係ねーじゃん。

「いえいえ、アオガ様が言うことは一理あります。ソノビオ地守護長の狙いは赤の翼主一族になることでしょうし、息子殿を翼主の地位につけ、更にフィーサーラ様がツビィロラン様と番になる、もしくはロアートシュエ様を退任させて聖王陛下の地位に就き、ツビィロラン様と番になる状況を作れば、ソノビオ地守護長の一族は安泰となります。」

 げげっ!番ぃぃ!?冗談じゃない!!

「俺は誰とも番になる気はねーぞ!!」

 ガバリと飛び起きる。
 因みに俺は布団を被って話していた。一人掛け椅子に座り体操座りで丸くなって、布団を被っていたのだ。外の景色が見えないように。
 黙っていると、今、空に浮かんでいるのだという想像でオシッコちびりそうになるので、誰か何か喋ってとお願いしたらこの話になった。
 建物の中は平気になったけど、空飛んでるのはやっぱり無理だった。今立っている足元の下は空の中で、宙に浮いているのだと思うともうダメだ。
 津々木学の世界でも本社ビルはなんとか慣れたけど、飛行機は無理だった。あと、ビルの窓側も無理だった。あんな大きなガラス窓いらん。

「うーん、でもスペリトトの予言では新たなる王という言い方をしていますが、ほぼ神子に番が出来て、その人が王となるといっているようなものです。」

 つまりツビィロランの番が新たな聖王陛下ということになる。

「まさかアゼディム様の番がロアートシュエ様だとは誰も気付かず……。」

「あんないつも眉間に皺寄せて鍛錬だ訓練だと言って私達を投げ飛ばすアゼディム様の番が聖王陛下だとは!」

「あぁ~~~んな麗しい方を番にぃ!?」

「うらやま………、いえ、ゴニョゴニョ……。」

「お前達、いい加減にしなさい。」

 お前らが自分の主人をどう思っているのか分かった気がした。

 天空白露ってゲーム見てる分には恋愛だなんだとかばかり言ってる平和そうな浮島に思えたのに、内情は政権がどうのこうのと血生臭いな。
 三護とかいう役職も出てこなかったしな。
 ツビィロランの記憶を見ても、いたなぁ~ってくらいの認識度しかない。
 着いたらめんどくさそうだ。











 パタタタターー……。

 羽ばたく音と共に、窓辺に一羽の鳥が止まる。
 クオラジュとトステニロス二人だけが乗る飛行船は、天空白露でも最新型の中型船だ。あまり大きくても目立つし小回りが効かない為、トステニロスが用意していた船だった。
 稼働音も小さく、逃げるにはもってこいだ。

 飛んできた鳥は翡翠色をしていた。つぶらな茶色の瞳をぱちぱちされて、ヒョイと片足を上げて見せる。
 テトゥーミの神聖力でできた鳥だ。神聖力で動物を実体化させることができる天上人はあまりいない。テトゥーミも緑の翼主としての実力は確実に持っているのだが、あまり人の上に立つのは好きではない性格の所為か、ロアートシュエやクオラジュにいいように使われている。板挟みになっていると言ってもいい。
 
 足に括られた筒から小さな手紙を取り出す。
 それを読んでいたクオラジュが、窓の外に目を向けた。
 今飛んでいる場所は雲が多い。遠くでは落雷も見え、稲光が走っていた。あの中に入れば嵐だろう。
 ガチャンと扉の取っ手が動き、トステニロスが入ってきた。

「今テトゥーミの鳥が飛んでこなかったか?」

 この船には自動運転機能が付いている。簡単な方向の指示くらいなら勝手に飛んでくれるので、トステニロスは合間合間に動かないクオラジュの為に、殆どのことを一人でやっている。
 竜の住まう山ではそれなりに気を遣って家事も手伝っていたのに、二人きりになるとクオラジュは一気にやる気をなくしてしまう。これでもテトゥーミが居ればやるのだが、甘えてくれているんだろうと思えば腹も立たない。

