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9 『浮かんだ花と気まぐれな恋』
しおりを挟むまた金の泰子に怒られてしまった……。
しょんぼりとしながら部屋に帰っていると、一人の使用人が声を掛けて来た。
緑の泰子が生花を仕入れたら教えて欲しいと頼んでいた子だ。
午後から使用する分で入ったと言われて、どこの部屋に運ぶかを確認する。
部屋の位置を確認して、ジェセーゼ兄上の名前で隣の部屋をキープした。
ついでにお駄賃を少しあげる。
今は昼食時。
おそらく食事に行っているだろうと予測してジェセーゼ兄上を探した。
いたいた。
「ジェセーゼ兄上!」
突然声を掛けられて兄上の身体はぴょんと飛び跳ねた。
小柄な身体がピャッと縮み、猫目が見開いて本当の猫みたいだ。
「ジオーネルか!びっくりするじゃないか!」
びっくりし過ぎて顔を赤らめているが、無視してついでに持って来た昼食を手早く食べ始める。
兄上が一人で食べててくれて助かった。
「兄上、急いで食べて下さい。行きますよ!」
「え?何に?」
「後で説明します。」
有無を言わせず急かして食事を済ませ、キープした修練棟の部屋へ直行した。
キープした部屋には用意した生花用の花と、適当に頼んだ幾つかの花瓶や水盤、鋏や手縫い、水を入れた桶等、先ほどの使用人に頼んでいたのだが、ちゃんと既に用意してくれていた。
奮発してお小遣いをあげたのが効いたらしい。
畳を濡らさない様に敷布を敷き、道具を並べてスタンバイオーケー!
廊下に向かって開いた障子から、ひょこっと顔を出して緑の泰子が来るのを待った。
「今から何するんだ?」
暇そうにジェセーゼ兄上は花を切り出した。
「緑の泰子を待ちます。」
私の言葉に大きくパチンッと音が鳴る。
「み、み、み、緑の泰子を!?なぜ!?」
その様子に確信する。
ゲーム上、主人公が友情エンドを迎えると緑の泰子はジェセーゼ兄上と番う。
と言う事は少なからず二人には好意が有るのでは、と考えた。
「午後から緑の泰子が花を生けに来ます。なので兄上はここを通り過ぎる緑の泰子を捕まえて、仲良くなってもらいます!」
緑の泰子は植物を育てるのが好きだ。
自宅では花を育て庭園を作っている。
鮮やかな緑の長髪に翡翠の瞳は精霊力の高さを表している。顔は勿論、攻略対象者なので美形だ。金の泰子は睫毛長くて美しカッコいいだけど、緑の泰子は男らしいカッコいいだと思う。
話し方はフレンドリーで柔和な感じだけど、底の知れない思慮深さが目から感じられて、人間観察されてそうで私は苦手だ。
青の泰子とは違った意味で苦手。
頭いい人って苦手。
いや、金の泰子だって頭いいけどね!
「兄上には緑の泰子がお似合いです!兄上が緑泰子と仲良くなれば、少なくとも黒の巫女は緑の泰子と仲良くなりません。私的にはそれが助けになります!」
説明してる間に、パチンパチンと花が切られていく。
「兄上、花切り過ぎです。」
「う、う、う、煩いな!そんな急に仲良くなれと言われても無理だぞ!」
廊下を見つめたまま、更に念を押しておく。
「ええ~少し前までは四泰子と一緒にご飯食べたりしてたくせに………。大丈夫ですよ、ここで花を生けていれば話が進みます。」
後ろを振り向けば、水盆に綺麗に花が生けられていた。
「上手いですね……。」
後ろからパッチンパッチン聞こえるので、どれだけ失敗しているのかと思えば綺麗に花が生けられていた。
恐ろしや兄上。
「何してるんですか。適当に花散らかしといて下さい。」
「えぇぇ~~!?」
『浮かんだ花と気まぐれな恋』
緑の泰子のイベントだ。主人公こと黒の巫女は自然に触れ合いたいと、生花の練習をしていたが沢山失敗してしまう。可哀想で悲しくなったら緑の泰子がやってくる。
花の精達が巫女が悲しんでると言っていると言って。
緑の泰子が器に花手水を作ってくれる。色鮮やかな花に笑顔になると、優しく微笑んでくれる。
スチルは花手水を一緒に作って微笑むシーン。
金チケットでは花を髪に挿した主人公の手を取って、指にキスするシーン。さりげなく泰子の手が服に入っている?
