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女王が歌う神仙国
50 聖王陛下と朝食
翌朝、俺の部屋に聖王陛下から朝食を一緒にどうかと朝早くから伝言が届いた。たまにこのお誘いはある。なので俺は了承の返事をした。
手伝いの使用人、この聖王宮殿では働いている信徒達になるのだが、手伝いに二人来てくれて身支度を整えてくれた。
単なる朝食に着飾るのもどうかと思うが、相手は天空白露のトップなので、いちいち何をするにも形式張っている。
呼ばれた部屋に行くと聖王陛下はまだ来ていなかったが、直ぐに神聖軍主アゼディムと入ってきた。聖王陛下は主に白っぽい刺繍が沢山された服を着ている感じでアゼディムは黒の軍服を着ている。
俺は上着が脛まである神官服で、その日その日で色やデザインが違う。今日は青色の服に橙色の刺繍が入っている。何か意図を感じてしまう。誰がこれ決めてるんだ?
「今日はその服で会いに行ってくるといいですよ。」
ロアートシュエが俺の格好を見て早々にそう言った。
「これ決めてるの聖王陛下?」
「はい、急だったのでそれしかなくて……。やはり上が青、下に行くほど橙色に変化する生地を作らせて、刺繍は銀色に、」
「しなくていいから!」
何考えてるんだ!
そうですかぁと残念そうにしている。
「昨夜の報告ではそれは仲睦まじく町中を抱き上げられて帰ってきたそうではないですか。良かったですね。お話はできましたか?」
いや、確かにそうだけど!仲睦まじかったわけではない!
朝食は日当たりのいいテラスだった。風もなく少しヒンヤリとはするが気持ちのいい朝だった。もう少ししたら気温も下がり冬に向けて寒くなるのだろう。
昨日の夜は聖王陛下が言う通り、町中を抱っこのまま帰ってきた。
俺が低空飛行でと言ったら、本当にずっと低空飛行でクオラジュは帰ったのだ。町中では降ろせと言ったのに飛んだ方が早いと言い、噂話に一役買えと降ろしてくれなかった。
「降ろせってっ!恥ずかしーだろ!?」
「今更なにを?どうせなら私といい噂になりましょう。」
「いや、お前ホミィセナとの噂を消したいだけだろ!?」
「まぁまぁ。」
ずっとこの調子で言い合いながら帰ってきたのに、何故それが仲睦まじい話になっているのか。それともわざとか?
夜になり店も閉まり人通りは少なくなってはいたが、夜の店が開いているせいかそれなりに通行人はいて注目を集めていたとは思う。
早速朝からこの話題から始まるのかと疲れてきた。
俺はムッツリと出てきたオムレツを食べた。基本がパン食のこの世界。出てくる食事は西洋風だ。
別に和食好きではなかったが味噌汁にご飯、緑茶、海苔、納豆……ないものねだりをしてしまう。世界を旅したらどこかにあるんだろうか。
美味しいんだけどね、ここの食事も。
「クオラジュが感情むき出しでいる姿だったとか…。本当に珍しいことなのですよ。」
「俺にはクオラジュの性格が把握できねーけどな。」
「基本は人と距離を置きますね。」
距離?いや、大概触れてきてる気がするけどな?昨日も考えてみればずっと抱っこだった。
もうクオラジュのキャラについては深く考えるまい。
「そう言えば、この服で会いに行けってさっき言ってたけど、俺の今日の予定は使者達の案内だよな?」
俺は仕事はきっちりやりたい派だ。サボりも手抜きも好きじゃない。
「そちらはフィーサーラに任せます。」
なので顔を出す必要はないと言われた。
「アオガを連れて行け。」
それまで静かに食べていたアゼディムが手を止めて、訓練が終わったのでアオガを連れて行くように言ってきた。
アオガは天空白露に戻った後、俺の護衛としての任務を全う出来るようにと、神聖軍の方で特別訓練を受けることになった。
元々鍛えているし、神聖力も天上人並みなので、直ぐに済むと言ってアゼディムに引っ張られていったのだ。
アオガはちゃんと訓練中も給金払ってくれと念押ししていった。
「もう終わったのか?」
「心構え程度で済んだようだ。」
実地訓練的なのは必要なかったってことかな?