「ええ、赤の翼主が決まったそうです。」

 あー、とトステニロスは気まずそうな顔をした。
 今まで赤の翼主はトステニロスだった。クオラジュについていく為とはいえ、その地位を失うのは後ろめたい。

「誰がなったんだ?」

「フィーサーラです。」

「誰だそれ?」

「ソノビオ地守護長の長子です。」

 あぁ、とトステニロスは納得した。
 前々から赤の翼主の地位を退き、相応しい血筋が治るべきだと主張していたのを思い出した。トステニロスが不在となった今、これ幸いとその地位に息子を就任させたのだろう。今までもトステニロスが地上の任務で不在時にも同じようなことをしようとしていたが、これまではちゃんと聖王陛下の命令で動いていたので阻止できた。今回は無許可で動いている為、不相応として降ろしたのだろう。

「強引だな。」

「九老会議を開いたそうです。………聖王の地位も狙うかもしれませんね。」

 ロアートシュエとアゼディムが番であることは周知の事実となった。今回天空白露が海に落ちたことを機に、公表するのだと二人は決めたらしいが、どうせ秘密にするのなら死ぬまでしておけばよかったのにと思う。
 まぁ、公表させないように仕向けたのはクオラジュではあったのだが。

「ロアートシュエは聖王を降りるつもりかな?」

 トステニロスの疑問はクオラジュの疑問でもある。
 今までは天空白露の為にと聖王の地位を維持し続けていたロアートシュエだが、ホミィセナが消え、正当な予言の神子が戻り、クオラジュが天空白露を去った今、その地位をどうするつもりなのか読めない。
 落ちるかもと危惧されていた天空白露は無事海の上に浮かび、今のところ平穏が訪れている。
 緑の翼主一族もほぼロアートシュエの支配下に落ち着いた。その地位にしがみつく必要はないはずなのに、ロアートシュエは未だに聖王として天空白露を治めている。

「テトゥーミの報告では九老会議で反対するよう指示されたが、三護が結託して出来ませんでした、と書かれていました。」

 そうだろうなとトステニロスは天を仰いだ。テトゥーミは決して弱くない。頭もいい。だが意志が弱い。

「そりゃ無理だ。言いくるめられて終わりだ。」

 赤の翼主は青と緑の翼主の推薦で決まるのだが、青の翼主クオラジュが不在の今、三護が代理として発言した可能性がある。三対一だ。お喋りなくせに話がまとまらないテトゥーミが勝てるはずがない。
 ロアートシュエは仕方ないと許してくれそうだが、番のアゼディムが許してくれるだろうか。

「それで?どうするんだ。」

「どうとは何でしょう?」

「フィーサーラはツビィロランの番になろうとするんじゃないか?いいのか?」

「……………。」

 クオラジュは黙ってしまった。
 窓のガラスにパタパタと雨粒が降り始める。昼間だというのに厚い雲に覆われて暗くなった部屋に、トステニロスは壁の装飾に手を触れた。神聖力を通すと花の蕾型のランプに青白い灯りが灯る。
 ふぅ、とトステニロスは息を吐いた。
 竜の住まう山でツビィロランと話すことがあると言ったくせに、クオラジュは結局何も話さずにスペリトトの像を壊すだけで戻ってきてしまった。
 その時クオラジュに話せたのかと聞いても、ダンマリだった。
 クオラジュがまともに対人関係を築いてこなかったのを知るだけに、トステニロスはクオラジュが心配だ。
 ………しかしツビィロランかぁ~、と思わないでもない。
 あっちもかなり癖のある性格をしていそうだ。

「気になるんなら一度天空白露に戻ってみるか?」

「……………。」

「おーい、おーい、無視はやめろよな。」

「……………。」

「たまには素直に感情に任せて動いてもいいと思うぞ。」

五月蝿うるさいです。」

「…………俺はお前が将来ちゃんと番を迎えて幸せを掴む人生を送れるかどうか心配してだなぁ。」

「私より貴方の方が先でしょう?叔父上。」

「…ぅおーい、喧嘩売ってんのか?」

 クオラジュはふんっと窓の外を向いてしまった。
 
「……………そのうち様子を見てみます。」

 なんだ、やっぱり気になるのか。
 トステニロスはニンマリと笑って了解と返事をした。
















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