じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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5 父上のお誘い

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 僕の毎日は朝ごはんをお父様とボロ屋敷で食べて、お昼はマリニさんが作ってくれた昼食を食べて、夕食は本邸の自分の部屋で一人食べるのが日常となった。因みに本邸でお昼を食べてないのに誰も関心がないのか気付いてくれません。
 あ、お勉強はちゃんと空き時間でフブラオ先生にみてもらってるよ?
 まあそんなに頭良くも無いけどね。前世の記憶があるからって別に頭いいわけでもないんだよ~。神童?ないない、なるわけないじゃん~。
 十歳の診断でアルファって言われるような子は僕くらいの年齢からでもすっごく優秀らしいけど、僕ってば平凡なんだよね。これで超低確率でベータ引いたらどうするよ?
 ま、いっか。そん時はお父様に離婚してもらって一緒に暮らそうっと!慰謝料もがっぽり貰わなきゃ!
 いくらアクセミア公爵の実の息子でも、アルファじゃないと公爵位は継げない。もし僕がオメガでこの先二人目以降に子供が出来なくてアルファの後継がいないという状態の場合は、オメガの僕がアルファのお婿さんをとることになるんだって。……あ、アルファのお嫁さんでもいいよ?
 ま、そういうことらしい!
 僕は自分で言うのもなんだけど、アルファ~って感じがしない。
 おかげで周りから舐められまくりだ。コイツはオメガかベータだろうって思われている。使用人達も次期当主にはぺこぺこするだろうけど、そうじゃないんなら無視するんだね。
 別にいいけどね。期待とかされても荷が重いしね。
 
 そうやって日々時間が流れていったある日、お父様が僕に言った。

「明日はここには来たらダメだ。」

 ガーン!

「ど、どうしてぇ~!?」

 泣きそうになった僕にお父様は慌てて手を振った。

「あ、ち、違うんだ。明日は備品の入れ替えがあるからヨフミィがここにいたら何か言われるだろうと思って。」

 あ、なるほど。僕はこっそり抜け出してここに来ている。フブラオ先生以外は誰も僕がボロ屋敷に来ていることを知らないのだ。
 家令とか家令の言いなりになりそうな使用人とかにバレたら僕はここに来られないかもしれない。

「仕方ないですね。」

「あ、あの。明後日、またおいで?待ってるからね。」

 ショボンと俯いたら、お父様は必死で慰めてくれた。その辿々しさが萌えですね!



 そうして次の日ガッカリしながら朝ごはんを食べ終えたら、急に父上から呼び出された。

「今から西の離宮に行こう。」

「……あ、はい。」

 もっと早く言っとけよ!……とは言わないけどね。子供だから直前でいいやって思わないで欲しい。僕にも予定はあるのだから。お父様のところに行くとか行くとか行くとかね!
 そして僕は父上の馬車に乗せられて西の離宮に行った。行ったけどビックリした。

 お、お父様!?

 なんと西の離宮にお父様がいた。
 何で?
 お父様は広い玄関ホールに入ってきた父上と僕に綺麗にお辞儀してみせた。
 
「久しぶりだな、ジュヒィー。たまには本邸に来たらどうだ?」

「お久しぶりでございます、公爵様。」

 話し掛けた父上にお父様は挨拶だけ返していた。父上は何とも言えない顔をしている。

「昔はリーテと呼んでいただろう?」

 お父様はゆっくりと顔を上げたけど返事をしなかった。
 お父様の名前はリウィーテルだからリーテ?愛称なのかな?お父様がオメガと診断されてから婚約したって話だから、子供の頃からの付き合いなんだろう。愛称呼びでもおかしくはないけど、お父様はもうリーテとは呼ばないみたいだ。
 お父様が何も言わないので父上は諦めたようだ。
 無言になってしまった僕達に、家令がスッと前へ出てきた。

「庭園にお茶の用意をしております。」

 いやそこお父様が案内するのでは?
 というか何でお父様がここにいるの?今日はボロ屋敷に備品が届く日じゃなかったの?
 お父様をこっそり見ると、お父様も僕をこっそり見ていた。顔が強張っている。緊張しているようだった。
 お父様はいつも簡素な服を着ている。何回も洗ったような服を着まわしているのに、今は刺繍がいっぱい入ったジャケットと、上品なズボンを着ていた。宝石のついたブローチでタイを留めて、カフスボタンも高そうなのをつけている。
 うーん…。お父様にはちょっと派手すぎると思う。妖精の化身であるお父様にはもっと上品で繊細な宝石が似合うのに。誰のチョイスだよ。しかも服のサイズ合ってなくない?ブカブカな気がする。急いで誰かが用意したんだな、きっと。
 前を歩く父上から僕は少し下がってお父様の隣に並んだ。

「お父様、どうしてここに?」

 お父様は身長の低い僕の為に少し屈んで話してくれた。勿論歩幅もゆっくりにしてくれる。父上と家令なんてスタスタと先に行ってしまっている。

「それが急にこっちに連れてこられてここで待てって……。」

 つまり?父上が西の離宮に行くと言って、それを止めることの出来ない家令は無理矢理お父様を連れて来たと?