だったはず。
ジェセーゼ兄上が生けた花は隣の部屋に移して、花瓶を持って来て適当に枝と花を突っ込む。花を千切ってポイポイと散らす。
「これでよし!」
「えぇ!?何が!?」
廊下を確認する。まだ来ない。
「これが手伝って欲しい事か?」
兄上もひょこっと隣に顔を出して聞いてきた。
「そうです。緑の泰子が好きな兄上にしか出来ません。私は緑の泰子は苦手ですのでやりたくありません。」
「なにぃ!?何を言う!金の泰子よりよっぽど良いではないか!優しいぞ!?」
「うーん、私には優しくありませんし、話し方は穏やかそうですけど、穏やかに見えるだけって言うか……。」
「それを言うなら金の泰子は真面目で仏頂面でお前の事何にも見てない様な奴ではないか!」
ジェセーゼ兄上は金の泰子嫌いなの?
そうこう己の好きな人話をしていると、廊下の角に人影が現れた。
「はっ!来ました!兄上よろしくお願いします!」
「えぇ!?」
部屋の中に兄上を引っ張り花瓶の前に座らせる。
私は隣の部屋で待機だ!
ささっと移動して襖を閉めた。
「おや、ジェセーゼじゃないか。」
「ぁ、うぁ緑の泰子………。」
兄上は緊張し過ぎて声が出ない様だ。
発破かけ過ぎただろうか。
そっと細く襖を開ける。
ちょうど緑の泰子の背中が見えて、奥にジェセーゼ兄上が座る位置となっていた。
「花の精が騒がしかったんだが、君が居たからかな?」
「花の精が、ですか?それは……。」
ジオーネルが千切ったせいではと言いたいだろうが、言えないのでモゴモゴと口籠る。
「上手く出来なかった?」
兄上は完璧に生けた。私が隠したけど。でも今二人の間にあるのは滅茶苦茶に花をさされた花瓶と散らかった花達。
兄上からすれば、とても恥ずかしい状況だろう。
かぁーと顔を赤くして俯いた。
緑の泰子は水盆を手元に置くと、桶から水を移した。
散らかった花を水の中に入れていく。
桃色と薄紫の小花を一面に浮かべ、赤と橙の大きな花を少し間隔を開けて入れた。白のたんぽぽの様な花を大きな花の周りに幾つか入れて、色鮮やかな緑の枝付き葉っぱを3本端に入れる。あっという間に花手水を作った。
少し身体がずれて緑の泰子の手元が見えていたので、イベントのことも忘れて見惚れてしまった。
「凄い!」
ジェセーゼ兄上は頬を染めて花手水に見入っていた。前に手を付いて前屈みになっている。
「ふふ、そうか?割と適当だぞ?」
緑の泰子はジェセーゼ兄上の隣に移動して、もう一つ水盆に水を入れた。
「緑の花も綺麗だよ。一緒にやってみようか。」
急接近して来た緑の泰子に、ジェセーゼ兄上は固まっていた。
頑張れ兄上!
