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17 神経質男と庭園のクマさん
しおりを挟むひっろ、ひっろ、ひっろぉ~~~いっ!
吹き抜けの天井に壁一面の本。
漫画とかゲームとかでそういう絵は前世で描いてあるのを見たことはあるけど、体感するのとは訳が違う!
本当に広いんだよ!本の匂いがいっぱいするよ!
「うわぁ~何書いてあるのか全然わかんない!」
並ぶ背表紙には幾何学模様がズラーと並んでいる。なんてことはない、この国の文字です。
「おいおい、読めないのか?立派なアルファ当主になれないぞ?」
呆れているのはソヴィーシャだ。
だってまだ練習中だもん。簡単なのなら読めるようになったもん。
日本語で言うと漢字みたいな特殊文字があるから覚えるのが大変なんだよ!特殊文字だらけ~。僕まだ六歳だし!
「読んであげましょうか?」
「ラニラル、甘やかしすぎだよ。」
「そうだ、そこは教えるべきだ。」
勉強は嫌だぁ~。でも来るって言ったの僕だし、図書室にはもう少しいたい。皆んな好きなの見ていいよって言ったのに、レジュノ王子は自分が招待したからって離れなかったし、ラニラルはいつもお側にいますって言う。
結局トコトコと歩き回る僕に四人はついて来ていた。
「あ、ここら辺に動物図鑑あるよ。」
ヒョイとリュハナが話しかけてきた。
「何で知ってるんだ?」
「最近獣医学も勉強してるから。」
リュハナってば、僕との約束守ろうと頑張ってるんだ~。僕の放牧場の管理はラニラルになりそうなのに…。
ラニラルを見たらニコッと笑い返されてしまった。
う、うん……?何故、笑顔。
「おまえら……、皆んな牛と羊飼うの手伝うつもりか?」
「何の話?」
ソヴィーシャの呆れた声にレジュノ王子の声が被った。
「アクセミア領地の公爵家の敷地内に今放牧場作ってるの。」
「何の為に?」
「………わかんない。」
もうね、分かんないね?元々はスローライフの為だったのに、なんだか規模が大きくなってるんだよね……。
「夏になったら領地に戻って試験的な運用を試みます。」
ラニラルが補足説明してくれた。運用はラニラルが計画を立ててるからね。僕は、えーと、事後報告聞いてるね!
「え……、全員領地に戻るのか?」
レジュノ王子は目を見開いて慌てて聞いてくる。
「うん、父上も領地を空けっぱなしに出来ないし、向こうには僕とお父様のボロ屋敷があるもん。長期休みはずっと向こうだよ?」
王子は悲しそうな顔をした。ず、随分ショックを受けたみたい?
「えと、遊びに来てもいいけど…、これる?」
「え、来ていいのか?」
なんだか可哀想で誘ってみた。学院にも入れさせてもらえないくらいなのに実現可能なんだろうか。
「王子は無理では?警護の問題もあるし。」
「公爵家の敷地内なら出来そうじゃない?」
ソヴィーシャとリュハナは真反対の意見だ。
「頼んでみる。」
王子はやる気のようだ。
僕の後ろからチッ舌打ちが聞こえた気がしたけど背後にはラニラルしかいない。……え?ラニラル?
とりあえず動物図鑑を見てみよう~ということになった。
ここって僕の感覚で言うと異世界なんだよね?何気なく羊や牛って言って通じてるけど、不思議動物とかいないのかなとは思っていた。
いつか調べてみようと思いつつ、公爵家でも全然図書室には通わなかったので、ちょうどいいから見てみよう!
「不思議動物っているかなぁ~?」
るんるんしながらページをめくっていると、何故かまた全員僕の手元を覗き込んできた。
う、まぁ、子供あるあるなんだよね?きっと。頭突き合わせて遊んじゃう的な。
「どんな不思議動物探してるんだ?」
王子が尋ねてきた。
「うーん、ん~…ドラゴンみたいな?」
やっぱ異世界と言えばドラゴンじゃない!?
「ぷぷっ、ドラゴンっ…!」
ソヴィーシャが吹き出した。ということはいないのか……。残念。そこっ、笑わないで!?
「ドラゴンをみたいなら童話が置いてある棚の方がいいんじゃないか?」
意外にも王子がフォローしてくれた。偉そうなところはあるけど根は優しいのかな?