「僕が前ここに来てコッソリ覗き見した時はカヅレン家のオメガっていう女性がお茶飲んでましたよ。」

「ああ……。」

 お父様の顔が曇った。こりゃいるんだな。あの女が。まるで自分の家かのようにあのオメガ女はティータイムをしていた。
 今何してるんだろう?
 と思ったら僕たちがティータイムする場所にいた。

「リウィーテル様、こちらで御座います。」

 お前の方が公爵夫人か?といった顔で出迎えた。父上もちょっと怪訝な顔をしている。

「カヅレン嬢、いつもジュヒィーの世話を有難う。何か不便はないだろうか?」

 え?お父様のお世話?世話してないけど!?
 んじゃあ、あのオメガ女はお父様の侍女ってこと?もしかして侍女が主人の代わりに優雅に暮らしてるの?
 父上っ!気付けっ!

「夫人にはとてもよくしていただいておりますわぁ。」

 何故かオメガ女は父上の腕に縋り付いて上目遣いに秋波を送っている。それを見てお父様の顔が無表情になった。
 僕はお父様の手を繋ぎギュと握って慰めた。あんな女よりお父様の方が美人なんだからな!
 
 僕達は三人でテーブルについてお茶を飲んだわけだけど、結果としてつまらなかった。
 お父様は僕と二人の時はポツポツと喋ってくれるけど、父上がいると一言も喋らないのだ。父上が何か話しかけても頷くか、「はい」か「いいえ」しか言わない。

「どうやら時間を開け過ぎたようだな。これからは度々ここに来るようにしよう。」

 父上が爆弾発言をした。
 それってつまりその度にお父様はここに無理矢理連れてこられるってことだよね?
 お父様は最後には頷くことさえしなかった。

 帰りの馬車の中で僕は父上に質問された。

「ヨフミィはジュヒィーと喋っていたようだな。頻繁に会いに来てるのか?」

 僕は何と返答しようかと悩んだ。

「僕はここには来ていません。」

「…?だが仲良さそうに見えたが?」

「………ここ以外で会ってるんです。」

「庭園か?」

 僕はプルプルと首を振った。黙ってしまった僕に父上は困った顔をしていた。まぁ、この人も別の人を好きになってしまったけど、お父様を嫌ってはいなさそうなんだよね。好きではないけど、冷遇もあの家令の所為なのかもしれない。

「今度西の離宮に行く時は内緒で行って下さい。」

 これはヒントだよ。

「内緒で?しかし訪問する前に伺いを立てて日時を決めるのは礼儀なんだぞ?例え夫婦間でも…、」

「それは置いといて、内緒で、こっそり、外からじっくり、見て下さい!あ、家令には内緒です。」

 家令に気付かれたら兎に角ダメだ。

「……………そうか。」

 父上の返事にコックリと僕は頷いた。
 お父様は今頃どうしてるだろう?身包み剥がされて放り出されてないといいけど。



 窓の外を見ているヨフミィをリウィーテルはジックリと観察していた。
 息子という認識はあったが、今まであまり話したことがなかった。ほぼ屋敷の使用人に任せっきりだったし、ジュヒィーは育児に関して何も言わないので家令に押し付けてしまっていたと思う。
 私の幼少期と同様に三歳から家庭教師をつけたが、家令が言うには我儘で精神的に幼いいう報告を受けていた。
 家令が自分の家門に優秀な者がいると勧めてきたが、ジュヒィーの侍女に同門のカヅレン嬢を付けてしまった為、別の家門からフブラオ・バハルジィを呼ぶことにした。ベータだが博識で性格も温厚だ。ヨフミィが癇癪を起こしたり、学問についていけなくても忍耐強く教え導いてくれるだろうと判断し選んだ。
 アクセミア公爵家の家臣となる家門は幅広く数が多い。その為家臣内でも派閥があるので、それぞれを上手に手綱を握らなければならない。
 
 今までジュヒィーとヨフミィに交流があったという報告はなかった。てっきり私の幼少期のようにこの親子も赤の他人のように過ごしているのだろうと思っていたのだが、二人がコソコソと何か喋っている姿を見ることができた。
 テーブルで椅子についている時は無言なのに、私が他の人間とやり取りをしている間は二人で喋っているのだ。
 時々クスッと目を見合わせて笑う姿は、昔自分が欲しかったもののような気がしてくる。
 あれが本当の親子なのではないだろうか。
 先代公爵夫妻はアルファとオメガの夫婦ではあったが、自分達と同じように政略結婚だった。
 番にはならず、子供を一人作るとさっさと離婚してお互い別々に番を作ってしまった。
 父は平民の娘と、母は別の貴族家に嫁ぎ直し、リウィーテル自身母親とは数回しか会ったことがない。
 リウィーテルは幼い頃から優秀で間違いなくアルファだと言われていた。だから二人目もいない。
 別にそれでもいいと思っていた。貴族の家なんてそんなものだろうと。

