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23 ちょっと怪しくない?
しおりを挟む過去王太子妃は密猟者に攫われたという狩猟大会。
会場となる森は王家が管理する由緒正しい森で、森の周囲は絶壁の崖や谷、川があり、陸の孤島のような森だった。危ない場所には騎士が複数待機しているし、外から侵入するのは難しそう。
こんな所に密猟者?
ゲームだからそんな無茶な設定が通ったの?
うーん……広い森とはいえ、変わった動物がいるわけでもない。
「本当に昔密猟者が出たんですか?」
テント生活二日目。特にやることもなく僕とお父様はのんびりと過ごしていた。
テント生活といっても、公爵家のテントはちょっとした家並みに広い。
僕とお父様用の寝室がそれぞれあるし、食堂とキッチン、お風呂や居間まである。大きなテントをいくつも繋げて作られていた。料理人や使用人も大勢連れてきているし、彼等が寝泊まりするテントが僕達のテントを守るように並んでいる。
キャンプじゃないよね~。キャンプじゃ。キャンプってもっと自炊するもんじゃないの?こんな至れり尽くせりのキャンプってあるんだろうか。殆ど屋敷で生活するのとなんら変わりがない。
「という話だったよ?僕はその時もテントにいたし詳しくは分からないんだけど…。」
「こんなに警備が行き届いているのにですか?」
お父様はうーんと考えている。伏せられた長い睫毛の奥の薄紫の瞳が綺麗~と見惚れつつ、ヨフミィもうーんと考える。
「あの時は皆んな凄かったんだ。」
凄かった?何が?ヨフミィはキョトンとジュヒィーを見上げた。
「王宮のメイドが…、つまり王太子妃様がいなくなったとアルファ達が興奮しちゃって…。オメガの僕は怖くて外に出られなかったんだよ。」
アルファが興奮って…。つまり威嚇しまくってたってこと?こんな所で、しかも複数人が?
「父上もですか?」
「……うーん…。公爵様は冷静だったかな。気は立ってたようだけど、指揮する側にまわられていたよ。僕のテントにも顔は出してくれたし。」
ほっ…。
あ、なんかホッとしてしまった。
「だから森に入って密猟者達を捕まえたのは王太子殿下だったんだ。周りは止めてたみたいだけど森に入って行かれてしまってね。それで結局王太子妃殿下は王太子殿下と仲が深くなって婚約までされたんだよ。」
お~。イベントだ、イベント。ここで助けに来たやつがアツい!みたいなね。
つまり兵の配備や指揮は父上に丸投げだったってわけか。今とあんまり変わらんよーな?
レジュノ王子が王太子達を反面教師に成長してくれればね~。最近優しくなったと思うんだけどね?
「王太子妃は森に入ったから密猟者に捕まったんですよね?何で森に入ったんでしょう?」
「何だったかな…。散歩?って言ってたかな?眠れなくて森を散策したと言ってたと思うんだけど。」
うわー。なんか主人公~って感じがする!そこで事件に巻き込まれるのなんかシナリオだよね!
「こんな話が楽しいの?」
「はいっ!」
元気いっぱい返事をするヨフミィを、ジュヒィーは苦笑しながら頭を撫でてくれた。
昼食後、お父様は少し寝ると言うのでヨフミィは外に出てみることにした。
護衛にはハーディリがついてくる。
「どこに行かれますか?」
「うーん、子供が遊べる場所があるって聞いたんですけど…。」
それならあっちですよと言ってハーディリに案内してもらった。
おおっ…!
テント群の端っこに柵で囲ってある場所があった。そこにはヨフミィくらいから少し年上の子達までが集まっていた。
結構同じ年頃の子達が来ていたのだなと観察する。
基本ジュースやお菓子は無料提供。頼んだら持ってきてくれるらしい。
貴族の子供が遊ぶ場所なので、なんともお上品だった。ポニーがいて乗馬を教えてもらったり、数人の女性が遊び相手をしてくれるみたい。
どっちも興味ないなぁと悩む。
まだテントでゴロゴロしてた方がいいかなと迷っていると、端っこの方に小動物を触れるスペースがあった。兎がいるのが見えるので、その兎を触っていいよということらしい。でもあんまり人気はなさそうだ。
貴族の子供達だしねぇ~。
誰もいないのをいいことに兎を触りにいく。
「うわぁ、もふもふ。」
兎の毛って気持ちいい。
「事前に視察に入った騎士が生け捕りにしたそうですよ。今後狩りに参加する子もいるだろうから、実物を見せるために放しているそうです。餌をやってたら懐いたらしいですよ。」
野生の兎なのに懐くんだ~。
「事前に騎士が森に入るの?」
「はい、そりゃあ突然貴族の方々に入らせて怪我でもされたら困るので。先に危険な獲物は排除しておくんです。特に子供が入る手前の方は。奥に行けば大型の鹿や猪なんかがいますよ。」
へぇ~。じゃあやっぱり密猟者がいるわけないよね。先に騎士が森の中を見回っているし、ある程度動物を間引いてるってことだよね?密猟するような動物がいるとは思えない。
てことは密猟者というのは嘘?