「ん~とね、あっ!と驚くような動物が見たい。」
全員があっ!と驚くような動物とは何だろうかと悩みだす。
ヨフミィも動物図鑑をパラパラとめくりながら探してみるが、自分がもつ知識となんら変わりがないことだけは分かった。それに図鑑とは言っても前世でよく聞く名前の動物しか載っていない。象とかキリンとか、この国にいないはずなのに載っている。やっぱりゲームかなぁ~?情報が日本っていうかね。それなのに象の生息地なんてのは聞いたことのない地名だったりする。不思議すぎる……。
ついつい動物図鑑に夢中になってしまったが、読書が要件ではないことを思い出した。
ここがゲームのイベント場所じゃないかなと思ったんだった。
図鑑から目を離して辺りを見回してみるが特に何もない。やはりその時じゃないと意味がないみたいだ。
過去は見れないし、何があってたかも分からないのに来ても一緒なのだなとガッカリした。
「あっ、そうだ!」
ピンと閃いた!
「この図書室にイケメンはいるの?」
全員力が抜けた。
「いや、不思議生物じゃなかったのかよ?」
「イケメン…?顔がいい奴が不思議生物ってことか?」
「イケメンは全般的に不思議な生き物だよねぇ。」
「そんなもの探さなくてもいいのではありませんか?」
「え?違うけど?なんで皆んないちいち意見が分かれるの?」
ソヴィーシャが呆れ、王子が真面目に悩み、リュハナは自分含めて己を不思議生物と言い、何故かラニラルの顔が怖い。
僕は椅子からピョンと飛び降りた。読んでいた図鑑はラニラルが元に戻してくれたので、トトトと図書室の入り口に歩いていく。また四人が後ろをついてきた。
もうこの四人は気にするまい。
僕はここが何の世界かを調べているのだ!そうっ、図書室とは調べ物をする所だよね!
「はっ……!」
いるじゃん~~~っ!年齢的にウチの父上くらいかな?三十歳くらい。
僕の視線を追っていたレジュノ王子は、なんだと呟く。
「図書室管理官長か。」
うわっ、いかにもな感じ!顔もいいし攻略対象になりそう~。ここにきたらあの人が出てくる的なスポットだよ、きっと!
「あの人ってアルファ?結婚歴は?」
「……アルファしか管理職長に就けないからアルファだろうな。結婚歴はどうだったかな……。ないと思う。あの男も母上に惚れてたやつの一人だし。」
「あ~、ないと思う。婚約者の人が王太子妃様に危害を加えようとして捕まったって聞いたし。」
王子の次にリュハナが教えてくれた。
ふむふむやっぱり攻略対象者かぁ。しかも婚約者が暴走していないのか~。婚約者が荒れちゃうくらい何かあったに違いない。
ちょっと神経質そうな人だ。あんな人が図書室にやってきた主人公を本棚にドンッとするの?両手で挟むの?
僕は本棚の影に隠れて図書室管理官長を観察した。しゃがんで膝を抱えて小さくなり妄想する。
「想像できない~!」
一人涎を垂らしてキャッキャとはしゃいでいると、四人は無言で僕を見下ろしていた。
「何が想像出来ないんだ?」
僕の上に影が射す。
「んむ?」
「本棚にドンとは?」
チマっと座り込んでいた僕は伸びてきた両手に挟まれていた。誰の手?あ、レジュノ王子かぁ。………なんで?なんで僕は王子の腕に挟まれて見下ろされてるのだろう?
「こんな所に座っては汚れてしまいますよ。」
ヒョイと両脇を持たれて身体を抱えられる。僕の両足がプランとぶら下がった。
「ほぇ?」
ラニラルが僕を立ち上がらせて洋服を叩いてくれた。
「人が尋ねている時に邪魔するな。」
ムッとした王子がラニラルに噛み付くが、ラニラルは笑って視線を向けただけだった。
「あ~、お前ら、こんな所で争うな。」
「そうだよ。ほら、睨まれてるし。ね?」
あ、本当だ。図書室管理官長がカウンターの奥からジーと見ている。
僕達はいそいそと図書室から退散した。
次どこ?庭園じゃ?などという会話をしながら僕達は庭園へ向かった。といっても王宮の庭園は広い。中央のお城の他にも離宮が沢山あるし、それぞれに趣向を凝らした庭園が造られているので、どこの庭園に向かうかというところから悩まなければならない。
「王太子宮に戻ってもいいが?」
「うーん。」
王太子宮?あ、でも主人公はメイド時代王太子を最終的に選んだのだから、王太子宮のメイドだったのかも?
それとも王城にはここぞという庭園があるとか?
「さっき言っていた温室はどうだ?規模も大きく立派だと聞いている。」
ソヴィーシャが提案した。
「温室って一つだけ?」
それならあり得そう。というかいるかもしれない!