 少しだけ聞こえてきた笑い声にハッとした。
 お父様と呼ぶヨフミィの声は高く弾んでいたし、それに笑い掛けるジュヒィーの顔は優しい笑顔だった。

 本邸に着いてヨフミィと別れると、ヨフミィはいつもの通り固い挨拶をして走り去ってしまった。
 こちらを振り向きもしない。勿論笑顔もない。
 
「…………。」

 親子なのに私だけ部外者のようだった。
 執務室に戻り机に座ると、ヨフミィが飾ってくれた花がなくなっていた。

「ここにあった花は片付けたのか?」

 お茶を持ってきたメイドに尋ねると、彼女は机の上を見てから答えた。

「枯れ始めているから下げるようにと命じられました。」

 枯れ始めていただろうか?今朝見た時はまだ咲いていたようだったのに。蕾が開こうとしているものもあったはずなのに、そんなにすぐに花とはダメになるものなのか?

「誰が命じたんだ?」

「エンダス様で御座います。」

 エンダスとは家令の名前だ。

「そうか。下がっていい。」

 メイドは頭を下げて出て行った。
 先程馬車の中でヨフミィは家令にも内緒でと念を押したのが妙に気になった。



 ヨフミィは父上と別れると急いで外に向かった。
 本邸からボロ屋敷までは割と近い。西の離宮の方がかなり離れている。つまりボロ屋敷から西の離宮も離れているということだ。
 はぁはぁ言いながらボロ屋敷に来ると、既に荷物が運び込まれて誰もいなかった。玄関は開け放しでかなり不用心だ。
 一応備品の入れ替えというのは本当だったらしい。お父様がいない間にとでも思ったんだろうか。

「お父様ぁーー!」

 呼んだが返事がない。
 今日はマリニさんにはお休みしてもらった。夫のフブラオ先生にも暇を出した。二人でゆっくりして貰いたかったからだ。

「おとうさまぁ~~っ!」

 いない。まだ帰ってきてないの?心配だ。
 僕は西の離宮まで行くことにした。ボロ屋敷を出て西の離宮に向かう道をトコトコと歩く。五歳時の歩行ではかなり大変だけど、行けないことはない。時間がかかるだけだ。
 グゥとお腹がなる。そういえばお昼ご飯はマリニさんが昨日のうちに日持ちするものを用意してくれていた。少しでも持って出てくればよかった。慌て過ぎて水も飲んでいない。
 西の離宮でお茶とお菓子は出たけど、僕とお父様は手をつけなかった。なんとなく、嫌だったからだ。

 ずっとテクテクと歩いて行くと、流石に汗をかいてくる。どのくらい歩いただろう?三十分以上は歩いた気がする。
 ボロ屋敷周りの森はとっくの昔に抜けて、今は草原みたいに広い平地に真っ直ぐ続く道を歩いていた。整地されて植木が並んでいるので敷地内と認識出来るけど、これがなければ平原だ。さっき父上と通った馬車の轍の跡がある。
 
「ん?」

 あっ、あの影は!

「お父様ーーー!」

 僕は疲れも忘れて必死に叫んだ。
 うわぁーん、お父様だぁ~~~!感激してしまう。だって果てしなく続くように思えたんだもん。

「え。ヨフミィ?何でここに?」

 お父様は西の離宮から歩いて帰ってきていた。僕を見つけて慌てて走って来てくれた。感動の再会だ!

「えーん、歩いたら遠いよぉ~!」

 僕は前世大人の記憶はあるけど精神年齢はしっかり五歳だ。寂しかったぁ~!

「……そんな、ヨフミィは公爵様と馬車で帰ったよね?」

「帰ってすぐにボロ屋敷に行ったらお父様がいないから西の離宮に歩いたらお父様に会えると思った。」

 泣きながら説明すると、お父様は優しく抱っこしてくれた。

「そうか…。だけど危ないから次からは屋敷で待ってるんだよ?」

 お父様の笑顔が眩しい。

「あい………。」
 
 お父様は抱っこで歩こうとしたけど、僕は歩いて来た道の距離を考えて降りることにした。その代わり手を繋いで歌を歌いながら帰るのだ!

「えへへ~、お散歩だねぇ。」

「ふふふ、ちょっと大変だけどね。」

 二人で笑いながらボロ屋敷に帰って行った。









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