じゃあっ!僕がお父様を幸せにします!

黄金 

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15 王宮へゴー!

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 学院生活はなかなか快適だ。
 僕のプチ拉致事件のせいで常にソヴィーシャとリュハナ、ラニラルの三人が側にいて世話を焼いてくれるからだ。
 それに登校しても特にやることがない。本当に貴族の子供はお茶会をやったり遊んでばかりいる。勉強は家戻ってから隠れてやるのが基本のようだ。もしかして僕は勉強してませんけどこんなに良い点数を取れますよアピールをする為なのかな?

 はてさてそんなある日、王宮から招待状が届いた。差出人はレジュノ・リクディーバル王子だ。王太子の息子。金髪巻毛に桃色の瞳をしていた生意気そうな王子様だ。
 王族の印章を見て父上達が難しい顔をしていた。
 内容は学院のお茶会で話せなかったから、是非王宮で会って話そうというものだった。

「なんで僕に?」

 めんどくさー。

「………学院に通いたいと願ったそうだが許可が降りなかったからだろう。」

「え?なんでダメなんですか?」

 父上の説明では王族は十歳の判定を受けてから進路を決めるらしい。でもベータしか学院には通えないそうだ。それなりの理由があればアルファでも通えるんだとか。

「それなりの理由?」

「王族は運命を求めるからな。」

 うんめー?

「運命ってアルファとオメガの運命の番というやつですか?そうじゃないとダメなんですか?」

「そういうわけではないが、その方が能力の高いアルファを産むと信じられている。」

 運命の番ってそんな効果があるんだ?

「現在レジュノ王子は八歳だ。まだどの性別になるのか判断出来ないが、現段階では学院に通えない。」

 それはそれで可哀想だな。僕が側近候補ではあるけど学友三人をつけられたように、レジュノ王子にはいないんだろうか。
 まぁいないからお誘いが来てるのか。

「どっちにしろ王家の印章があるから断れん。」

 そうなんだ。
 うーん、と考える。レジュノ王子の両親は主人公と攻略対象者だ。たぶんね。そして主人公は王宮メイドとして数々の攻略対象者を落としていった。つまり舞台は王宮にある!

「あ、行ってみようかなと思います。」

 軽く返事をすると、それまで大人しく成り行きを見守っていた全員が、ええ!?と驚いた。

「……これには私とジュヒィーの名前も書いてある。それからヨフミィの学友達もと。」

 全員?

「お父様は欠席した方がよくありませんか?」

 この前のお茶会でも王太子一家を見て震えていた。お父様は困った顔をしていた。

「ううん、行くよ。ヨフミィだけ行かせるわけにはいかないもん。」

「……ジュヒィー、私も行くぞ?」

 父上の声はお父様には届かなかった。お父様は僕の手を握り決意を固めている途中だからね。

「私はよく父上について騎士団の訓練に行ったりするから慣れてるぞ。」

「あ、僕もお父様の仕事の手伝いでついて行くから安心してよ。」

「俺もいいんでしょうか。」

 ソヴィーシャとリュハナは王宮に入ったことがあるらしい。貴族家の子供だし、親がそこで働いてるしね。平民のラニラルだけいいのかと尋ねていた。不安なのかと思ったら割と表情は普通だった。

「それについてだが、近々バハルジィ子爵家をフブラオに継承してもらう。」

 フブラオ先生は静かに頭を下げた。え?貴族になるの?どういうこと?

「実は兄が継いでいたのですが、最近粛清されまして…。」

 あ、家令一派の仲間が元家だったってことか。

「爵位を与えて領地も周辺の小さなものをいくつか纏めて合算する。ラニラルもこれからはヨフミィの学友として側にいやすくなるだろう。それから領地の拡大に伴いバハルジィ家を子爵から伯爵に陞爵しょうしゃくする。」

「お~。」

 それは助かるぅ!だって僕の細かい予定とか今はラニラルが調整してくれている。でも伯爵子息をこき使っていいのかな?