花が騒いでいた。
クスクス、キャーキャー。
近くにとても楽しいモノがあるのかもしれない。
感謝祭に向けて花を生けて欲しいと頼まれた。
まだ一ヶ月以上あるが花は早めに準備を進めなければならない。
当日にちょうど良く咲いてくれないと困るからだ。
構想を練るために今日は午後から花を生ける事にしていた。
精霊達の浮かれた様な騒ぎに導かれながら廊下を進むと、隣の部屋にジェセーゼがいた。
花を生けていた様だが、彼らしくもなく無惨な姿の花達。
これだけ花を手折れば花の精は怒るはずなのに、楽しそうな精霊達に疑問が起こった。
真っ赤な顔で花瓶を隠そうとするジェセーゼに笑い掛けながら話しかけ、さりげなく近付いていく。
一緒に花手水を作ろうと手を握れば、ピクリと震えて、まるで小動物のようだ。
緑がかった白の花を浮かべて笑いかける。
「何色が似合うと思う?」
チラリと見上げた大きな猫目が困った様に瞬いた。
背を覆う様に被さっているので、身動きが出来ずモジモジとしている。
おずおずと桃色の花を手に取った。
大きな物と小さな物をちょんちょんと置いていく。
「可愛いね。」
頭を撫でて褒めるとかぁーと真っ赤になった。
ホントに可愛い。
後ろで高く結んだ白髪は緩く波打ち柔らかい。
金の泰子に付き合って銀玲探しを始めて、ジェセーゼが有力候補だった。
白家の正妻の子。白の巫女を排出する血筋。
ジオーネルも白家だが、平民で愛人の子だった。性格も荒く執念い。
誰もが銀玲はジェセーゼではと思っただろう。
金の泰子もその可能性を考えてよく話し掛けていた。
ジェセーゼは可愛い。
大きな吊り目。小動物を思わせる動きと、物事に一生懸命になる性格。
弟のジオーネルの事も気にしてよく話し掛けていた。空回りが多かったが。
金の泰子とは争いたくないから、ジェセーゼを伴侶にする事は諦めていたが……。
最近、ジェセーゼの歌舞音曲は歌では無いのではと思う様になった。
白の巫女達は翼と違って誰かと稽古を一緒にする事がない。
ほぼ一人で人知れず修練を積んでいる様に思う。
歌の稽古をする者はこの修練棟ではなく、反対の棟になっている。
此方の棟は畳張りだが、向こうは板張りで立って練習する様になっている。
歌を歌う、踊る、絵を描くと言う板張りの方がいい時はあっちにいく。
勿論ジェセーゼも向こう側の棟でも見かけるのだが、主に体幹を鍛える練習や柔軟などをやっている。
歌も踊りもやらない。
歌を歌わないから銀玲なのではと思われたのだが、踊りも踊っていないのだ。
踊りの可能性もあるだろう?
確認する方法は一つ。
「ジェセーゼは何故桃色の花を入れたの?」
「え!?」
白の柔らかい髪を梳きながら、顔を近付けていく。
おでこを付けて目を覗き込む。
ハクハクと動く口をゆっくりと塞いだ。
ジェセーゼの目が閉じてしまったが、気にせず舌を入れ蹂躙していく。
歯をなぞり舌を絡めて上顎を擦る。
下顎に親指を乗せて力を入れ、口をもっと開けさせた。
深く舌を潜り込ませ、態とグチュグチュと音を立ててジェセーゼの羞恥心を煽っていく。
「ん~~~~ん、ん!」
真っ赤な顔をして手で押して離れようとするが、小柄な身体では全く抵抗になっていない。
前合せの衿(えり)の間から手を潜ませ、遠慮なく乳首を擦った。
ビクリと震えて押し返そうとしていた手が縮こまる。キュっと摘むとプルプルと小刻みに震え出し、感度が高い事が伺えた。
涙を湛えた目がそっと開いた。
赤くなった眦が色っぽい。
乳首を摘まれたまま動かないので、衝撃と混乱、そして次への不安で恐る恐る開けたのだろう。
ーーー桃色ーーー
黒の瞳がほんのり桃色に変わっていた。
唇を離し服の中から手を抜く。
桃色の白の巫女は桃華。
銀玲ではなかった事にほくそ笑んだ。
自分の希望通りの答え合わせに、満足した。
ジェセーゼはまだ息が整わない。
チラリと隣に続く襖を見ると、細く隙間が開いていた。
ずっと覗いていた人物に何故いるんだと疑問は湧いたが、最近二人で話しているところをみると、何かコソコソとやっているのかも知れない。
もしジオーネルがジェセーゼに迷惑を掛ける様なら、間に入って切り離せばいい。
金チケットより濃ゆいんですが……。
隙間から覗いたはいいが、目が離せず固まってしまった。
怖い。緑の泰子はやっぱり怖い。
ジェセーゼ兄上には申し訳ないが、押し付けて正解だった。
あれは兄上の眼の色を確認していた。
白の巫女は歌舞音曲で眼の色が変わるが、興奮したり瞑想状態に入る時も変わる。興奮と瞑想なんて真逆の様だが、感情が昂ると変色するんだろう。
桃色を確認して無茶苦茶悪い顔して笑った!
そして、道具をそのままにして動けなくなったジェセーゼ兄上を抱っこしたまま出て行ってしまった。
バレてるんだろうな。
そして片付けろと言う事なんだろうな。
怖いからそそくさと片付けた。
それにしても、この天霊花綾の住人は艶事には疎い人多いのに、緑の泰子のあの慣れた様子も怖いな……。
応援ありがとうございます!
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