メイドだった王太子妃を捕まえたのは、密猟者ではない?
「え~?気になっちゃう。」
無意識に呟いたら、ハーディリに何のことかと不思議そうに見られてしまった。
テント生活三日目、護衛という名の監視がとても邪魔です。ハーディリだけじゃなくて、交代で必ず誰かついてくる。
「自由……、自由が欲しい……。」
ずっと誰かに見られてる生活ってかなりヤバい。でも貴族はこれが普通って言われてしまった。お父様見つけるまではほぼ放置で快適だったのにね。
領地のお屋敷なら離れた場所で見守り程度だったし、王都のお屋敷もまだそんな感じだったけど、外では絶対一人にさせられないと背後に三人くらいついてくるんだよ?息が苦しい~。
これならラニラルの馬に乗って狩りについてった方が楽しかったのかな。来年はチャレンジしてみようかなぁ~。皆んな何か捕まえること出来たのかなぁ~。
「ちょっとだけ森に入っても大丈夫ですか?」
過去王太子妃が散策したという森でも歩いてみようかな?
「テントが見える程度の場所ならいいですよ。」
やったぁ!
今ちょっと厳しいハーディリは休憩中。ハーディリ以外の護衛なら融通効くかなぁと訊いてみたけど効果あり!
今は午前の自由時間。というかずっと自由時間だけどね。
お父様は宣言通りテント生活を続けている。本を大量に持ち込んで読み耽っている。僕はそんな生活は頭痛くなるので護衛引き連れて外を散策だ。
お父様は出てこなくて正解だと思う。だって王家専用のテント近くでは、王太子妃が招待するお茶会が毎日開かれているからだ。
毎日毎日お茶ばかり飲んで楽しいのかな?お腹たぷたぷにならない?
公爵家のテントを出て横目で見ながら通り過ぎた時、王太子妃主催のお茶会は派手に行われていた。
横が開けられたテントの下で、影で涼みながら談笑し合う王太子妃達と、忙しそうに給仕して回るメイド達がいた。
何人か男性も混ざっている。どんな人達かは知らないけど、狩りに参加しないとこういった場に呼ばれてしまうんだろう。
お父様は父上が呼ぶなと言ったおかげか隣のテントにいるにもかかわらず招待されていない。お父様にはこんな作り笑いばかり浮かべている場所は似合わない。
アルファはオメガの妻を外に出したがらないらしい。それでも最低限の社交は発生する。王太子妃のお茶会がいい例だ。
大勢集まって、態々持ってきた高級家具を野外に並べ、白いテーブルクロスの上には豪華な食事が並び、笑い声が飛び交っている。
これが貴族と言われてしまえばそうなのかもしれないけど、妖精で天使なお父様には似合わない。
あの中ではお父様は笑えないだろう。
「アクセミア公子様。」
呼ばれ慣れない呼び名で背後から声を掛けられた。振り返ると見慣れない女性が立っていた。少し考えて王太子妃の側にいつも侍っている侍女だと気付く。
「何でしょうか。」
「王太子妃様がお呼びです。」
ヨフミィは溜息を吐いた。何故呼ぶ?まさかさっき通り過ぎてきたあのお茶会に来いってこと?
「……今でしょうか?」
「お茶会に参加するようにとのご命令です。」
相手は王太子妃。王族。
分かりましたと言ってヨフミィは方向転換した。ちょうどいいから訊いてみようかなぁ。
ヨフミィは歩きながらふふんと笑った。
こちらへ、と指示されてヨフミィが座ったのは、王太子妃殿下の隣の席だった。
「アクセミア公爵夫人は体調が優れずお呼び出来ないから子息にお願いしたのよ。」
「そうですか。」
ニコリと笑う王太子妃に、ヨフミィもニコッと満面の笑顔で笑い返す。
はてさてこれは何だろう?嫌味なのかな?お父様が王族を拒否するから、息子が代わりを務めろと?
僕まだ六歳なんですけどぉ?
「将来は私達と共に情報を共有し、国の為に尽力しなければならないのよ。公爵夫人が身体が弱いというのなら、息子である貴方が頑張らないと。」
………何言ってるの?
いろいろツッコミたい!そこまで無理して社交をしなければならない程、公爵家は弱くない。それに公爵夫人が牽引しなくても王太子妃が十分やってるよ?やりたい人がやればいいんじゃない?
よし、反論開始~!