「これからもっと頑張りますね。」

 ラニラルは僕の顔を見て満面の笑顔だ。こき使っていいらしい…。
 王宮に行くのはバハルジィ家の継承が済んでからになった。爵位は元々アクセミア公爵家が持っていたものを与えるので、国王には文書と許可申請を出すだけでいいらしい。もしバハルジィ家が爵位返還をする時は、アクセミア公爵家に戻すことになる。
 名前もそのままバハルジィを残してあった。

「ふふふ、ラニラル・バハルジィ伯爵子息になるね!」

 おめでとうと言ったらラニラルは嬉しそうにぺこりと頭を下げた。



 アクセミア公爵一家とフブラオはまだ話があるというので、ソヴィーシャとリュハナ、ラニラルは先に部屋から退室した。
 三人の仲は悪くない。ヨフミィを中心にそれぞれの得意分野で動いている。

「ラニラルは今まで受けてた授業どうするんだ?」
 
 ソヴィーシャがラニラルに尋ねた。
 ラニラルは今まで平民だった。平民と貴族では収入が格段に違う。階級が一番下と言われる男爵家でも雲泥の差なのに、それが伯爵家。しかも領地をいくつか統合して管理することになるのだという。
 もう今までのように学費を気にして授業を詰め込む必要がない。学院の学費は一律なので、今までは受けれるだけ授業を入れていた。いつ辞めてもいいようにと急いで勉学に時間を割いていた。
 だがお金の心配がなくなるなら、授業を詰め込む必要がなくなる。
 そう思っての質問だった。

「……収入に目処が付いたら減らすと思います。ヨフミィ様の補佐に力を入れたいので。」

「忠義だなぁ。」

「ソヴィーシャ様は違うのですか?」

「……父上が言われるからというのが強い。だが父上は公爵閣下に忠誠を誓っている。だから私もそれに従うだけだ。」

 ヨフミィに忠誠を誓うわけではない。アクセミア公爵に誓うとソヴィーシャは言っているのだ。

「僕はヨフミィ様と仲良くなりたいよ。先々も一緒にやりたいこと出来たし。」

 ソヴィーシャもラニラルも領地に放牧場を建設していることは聞いている。リュハナが獣医を務めてみせると言ったことも聞いて知っていた。

「本気か?」

 ソヴィーシャは牛だぞ?と嫌な顔をする。

「本気だけど?」

 リュハナはそれに真っ向から返事をした。
 
「それぞれの気持ちは違いますが、ヨフミィ様に仕えるのは同じです。」

 ラニラルが言うとソヴィーシャとリュハナの緊張は解れた。

「それもそうだな。おやすみ。」

 ソヴィーシャが手を上げて立ち去ると、リュハナも手を上げて自分の部屋へ戻って行った。
 ラニラルは二人を見送り、口元の笑みを深くして自分も部屋へと入っていった。



 王宮に行くにはこうも飾り立てる必要があるのか…!
 態々新しい服を用意して行くのが普通なのだと言われ、急ぎで服を仕立て、王宮とのやり取りを経て訪れたのは、手紙が最初に来てから三週間後だった。
 お役所仕事か!?とつっこみたい。

「はぁ~招待されたのに時間かかるねぇ。」

 僕の愚痴に父上が答えてくれた。

「初めての入城は審査が厳しいんだ。」

 だからって向こうから呼んだのに?相手が王族なら仕方ないのかなぁと諦める。
 父上は普段から王宮に仕事に来ているらしいけど、今日の公務はお休みだ。そして王太子一家の招待に応じている。父上の身元はしっかりしているし、その家族である僕達もそう長くかからなかった。問題は元平民のラニラルの調査だったらしい。でも僕がラニラルが入れないなら行かないと言ったら、急いで調査を行い許可が降りた。
 だからっ、招待しておいて許可とか何様だよ!?と言いたい。

「申し訳ありません。」

 僕の隣に座っていたラニラルが謝った。今日は公爵家の馬車で来ていた。

「ラニラルの所為じゃないよ。」

 笑って慰める僕に、ラニラルはニコリと笑う。ラニラルは度胸があるのか割と平然としていた。僕の方が緊張してくるよ。
 
 無事入城を果たし、僕達が案内されたのは王太子一家が住む離宮だった。代々王太子はこの屋敷に住むことになるらしい。王太子が王様になったら、中央の宮に移るんだそうだ。
 それでも王太子宮は立派だった。アクセミア公爵領にある西の離宮も立派だと思ってたけど、それよりもなんというかお城っぽい。高い塔がそれぞれ端の四ヶ所にあるし、大きなバルコニーも見えた。
 僕達は中に案内され、大きな応接間に通された。既に王太子一家が座って待っていて、僕達が入るとレジュノ王子が立ち上がった。