「必ずクオラジュかアオガを側につけておくようにして下さい。」
穏やかにそう告げる聖王陛下はいつもの通り穏やかな微笑みを浮かべていたが、金緑石の瞳は真剣味を帯びていてツビィロランはゆっくり頷き返した。
朝食を終えてツビィロランが退室した後、全ての食器が片付けられて、食後の紅茶を飲みながらロアートシュエはふぅむと考える。
実はロアートシュエは見に行っていた。
なんとも珍しい光景だとアゼディムが報告してきたので、こっそり馬車で向かった。何故馬車にしたかというと、羽を出すと神聖力でクオラジュに見つかるからだ。
二人の目的地は聖王宮殿なので、こちらから出向けばちゃんと見ることが出来るとふんで急ぎ出てみた。
ゆっくり飛行していたクオラジュのおかげで直ぐに見つけることが出来た。
ツビィロランを抱っこしたクオラジュは、楽しそうに笑っていた。
いつも薄っすらと作り笑いしかしないのに、普通に笑い、時には意地悪に揶揄いながらツビィロランと戯れていた。
「脈あり。」
「…………。」
一緒について来たアゼディムが呆れていた。
「思い切って罠を張って良かったですねぇ。」
神仙国の使者達の意図は未だよく分からないが、護衛を大量につけてツビィロランを案内役にした。密かにアゼディムも付ける徹底ぶりに、そこまでするならこんな危険な罠は止めろとアゼディムから止められたのだが、天空白露の中なら自分が優位なのだからと押し通した。
クオラジュは用心深い。
生半可な呼び出しには応じないので、ツビィロランを餌にするしかなかった。
劇場の個室ではフィーサーラに襲われそうになったらしいが、クオラジュが近付いてきたのを確認してアゼディムは隠れていた。
「あの二人を合わせてどうするつもりだ?」
ロアートシュエは金緑石色の瞳を見開いた。
「理解していなかったのですね。いいですか、今現存する天上人の中で、一番次の聖王に相応しいのはクオラジュなのですよ。」
「確かに神聖力の強さや王という責任を考えると、クオラジュの能力は申し分ない。過去一かもしれない。」
そうなのですよ、とロアートシュエは笑う。
「私が聖王に就くことにしたのは、私達が消してしまった青の一族を蘇らせるため。償いをしたいのです。最後に私に頼まれたあの方のためにも、私はクオラジュに聖王の地位を譲渡し、彼が受け取るべきだった未来を戻してあげたいのです。……余計なお世話と言われそうですが。」
その為にも予言の神子ツビィロランの相手はクオラジュでなければならない。
「いや、そこまでやらなくても…。」
「正直なところ、テトゥーミでは不安ですし、フィーサーラでは欲が強すぎて聖王には向かないかと…。」
次期聖王は三翼主から決まる。最も相応しい者というあやふやな取り決めしかなく、毎回その決め方は変わってくるのだが、だいたいは前聖王の推薦があり、他の翼主が合意する形になる。
こうと決めたらとにかくやり通そうとする頑固なロアートシュエに、アゼディムはいつも付き合わされている。
仕方ないなとアゼディムはロアートシュエの頬を撫でた。
「分かった。そのつもりで動こう。」
その返事に、ロアートシュエは嬉しそうに笑った。
クオラジュは自分の屋敷にいる。
そう聖王陛下から聞き、ツビィロランは宮殿の出口に向けて歩いていた。一人ではない。神聖軍の護衛が常に二人付いている。
実に窮屈だった。
ツビィロランの立ち位置は微妙だ。予言の神子として扱われてはいるが、それをよく思っていない者も多い。
天空白露が再度空に浮かぶなり、今まで以上に神聖力に溢れれば、おそらくツビィロランへ集まった疑心は消える。分かってはいるがやりたくはない。空に浮かばせる方法は分からないが、神聖力を増やすことは可能だ。透金英の親樹にたっぷりと神聖力を与えればいいのだから簡単ではある。
だがそれは出来ない。
クオラジュの話を聞けば、更に出来ないなと思った。透金英の親樹はスペリトトと繋がっている。そしてシュネイシロ神を蘇らせようとしている。
もし透金英の親樹が元気になって、ツビィロランの中にシュネイシロ神が復活すれば?
そうなると今中にいる津々木学はどうなるのか。まさか消滅?
ブルリとツビィロランは身体を震わせた。
「上着を取りに行かせましょうか?」
震えたことを寒いからだと勘違いした護衛が声を掛けてくれた。神聖軍の人達はツビィロランに好意的な人達が多い。
「あ、んにゃ、大丈夫。このまま行くよ。」
聖王宮殿は広い。一回自室に戻るのも面倒で、聖王陛下と朝食を取った後、真っ直ぐ出口に向かっていた。
また透金英の親樹について考える。
あの巨木を元気にするわけにはいかないが、かといって枯れさせるわけにもいかない。あの樹は唯一スペリトトと繋がりがある樹だ。
スペリトトは津々木学の世界への行き方を知っているのでは無いかと考えている。なのでスペリトトからそれを聞き出せないだろうか。
その為には、自分一人では知識が足りないし、どう実行すればいいのか分からない。
なので昨日クオラジュに手伝って欲しいと提案した。
ツビィロラン的には提案になるのだが、クオラジュ側からすると半強制だった。
「………………っ!…………、ね?」
進んで行くと、何やら前方で話し込んでいる二人がいた。
あのキラキラしい翡翠色の髪はテトゥーミだ。そしてテトゥーミより頭ひとつ分背の高い男は、久しぶりに見るトステニロスだった。
「分かった。分かった。ごめんって。」
「ひどいよっ!僕も一緒に連れてって欲しかったのにっ!」
「え?お前、そんなにクオラジュにこき使われたかったのか?」
「違いますっ!」
テトゥーミはどうやらトステニロス達と一緒に行きたかったらしい。置いてけぼり食らったのか。
「おはよう。」
とりあえず挨拶をして近くにいることを教えよう。
トステニロスは軽く笑ってツビィロランの方を見た。どこか苦笑気味だ。
「おはよう。今からクオラジュところか?」
「そう。いる?」
トステニロスはいるよと返事をした。手には紙の束やら巻物やらを抱えている。
「何してんの?」
「翼主の仕事が溜まっていると聞いて取りに来たんだ。今部下達に選別して運ばせてる。」
といってもほぼ全部だな!と軽やかに笑っている。
トステニロスはクオラジュと一緒にいる人物にしては明るい。なんでトステニロスだけクオラジュにくっついて行ったのか疑問だった。クオラジュの性格では他人とつるむ感じがしなかったのに、実際はトステニロスと一緒に動いている。
俺がトステニロスの顔を見上げていると、人の良い笑顔で首を傾げて見返してきた。
「なんだ?あ、クオラジュなら透金英の親樹の方に行ってるから、そっち行った方がいいよ。」
なんかこう、優しいお兄さんといった感じの人だよな。頼り甲斐があるのか?あのクオラジュもトステニロスなら頼るのか?
なんだかとても気になった。
トステニロスとテトゥーミはまだ書類の整理があるらしく、俺は護衛二人を連れて透金英の親樹のもとへ向かうことにした。
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