「確かに社交界を把握することは重要かもしれません。夫君方には知り得ない情報がいち早く手に入る場であり、疎かに出来るものではありません。時には派閥の重要な繋がりを作る時もあるでしょう。」
なんてったって我が子の婚約者を選ぶ時、社交界で飛び交う噂で相手が決まってしまうこともあるって聞いたもんね。
あそこの息子さんとあそこの娘さんは付き合ってるのよ~とか、あそこの子は金遣いがぁ~とか。書類には書いていない情報を手に入れられる。時にはあそこの家は借金だらけとか、あの事業は詐欺だとか?聞いて損にはならないって情報がチラホラ手に入る。
しかしお父様には関係ない話だ。
「ご子息はよくご存知なのね。」
「はい、これはお父様から教えてもらいました。だから必要ないのです。」
王太子妃が怪訝な顔をした。
ここには知っている顔がいる。父上は家門の中からベータ夫人に社交界の情報を集めさせているのだと聞いた。
無理にオメガの夫人が出てこなくても、お金の力で人を雇えばいいと考えている。だからこのお茶会にはウハン侯爵夫人もロデネオ伯爵夫人もいない。二人の夫人も狩猟大会には来ているが、たまに公爵家のテントに遊びに来ても、王太子妃の招待にはあまり応じていない。オメガの夫人は体調を理由に欠席することも珍しくないので、二人は適当な理由をつけて参加しないのだ。それに昔自分たちの夫が好きだった人のお茶会とかねぇ?
お父様達が王太子妃の社交界に参加しなくても、家門外にも雇われた情報収集をする人間は大量にいて、今はお父様も集まった情報を必要に応じて精査選別する手伝いをしている。
お父様は外に出なくても情報を握っているということだ。
「常に屋敷にいて外に出ず何も知らないというのは怠惰でしょう?」
「…………王太子妃殿下。僕の父上がお父様は体調が悪いから社交は出来ないとはっきり告げたはずです。怠惰とは関係ないのです。それにお父様には必要ないと申し上げました。」
真っ直ぐ王太子妃の桃色の瞳を見つめて言い切る。レジュノ王子と同じ瞳だろうに、ちっとも可愛くないな!
「私は公爵家の為を思って忠告しているのですよ?」
僕達の会話は徐々に白熱していく。テントにいた使用人がササっとどこかに走っていくのが目の端に見えた。
あ、誰か連れてくるつもり?早く聞き出さないと。
うーん、そうだな…。
「必ず参加しなければ得られないわけではないでしょう。実際お父様は今まで領地にいました。ですが公爵家は問題なく安泰です。社交がなくとも父上はなんでもご存知ですから。」
態と父上をアピールする。
「それはリウィーテル様の能力が高いから……。」
「はい、父上の能力が高いのでしょう。だからつい最近僕が学院で開催したお茶会があるというのに、急遽王宮に呼び出されたのです。それに今回狩猟大会に参加してちょっと聞いたんです。昔王太子妃殿下は森で密猟者に捕まったとか…。その時指揮をとったのは父上なのだと聞きました。是非その時のことを聞きたいです。」
僕は興味津々だと笑顔で王太子妃に顔を近づけた。是非是非その時のことをポロッと話して欲しい!
学院でのお茶会の時の話をすると王太子妃は苦い顔をした。そして過去の話を突然掘り返され狼狽えている。
「あ、あの時は…。偶然…。」
「はい、夜に眠れなくて散策されたのですよね?そのせいで大騒ぎになったとか。父上のおかげで助かったのですよね?王家は何をしていたのですか。この狩猟大会は王室主催と聞きましたが。そんな恐ろしい者達が森の中にいたなんて…。」
少しだけ侮蔑を込めて言ってみた。
王太子妃の顔が赤くなる。王太子妃は自分が王家の一員であることに誇りがあるだろう。お茶会に乗り込んだ時の堂々とした振る舞いが物語っている。だから馬鹿にされたら我慢できないはずだ。
「リウィーテル様だけではありません!鎧を着た者達から救ってくれたのはカティーノル様なのよ!?動物の死骸を集めるような野蛮な者達相手に戦ったのはこの国の王太子ですっ!」
鎧を着た?密猟者が?へぇ~?
王太子妃があの時は怖くてとかもうダメだと思った時に王太子が助けに来たのだとか話しているが、まるッと無視してヨフミィは考える。
慰め役は他の夫人や令嬢がしてくれているからね。
「鎧を着ていたのですね。怖かったでしょうね。重装備の鎧だったんですか?」
念の為にもう一度確認する。
「そうよ!そんな者達が大勢いたら誰だって……!」
「そこまでっ!」
突然会話を止められ全員ビクッと震えた。
ヨフミィも足が震える。初めて感じたけど、これってアルファの威圧だ。
ここにいる全員が顔を青ざめ口を閉ざした。
「エリュシャっ、何を子供に向かって話しているんだ!」
王太子だ。
せっかく良いところだったのに。あの走っていった使用人は王太子を呼びに行ったのだろう。
王太子によりお茶会は解散になった。
「すまない、公子。話を止める為に威圧をかけてしまった。大丈夫か?」
「はい、平気です。ちょっとビックリしました。」
いや本当はかなりビックリした。まだ足プルプルして椅子から降りれない。僕はテントの外に待機していた公爵家の護衛に目配せした。護衛は察して僕の側に近付き手を伸ばしてきたので、そのまま抱っこしてもらうことにする。
「後で詫びを送る。公爵にも伝えておこう。」
「お気になさらず。」
まあ、なんか分かったし?うん、社交ってこういう時に使うんだねぇ。お父様には参加して欲しくないけどね。
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