「よく来たな。」

 王太子の歓迎に僕達はそれぞれ挨拶を返していく。
 前回会った時、ラニラルは平民だったが今は立派な伯爵子息だ。ラニラルが名乗るとレジュノ王子は普通に頷き返していた。お茶会の時は平民は触るなって感じだったのに、肩書一つでこうも変わるのかと少し呆れてしまった。
 手ぶらでは来れないので父上が領地で作られるワインを持ってきていた。子供同士では公爵邸の料理人に作ってもらったタルトのケーキだ。

「タルト好きなのか?」

 レジュノ王子に尋ねられて、僕はうんと頷く。なんでかレジュノ王子はソワソワしていた。

「タルトだけじゃなくてお菓子はなんでも好き!でも甘酸っぱいのは苦手。」

「ああ、ベリーとか?」
 
「うん、ケーキに酸っぱいジャムが入ったのは好きじゃないです。」

 意外と王子は気さくに話しかけてくる。
 ソヴィーシャが王子に向かって話し掛けた。

「レジュノ王子、今日は何するんですか?」

「今日は好きな所に連れてってやる。」

 ソヴィーシャと王子は親し気だった。

「仲良かったの?」

 というか知り合いだったの?

「たまにウハン侯爵子息は騎士団に来てるから訓練の時に会うんだ。」

 そうだったんだ!

「滅多に行けない所に行きたい。」

 ソヴィーシャがそう言うが、僕には行ける所も行けない所も分からない。

「とりあえず言ってみたらいい。王宮は広いから回りきれなかったら次回に来たらいいし。」

 んん?招待って今日だけじゃなかったの?
 紙とペンを渡されてしまった。書き出せと?
 うーむ、と僕は考える。僕はここが乙女ゲームの世界ではと考えている。なんのゲームかはさっぱりだけど。もしかしたらお城見たら何かピンと来るかなと思ったけど、なんにも思い出せない。お城なんてみんな似たり寄ったりだしね。
 それならゲームで舞台となる場所に行ってみてはどうだろうかと考えた。
 例えば執務室とか、図書室とか?食堂、騎士団の訓練場とか、主人公がメイドなら仕事に関する場所とか?主人公がメイド時代になんの仕事してたか知らないなぁ。調べなきゃ!

「えっと…、執務室とぉ~、図書室とぉ~……。」

 と呟きながら書き出していく。
 そんな僕の手元に皆んなの視線は集中していた。

「………………。」

「ねぇ、なんで皆んなしてジーと見てるの!?」

 何か言ってよ!

「いや、なんと言うか、独創的だな?」

「字が下手というべきだ。」

「丸々っとしてて可愛い字だよ。」

「あの、俺が清書しましょうか?」

 くっ……話せと言ったら好き勝手言ってっ!
 僕はラニラルに紙とペンを渡した。ラニラルは僕が言う通り書いてくれている。すっごい字が綺麗です。先生のお手本みたいだ。あ、お父さんが先生か!

「執務室は個人でそれぞれあるんだが、流石に子供は入れない。図書室なら今日行けるぞ?食堂?食堂に行かなくても食事なら用意させるが?騎士団は普段ソヴィーシャが行っている所だ。……何故メイドの仕事を見たいんだ?洗濯場とか私でも見たことがないぞ?」

 一つ一つにレジュノ王子は注釈してくれた。

「つまり僕が行ける所はないってこと?」

 ぶずーと頬を膨らませて文句を言うと、王子は慌てた。

「図書室なら立派なのがある。他は許可をとるから待っててくれ。庭園とか温室とかでも案内できる。」

「ああっ!なるほどっ!庭園とか温室っ!あり得そう~~!」

 全員が何が?と首を傾げた。
 僕達はお喋りもそこそこにまずは図書室から行くことにした。






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