「ああ、城の中には一つだけだが、国内で一番の大きさを誇る。見応えがある。」
「むむ、じゃあ行ってみる!」
僕が行く気になるとレジュノ王子は手を差し出した。
握手?あ、手を繋いで連れてってくれるのか。
手を出されたから手を乗せたらそのまま握って引っ張られた。まぁ、僕まだ六歳だしね。五人の中で一番小さいし。意外と王子はお兄ちゃんなんだねぇ。
るんるんと手を引かれる僕と、ご機嫌で手を引く王子を見て、ソヴィーシャは口を開けてええ~?と見ているし、リュハナはわぁ~と何やら感心しているし、ラニラルは思いっきり無表情になっていた。
皆んな性格が違って面白いよね。
温室は確かに大きかった。見上げるようなガラス張りのドーム型の天井に、花が植えられた階段や勢いよく水を噴き出す大きな噴水があった。植えられた植物や花も色とりどりで綺麗だった。
「すごーいっ!」
中は少し暑いくらいだ。皆んな上着を脱ぎ出した。
「ヨフミィ様も脱ぎますか?」
「うん。」
ラニラルがボタンを外してくれようと手を伸ばした。その手を王子がぎゅっと掴む。掴まれたラニラルは無表情に王子を見返した。
えーと、なんだろう?
僕は無言で見つめ合う二人に挟まれてしまった。
「はいはい、脱ぐぞ。」
ソヴィーシャが近寄って僕の上着をポーンと剥いでしまった。王子とラニラルが二人ともアッと口を開ける。
「そんな神経質にならなくてもヨフミィ様はまだ六歳ですよ。」
リュハナが王子にそう言っているが、年齢になんの関係が?
とにかく上着がなくなりブラウスとベストという格好になり涼しくなった。
「あ、ヨフミィ様、あっちに薬草に使える草花があるらしいよ。」
「へぇ~なんでもあるんだねぇ。」
リュハナに呼ばれて一緒に見に行くことにした。
てくてくと歩いて行くと本当にこれは薬草かなと疑問に思うくらい、綺麗な花壇が広がっていた。
「うわぁ、珍しいのばかりだよ!」
「僕には綺麗な花にしか見えないや。」
リュハナが興奮気味だ。将来医師を目指しているからか薬の材料にも興味があるんだね。
「子供がここまで来るのは珍しいと思ったらロデネオ伯爵家の子息でしたか。」
木の影からヌッと人が出てきた。
わっ、おっきい!凄く身体の大きい人だった。でも顔は整っていて凛々しい感じ。眉毛も太くて男らしいって言葉が似合うなぁ。腕に筋肉が~。きんにく~。
ほわ~と見上げていたらスッとこちらに視線が降りてきた。
ピンと来る。歳は父上より上っぽい。四十歳いくかいかないかぐらい?絶対アルファ!庭師のアルファーーー!
「クマさんは誰ですか?」
「クマさん…?俺は庭園の総管理人だ。」
「庭師のクマさんはいつも温室にいるんですか?」
全員で庭師のクマさん?と首を傾げている。だってクマみたいに大きいもん。
「ああ、大概ここにいるな。設備の調整が難しいから離れられないんだ。」
「ほえぇぇぇ~。」
こういう身体が大きくて腕とか脚とか丸太みたいに太い人って性格温厚で優しいっていうのが定番だよね!
「庭師のクマさんはいつからここで働いてるんですか!?」
王太子妃にゾッコンでしたかとは聞きづらいので、昔からいるのかそれとなく確認せねば!
「ん…?若い頃からいるぞ?」
ヨフミィの突然の質問にも笑顔で答えてくれる。
「庭師のクマさんは結婚してるんですか!?」
「残念ながら昔失恋してね…。」
苦笑する姿が僕に確信を与える!
「ヨフミィ様、彼は庭師のクマさんじゃなくて……。」
リュハナが止めようとしてるけど、僕はここで過去何かイベントが発生してたのか知りたい!
「庭師のクマさんは…!」
べしっと頭を叩かれた。
「うにゃっ!」
「落ち着け、ヨフミィ様。」
酷いよ、ソヴィーシャ~!なんで頭叩くの!
「ヨフミィ、そろそろランチの時間だから移動しよう?」
レジュノ王子が王太子宮に戻ろうと声を掛けてきた。ランチと言われてお腹がグウと鳴る。今日は早起きして朝からバタバタと用意したからお腹が空いてしまった。
庭師のクマさんとは手を振って別れて、またもや王子に手を引かれながら移動した。
「ソヴィーシャ様、何故ヨフミィ様の頭を叩くのですか。主人ですよ?」
「いや、お前も制止しろ?」
「バカになったらどうするんですか?」
「それ既に思ってるよね…?」
「思ってません。」
後ろでなんか失礼な発言が…。いいもん。バカでもいいもんーーー!
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